この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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緊張のまいにち

《17》

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 生徒会のメンバーが食堂を利用する時は親衛隊がお世話をしている。甲斐甲斐しく注文を聞き、料理を運ぶ。しかしそれさえも親衛隊の彼らにしてみれば数少ないお近付きになれるチャンスなのだ。親衛隊メンバーの顔には嬉しさが滲み出ていた。生徒会に近付くにはそういった好機に恵まれなけばいけなかった。

 皇輝達が食事をしている隙に緋縁達はサッサっと食べ終え食堂を後にした。

「初日だから生徒会フルメンバーだったけど、夜くらいからあんなに華々しく食堂に来ないと思うよ」
「うん」
「あー明日っからもう普通に授業が始まっちゃうよ~部活も始まるしなぁ」

緋縁に気を使ってくれる井上と違い佐藤は明日からの学校生活に意識を持っていかれていた。

「井上くん、生徒会の人達っていつも何時くらいに食べに来てるとか分かる?」
「えー…どうだろう…早い時間は余り見かけたことないかなぁ?」
「…そっか…ありがとう」

緋縁は今だにフードを被ったままだ。お腹の部分の服をギュッと掴んでいる。

「多咲くん緊張した?確かに生徒会のメンバーって威圧感あるよね。でも所詮同じ人間だよ」

最もな意見であるが、緋縁には通用しない。

(いや、あれは同じ人間ではない)

「今日は色々ありがとう、何か疲れちゃったから部屋で休むよ」

緋縁は薄らと壁を作り自分をさらけ出し過ぎると、いつボロが出てしまうとも限らないので二人と別れて部屋に戻ることにした。

「初日だもんね、またね」
「あぁー俺はこれから部活の集まりあるんだ~またな多咲ー」

パタン

部屋のドアを閉める。寮の部屋は基本的に二人部屋で、建物の廊下から部屋の玄関に入るとリビングダイニングがある、そしてそれぞれの個室に別れている。プライベートもしっかり守られるようになっている。個室は決して広いとは言えないが緋縁にとっては充分だった。寮に足を踏み入れた時にホテルみたいだと感じた。緋縁の家庭も両親が共働きでガッチリ働いているお陰もあって、そこそこ裕福な部類に入ると思うがここの人達は桁違いだった。

 まず中等部と高等部は敷地からして違う。併設されているが、バスで行き来するほどだ。中等部の寮の建物、校舎があり3階建ての体育館がある。その体育館を真ん中にして高等部の校舎、寮の建物が並んで建っていた。
寮の建物と校舎は一度外に出て5分くらい歩く必要がある。空間がゆったりと作られている為である。外観は近代的な校舎と緋縁も感じたホテルの様な寮。裕福なご子息の身の安全を守るために警備システムもしっかりしていた。しかし、血気盛んな若者のはけ口として週一回の外出は認められていた。
中等部と高等部の違いはこの外出の門限にあった。

 「はぁ~~……予想外過ぎて…どうしたらいいんだよぅ…あーー…」

ついつい独り言も出てしまう。

(取り敢えず、当初の予定通りに目立たず、その他大勢に徹して…余り顔隠し過ぎも怪しいよなぁ…逆に目立ちそう。髪は切るのさすがに怖いし…どうしよう…暫く様子見る感じでマスクだけ取っていこうかな。喉の調子良くなってきたし…よしっ)

そう心に決めると、念の為にと持ってきた荷物をゴソゴソと漁ってヘアバンドを探し出した。モソモソと着け前髪をあげる。目の前がスッキリと見える。

(部屋ではこの格好だな。学校意外だとフード被ってれば大丈夫かも…2年生と寮の階違うし)

井上から何度も2年と接点が無いと聞かされ幾分か気が楽なった。しかし、敵は1人では無かった。本日2度にわたり驚愕の事実が有りぐったりと疲れてしまった緋縁だった。

少しの仮眠をし、ルームメイトの田中くんと軽く話、早めの夕食に出た為、生徒会メンバーと鉢合わせることは無かった。翌日からも早めに食堂を訪れようと計画をたて、大浴場もあるが部屋にシャワーも付いているのでそちらにした。本当は頑張って自炊でもすれば、鉢合わせの確率は格段と下がるが、部屋についているキッチンは狭く、料理をする前提で付いていなかった。それに美味しい食事の方が良い。そうして緋縁の長い入学式の一日が終わった。


 バサッ

紙の束が机に叩きつけられた。生徒会長、日高皇輝の手元から見えたそれは新入生の名簿だ。椅子にふんぞり返り、足を組みため息を着く。

(S組は違う、全員持ち上がり組だし少人数だから顔と名前が一致する。AからD組の中で外部生はざっと60人程。各教室に行って確かめても良いけど、それだともし違った場合はそいつの高校生活が不憫だ。地固めして外堀からしっかり固めて言い逃れができなく、物理的にも逃げられないようにしたい。本当に俺の恋人は困った子猫だ…)

皇輝はこれをかなり本気で思っていた。しかし、自分に関わった一般生徒が親衛隊からどの様な扱いを受けるかはだいたい想像が付いていた。この部分については冷静に考えが及ぶようだった。

(彼奴らうるせぇし、こいつらもうるせぇし、風紀もうるさく言ってきそうだしな…)

親衛隊や目の前にいる生徒会メンバー、もしくはキチンと組織として動いている風紀委員も黙っていないであろう。親衛隊は黙らせようと思えば奥の手を使って出来る。しかし、正規の動きをしている風紀委員は頭の痛い問題だ。学園の風紀を守っているが、少々融通が効かなく目の上のたんこぶの時もある。

(さて、どうしたもんかな…)
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