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緊張のまいにち
《16》
しおりを挟む「あれ?何か…周りの雰囲気…さっきと違くないか?」
「あぁ…例の生徒会だよ、そろそろ御目見えでございますよー」
「え!?来るの?ここに?」
「うん、今日はまだ学校の方の食堂やってないから寮の食堂に来たんだろ。あの方達が購買で買って食べるとか想像できないし」
(マ、マジで~会う確率多くない!?)
「あ、ねぇ井上くん…俺、なんかちょっと怖いからフード被ってちゃダメかなぁ」
「…いいんじゃない?多咲くん、怖いの?ビビらせ過ぎちゃったかな?ごめんね…でも近付かなければ何も無いから大丈夫だよ」
井上が優しく言ってくれる、が緋縁としてはバレるわけにはいかないのである。
バサッと素早い動きでフードを被る。自分の視界の両端にフードが見える。耳の周りが守られている感覚がした。
(布一枚あるかないかで心持ちが全然違うんだよ)
『あ、来た来た!生徒会の皆様だよー』
『入学式でのコウキ様のお言葉…痺れたよねー』
(あぁもぅ…何か慣れないって意味分かってきたかも、つーかここは女子高かよ!)
「あのさ…俺入ったばっかだし、生徒会の顔とかまったく、全然、知らないんだよね。だから…トラブルを避けるって意味でちょっと教えて欲しいんだけど…」
「あぁ、そうだよね。じゃあ今が丁度いいね、会長は入学式で壇上に上がってたしインパクトあるから分かるよね?」
「うん、大丈夫…」
「黒い噂のある、いっちばんの美丈夫。会長様、日高皇輝(ひだか こうき)2年S組」
井上が説明を始めると、佐藤が補足説明とばかりにチャチャを入れてくる。
「佐藤、声小さくしろ。んで、入学式で司会してた副会長があのやたら背が高い強面な人。」
「副会長はこの高校にいながら、めちゃくちゃ可愛い彼女がいるんだってさぁ羨ましいよね。そうそう名前は村上 貴一 (むらかみ きいち)2年S組」
生徒会の面々は勢揃いのようで、食堂に入ってきてゆったりと進んでいる。
「次に分かりやすいのは、あのオレンジ髪のチャラそうな人、会計やってる。チャラ男が会計って金使い大丈夫なのかな…」
「いや、井上も私情はいってるから、あの人は鮫島 将 (さめじま しょう)来る者拒まずな下半身がユルいって噂。ちなみに2年S組」
「……え…あ、あの人達…が…せい…生徒会…」
緋縁の戸惑いを他所に井上と佐藤の説明は続く。
「あと二人ね、めちゃくちゃ美人なあの中では少し背の低めな人が書記やってる人。俺は一番近づき難い雰囲気だと思ってる」
「もぅ男子高での一輪の花って感じだよね~最初見た時女王様かと思ったよ~名前は美丘 弥菜 (みおか やな)儚げだよね~2年S組だよ~」
「最後は唯一の1年生、中等部在学中に生徒会にスカウトされたちょっと金髪っぽい人、隣の教室だから見ること結構あるかもしれないけど、この中では普通っぽいよな」
「鈴木 修次 (すずき しゅうじ)、中等部の時にちょっと喋ったことあるよ。俺んとこの部活に顔出してたからさぁ。喋りやすいよ。庶務って言ってたかな…確か、パシリだって言ってた」
「以上5人で生徒会様。2年生とは関わりないと思うけど、近づかないにこした事はないね」
「………………」
緋縁は目線を逸らせないでいた。テーブルの上にある手は握りこぶしをギュッと作っていた。
入学式ではとにかくアイツしか目に入っていなかった。その後はずっと下を向いていたので他の生徒会メンバーの顔をほとんど見ていなかった。見ていても認識出来ず、記憶に残らなかった。
「…多咲?」
「っ!あ、うん。ありがとう」
「直ぐに全員覚えられないかも知れないけど、インパクトある外見してるし、歩いてると周りが騒がしいからすぐに分かると思うよ」
「うん」
井上が色々と言ってくれているが緋縁は生返事になってしまう。
