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新たな出会いと再会
《25》
しおりを挟む次の日、緋縁は皇輝と対面してザワついた心を落ち着かせる為にお昼は1人で中庭で食べることにした。今日は日曜日、明日になったら校舎で見かけるかもしれない。変な反応をしない為にもイメージして心の準備をしたかった。
(あーいい天気だな…)
パンを握りしめ空を見上げる。
イメージをしようとしていたが、連日の緊張感で疲れた心は何も浮かばなかった。ただボゥっとしてしまう。
「わかった!?気を付けてよ!!」
「はぁい、ごめんなさい」
「ふんっ!」
静寂の中庭のはずが生垣の向こうから大きなキツめの声が聞こえた。
「また明日お願いしまぁす……」
カサカサと1人が芝生の上を歩いて遠ざかっていく足音が聞こえた。
「はぁ……めんどくさー……」
そして独り言がボソリと聞こえてしまった。
ゴクリ…
どうやら残った1人は周りに人が居ないと思っているらしい。日曜日に中庭に人なんて、普段ならそうそう居ないだろう。しかし緋縁も誰も居ないと思って来たのだ、タイミングの問題だ。
パンを持ったまま動けない、動いたら音が出て気付かれてしまう。
「どうなろうと知ったこっちゃないっつの」
かなり不満が溜まっているみたいだ。独り言が止まらない。
「マジ自分でやれよ…あぁ…あと2年…長いなぁ」
ブチブチ言いながら緋縁の方へ歩いてくる。アタフタと身を隠す場所を探す。開かれた中庭のベンチのまわりに隠れる場所なんて無い。
ガザっ
ひときわ大きな音がして
「あ"……」
バッチリ目が合ってしまった。
「居たの?……聞こえ…て……た…よね?」
「……は、い……すみません……」
気まずい空気が流れる。
「……ここで、日曜日のお昼に、1人きりで食べてるの?」
「……すみません…」
緋縁は悪いことなどしていないが、謝ってしまう。
こちらに近づいてくる、遠目ではよく分からなかったが、派手さは無いものの整った可愛らしい顔をした人だった。なんだか色っぽい。無表情なのが何故だか色気が有るのだ。
「完全な僕のミス……」
聞こえるかどうかの小声で呟いている。これは多分話し掛けているわけではなさそうだ。じっと見つめてくる。緋縁は何だか値踏みをされている気分になってくる。
(なんだろ…なんで見てくるの?パン飲み込むタイミング逃した…最近タイミング悪いことばっかり)
緋縁は視線を下に外し咀嚼していい物かどうか困ってしまう。変な緊張感があってどうしていいか分からなくなってしまう。ただ中庭でパンを食べていただけなのに…
「僕、親衛隊なんだよね」
ポツリと話し出し、緋縁の座っているベンチの端に座って来た。空気が動いた時に急いで飲み込み、持っていたペットボトルの紅茶を飲む。
「親衛隊って今年入学して来た外部生を手分けして1組ごとにチェックして共有するの」
「はい」
「だから、君を見たことある」
「はい」
親衛隊、佐藤からの話で聞いていた。散々怖がらせられていた。そんな仕事もしているとはびっくりする。
「僕は…生徒会親衛隊。森里葉(もり さとは)」
「俺、は、多咲緋縁です」
「僕は2年…多咲くん、今日は何も聞かなかったって出来る?」
「は、はい俺…何も聞いてません」
「そう、ありがとう……」
里葉と名乗った上級生はベンチに座ってから緋縁を見ずに自分のつま先をじっと見て話している。緋縁も前を向いたまま返事をしていた。
「休日、無闇に人気のない所に行くと面倒事に巻き込まれやすいから…気を付けた方が良いよ」
また、注意を受けてしまった。入学して間もないが2度も同じ事で窘められてしまったのだ。つま先ばかりを見ていた里葉は不意に緋縁の方を見る。そして、驚愕の表情で
「それ、凄いことする人いるんだね」
「え?」
「……耳の後ろ、ごめん見えた…」
バッと手で首を隠す。
「見せつけたいんじゃなかったら、隠した方が良いかも…流石に…」
「で、ですよね~」
(見られたっ見られたぁ……)
緋縁はジワジワと顔が赤くなって来るのが分かった
「この学校ってさ、噂によって生きられたり死んだりするから」
随分と過激な言い方だ。
「そんなに、凄いんですか?」
「うん、噂って一度出ると独り歩きするでしょ?」
「はい」
「その、噛み跡キスマーク。恰好のネタにされると思う」
「キスマーク……」
緋縁はバカみたいに繰り返して意識なく声に出ていた。今までキスマークという単語に行きつかなかった。そう、これは紛れもなくキスマーク、所有の証だ。
「どういう事情があるか知らないけど、隙が有りそうだね。えーと、多咲くん。…僕が親切に注意してるのは、ギブアンドテイクだよ。分かる?」
「はぁ……」
(そんなに隠したいのかな…)
「多咲くん見てると…いっその事その噛み付く人と恋人宣言した方がいいんじゃないの?実際に身の危険が迫るまでぽやんとしてそうだよね…大丈夫?」
声が口の中まで出かかった。ウグッと声なき音が出た気がした。最近は心配される事が本当に増えた。自分はそんなに頼りなく見えるのだろうか…
「だ、大丈夫…です」
声が小さくなる。現に、首にこんなものを付けられてしまっている。反論が出来ない。
里葉に可哀想な目で見られてしまった。
「もうさぁ…ぶっちゃけるとさぁ…面倒なこと起こさないで欲しいんだよね。僕…生徒会の親衛隊なんだけどさ…粛々と仕事こなしたいタイプなの。過激なことするの好きな人っているんだよ…何かと生徒会の皆様に結びつけて制裁したい人達ってさ」
「制裁……」
「あ、そか…外部生だもんね、ピンと来ないかな」
「言葉のニュアンスで想像は…」
「まぁ…平たく言うと痛め付けるって事。さっきもさぁ聞いてたでしょ?ヒステリックな人が上の方なの」
(確かに…怒鳴りつけてた)
「僕が今日の当番で、寝坊しちゃったから悪いの僕なんだけど…あんなに怒鳴らなくてもなぁ…はぁ」
(ストレス溜まってんのかな…やっぱり愚痴が止まらないよこの人…)
「えーと…多咲くん…だよね?髪の毛綺麗な色だね。いいなぁ。僕真っ黒だから…」
イジイジと自分の髪をいじりながら緋縁の髪と自分の髪を見比べる。終始、無表情で視線が下向きの為流し目をしているみたいに見える。瞳だけキョロリと動かすので独特な雰囲気がある。
(何だろう…この人…
なんか色っぽくてドキドキしてくる…)
「あ、ごめん。まだお昼の途中だったね…じゃあ僕は行くよ…くれぐれも、さっきの事宜しくね」
ベンチから立ち上がって寮の方へと歩いて行く。
「あ、学校で見かけても声かけないでね。僕も奥の手ってやつ持ってるから、じゃあね」
緋縁は目をパチパチさせる。なんとも言えない気分になる。
(個性的な人が集まる学校なのかな…)
持っていたパンを見ながら思う。
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