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すべてのはじまり
《9》
しおりを挟む当然のように一悶着あったが、あのまま無事就寝し翌朝、緋縁は普通に帰ろうと思っていた。が、熱がさらに上がり、本当に苦しくダルくなり帰れなくなってしまった。2日目、コウは緋縁に付きっきりで看病した。それはそれは甲斐甲斐しくウザったいほどに…
緋縁はこの時自分の家庭環境を呪った、1日でも帰らないと大騒ぎするような家庭ならば、あるいは見つけて貰えたかもしれないと期待できた。しかし実際の緋縁の家庭環境は、共働きの忙しい両親で、たまたま夏休みに入った少し前から長期出張に出掛けていた。望みはない…両親共々出張が被るなんて普段は無い、何という呪わしいタイミングなのだろう。
しかしながら、コウの家庭環境はどうだろうか…普通あれだけ騒げば家の人が怪しまないのか?コウが怖くて何も言えないのか、はたまた、見て見ぬふりか、放置か、あるいは……最悪…一人暮らしか…それだとここから逃げ出す術が無くなってしまう、どうしよう、どうしよう、、、
熱にうなされながら、緋縁はドンドン追い詰められ、最悪な想像ばかりしてしまう。緋縁がうなされれば、それだけコウがベッタリと看病する悪循環が出来上がっていた。
3日目、熱が下がり大分身体の調子も良くなった緋縁はこの家に来て初めてダイニングの椅子に座っていた。考えが当たっていたようで一人暮らしみたいだ。コウが傍から離れることがなく隙もないため大人しくしていた。
「お腹空いた…」
「今出してやるから、いい子に座ってな」
ニヤリと笑われる。緋縁は恥ずかしくて下を向く、今の緋縁の格好がムズムズしてじっとしていられないのだ。昨日まではベットに寝ていたし、ダルくて格好なんて気にしていなかったが、さっき気づいたのだ、コウの大きめの長袖Tシャツをまるでワンピースのように着せられていたのだ。下はコウのパンツを短パンのように履いている。所謂、彼シャツ状態でコウのニヤケが止まらないのだ。当然、全てブカブカで丈は長いわ肩は出そうだわ萌え袖になるわ…見る分には眼福だが、見られる方としてはたまったもんじゃない。恥ずかしくて叫びたい衝動に駆られる。
「早く…俺の服返して…これ…もぅ…これ…」
しかも緋縁は恥ずかしがっている、好きな子のこの状況、楽しくてしょうがないに決まっている。
「俺の者って感じ満載で頭から食べてやりたい」
「ご飯にしませんかっ!」
身の危険を感じた緋縁は、間髪入れず喋り出す。
「だ、誰かさんのせいで、まともにご飯食べてないので!お腹空いちゃって空いちゃって…あ、あぁここは一人暮らし?なんですか?こ、黒龍の集まりとか行かなくていいんですかぁ~?…はは」
「そんなに、大丈夫だよ。ちゃんと食べさせるから、あんまり可愛いことばっか言ってんなよ」
テーブルに美味しそうな食事が出てきた。
「作り置きの余り物だけど…何か食いたいものがあればリクエストして、持ってこさせる」
(そうでした、総長様でした…しかも良さげな部屋、これはボンボンだな…いちいち癪に障るな)
とりあえず食べ物に罪はない、美味しく頂く。
(ふぁ~食べた…美味しかった…坊ちゃん宅はいい物食べてらっしゃるのね~ふんっ)
嫌味を心の内に留めて、ふとコウを見る。緋縁に甘いが、総長様に変わりない、怖いのだ。面と向かって限度がすぎれば痛い目にあうかも…と自然とお口にチャックがされる。
コウはとろけそうな程甘い甘い甘ったるい視線で緋縁を見ていた。要らぬ心配をしているかも…
「そんなに見ないで貰えますか…」
「無理だ、可愛いすぎるお前が悪い」
「そこまでっ…そんな言われる程のもんじゃないし、俺は…あ、あんた…コウ…さん…の方が」
「ん?俺の方が?何?…ふふ…そういう所が可愛いんだよ。俺のもんかと思うと何でも許せそうだな」
「え!?俺、断りましたよね?え?あれ?…あなたの物になった覚えないんですけど…だってあれは無理矢理だった…」
「それさ、本当に俺が無理矢理?確かに強引だったけどさ、今こうしてのんびり飯食うなんて、もう許してるようなもんじゃないの?認めなよ」
ガァーン!!
頭を殴られたかと思った程の衝撃を受ける。許せない気持ちはずっとある。酷いし怖かった、確かにこんなゆったりした時間を一緒に過ごすなんて変だ。でも見過ごせない犯罪まがいの事をされているのも事実だ。緋縁は自分の気持ちが分からなくなりそうだった。ここで認めるなんて絶対にないことは分かる、早く家に帰りたい、しかしもっともっと怒っていいはずなのに、自分は何をやっているのだろうか…
ひくっ…シャックリが出る。
「認めない!許す分けない!付き合わないっ」
「…ふーん…そうなんだ………だったら〖うん、付き合う〗って言うまでたっぷり可愛がってやろうかな?」
(ひぃぃっつ、ついにフルボッコ!?)
コウが向かい合わせて座っていた位置から隣まで来る、頬と耳、髪を撫でながら
「今度はじっくり気持ちよくなろうか」
ニッコリと笑ったのだ。
一瞬後に、バッと弾かれたように手を叩き払いガタッと椅子から立ち上がり脱兎のごとく部屋の外に出ようとドアに走る。閉じられた扉のドアノブに手をかけたその時、ガシッと緋縁の手をドアノブごと上から掴まれる。ダンッ!と大きな音を立てもう一方の手を壁に叩きつける。緋縁はその小さな身体をコウの大柄な身体に包み込まれたようだ。緋縁は固まるしかない。耳元に口を近づけ
「逃げると思った」
ビクッ…吐息と共に声が直接耳の中に入り込んでくる。カリッ耳を舐めながら軽く噛んでくる。掴まれていた手が腹に回りぎゅっと抱きしめてくる。緋縁は視線すら動かせずにじっと自分の手を見つめ続ける。
「悪い子には、お仕置が必要だよなぁ?」
壁にあった手が緋縁の顎を捕え視線が合うように後ろに向かせられる。
「なぁ?…サキ?」
獲物を前にし、狩りを舌なめずりしながら楽しんでいるオオカミの目だ。緋縁はさしずめマルっと食べられてしまう恐怖に支配された羊。
ひょいと又してもお姫様抱っこで寝室に連れていかれる。ドサッとベットに下ろされ、すかさず上にのしかかられる。緋縁は恐怖のあまり完全に固まっていた、総長なるべく総長である姿をしかと見た気がした。
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