(間違いない…あの二人…アイツの部屋で見た黒龍の人達だ……マジかよ……)
緋縁は自分の進路の決断を呪いたくなっていた。
「つかさ、さっきから井上の言い方がさ、生徒会に対して冷たくね?」
「気のせいだろう…勘違いしてるバカみたいな髪色だなんて思ってない」
「いや、そこまで言ってなかったし…。井上、背中気をつけろよ…親衛隊の地獄耳はこぇーからな」
ますます食欲が無くなる緋縁であった。
「会長、今日はやけに周りを気にしてないか?」
食堂に到着した生徒会の面々は、ゆったりと自分たち専用のパーテーションで囲まれた席に座る。普段、会長の皇輝は生徒会室に食事を届けてもらうことの方が多い。人の目と仕事の効率と生徒会特権で配達して貰っている。副会長の貴一は会長の皇輝の様子が普段と違うと気が付いていた。人の居るところを通り、辺りを見回す仕草が多いのだ。
「気分だ」
「左様ですか…」
一刀両断な答えに、いつもの事だと諦めた返事をした。皇輝はそれ所ではなかったのだ。なにせ何も手がかりが無かったサキの髪色に似ている子を見かけたのだ。この半年、恋焦がれた存在のサキ。いちるの望みでも期待をしてしまうのはしょうがない。いつでも無意識に探していたサキの面影、あの手触りの良い髪をもう一度触りたい。あの小柄な身体を抱きしめたい。募る思いは溢れそうだ。
(1年のはずだ、見たことないからきっと外部生。あの髪色は染めてできるとは思えない。しかも地味な風貌をしていた。それが引っかかる。サキはあんな格好をするか…でも、今まで気にかかったことなんて無い。確かめるだけでも…)
「なぁんかぁ…心ここに在らずって感じぃ?最近やっとサキちゃんの事、落ち着いてきたと思ってたんだけどぉ~…」
ギロリ、物凄い眼力で皇輝に睨まれるオレンジ髪のチャラ男、鮫島将。
「将さんっサキさんの事は禁句ですよ!」
1年の鈴木修次がコソコソ言ってきた。
「いつまで引きづってんの…ウザい、キモい」
辛辣な物言いは美人な美丘弥菜だ、ここで5人の関係性が垣間見えた。
「うるさい、俺の事は放っておけ」
(俺だってこんな熱い気持ち、知らねぇよ…実際参ってんだよ。くそっ)
「はーい会長様~総長様~皇輝様~。自分で怯えさせといて面倒臭い…」
およそ儚げな雰囲気からは想像出来ない言葉が弥菜から次々と溢れ出る。皇輝の名を呼ぶ時は棒読みである。頬杖をつき、呆れてますと言ったポーズで辛辣に話す。
「弥菜、ここは学校だ。物言いには気をつけろ」
いかにも一本筋がスっと通った感じの貴一が弥菜に注意をする。
「はいはい、分かってますよ」
やれやれと弥菜が気怠げに返事をする。
「でもさぁ…この学校でも俺らが夜を徘徊してチームやってるって知られてるよ~そんなピリピリしなくても良くない?イッチー」
「その呼び名は辞めろ、特に学校では辞めろ。体裁を保て。曲がりなりにも生徒会、生徒の代表で有り模範だぞ」
「あ"ぁ~分かった!真面目くん分かったよ!…ったくキヨちゃんに悪評聞かれたくないからってさ。本当に夜とは言うことが違いますねっ」
「あ!キヨさんって彼女さんですね。羨ましいなぁ」
「この朴念仁の何が良いんだろぅねー」
貴一の事をイッチーと呼ぶのは将しかいない。黒龍の中でも噂になっている貴一の彼女を羨むのは修次だ。そしてやはり辛辣な感想は弥菜である。
やいやい言う生徒会メンバーを気にするでもなくパーテーションから見える食堂を皇輝の視線は忙しく、あの栗色の髪を探している。
『今日の生徒会の皆様、楽しそうだね~』
『コウキ様がこっちを気にかけて下さってるぅ』
どんな内容の話をしていようともきゃあきゃあ言われることは変わらないようだった。
(まだ食べに来ていないのか?今はいないようだな…新入生の名簿は顔写真が付いてないしな…)
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