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すべてのはじまり
《4》
しおりを挟む意識が浮上する。
(あ…あれー…俺、いつ寝たっけ…ん~)
目を開けると見たことの無い天井が見えた。
もう一度目を閉じる、そして瞬きひとつ。
やはり知らない天井が見える。
ドキンッ
(え…え…ぇ…)
全身が冷えたような嫌な感覚がし、その時サラリと髪を撫でられた。
「起きたか?」
目の前にコウの顔が見えた。髪を撫でたのはこの男だ。ドキドキと心臓が音を立てる。どんどん身体が冷えていく。理解が出来ない。
「…ふっ、もっと高飛車な猫みたいな奴だと思ってたけどな…」
(何を言っているんだこの男…い、今のこの状況はなんだ!?)
緋縁は今、知らない部屋のベットに寝ている、そして傍らには黒龍の総長コウが自分の髪を撫でているのだ。
訳が分からない状況の緋縁は恐怖と緊張でただただコウを見つめるしか出来ないでいた。
「サキ…お前…誰かと付き合ってるのか?」
「……へ?」
もうパニックだ。コウの意図が読めなくて顔を見つめ続ける。コウの手が髪から頬へ移り優しく撫でる。
緋縁は気絶していく時、次に目を覚ますのはきっと倉庫とか埃っぽい場所を想像していた。ズタズタに殴られてボロ雑巾のように捨てられるのだろうと思っていた。
しかし、現実はホカホカとしたフカフカのベットで目を覚まし、殺気に満ちた目付きか嬉々として殴ってくるコウではなく、何処と無く優しげな目と手つきだった。
「恋人だよ、彼女とか…いないのか?」
(何で、そんな事聞いてくるんだ?……っは、まさか、恋人の存在を盾に取られて、言う事を聞かないと…ってやつか!?)
緋縁は緊張で声が咄嗟に出ないのでフルフルと首を横に振った。
「…ふーん…彼氏も?」
「ふへぇ!?か、彼氏?お、俺に??」
びっくりして少し大きめの声が出てしまった。
「ガードの奴らとか…ちげぇーのか?」
「ち、違う、いない誰とも付き合ってない…な、何で彼氏…俺男だし…」
じっと探るように見つめてくるコウ、目つきは少しキツくなったが、手つきは優しいままだった。緋縁は、少し声を出せた事で思い切って聞いてみることにした。
「あ、あの…ここって…」
「俺の部屋」
「え…と…なん、何で…」
あとの言葉が続かなかった。なんと尋ねれば機嫌を悪くさせないでいられるだろうか。
ギシッと今まで床に座っていたコウがベットに腰掛けた。ぐっと顔が近づいてきて
「だったら、俺と付き合わないか?」
緋縁は目を大きく広げて固まる。
「………は、はぁ?」
「最初は面を見るだけのつもりだった。お前、すげぇ噂されてるからさ…こんなに可愛いなんてな…」
スリスリと頬から耳、顎までを掌、指先で撫でられる。緋縁はますます言葉を失った。言い寄られた経験はあるが、こんなにハッキリと、間近で口説かれた経験はなかった。自然と顔に熱が集まってくる。自分が拉致された意味がほのかに見えてきたようだ。しかし、気絶をさせられるとは信じ難い事だ、彼の言葉を鵜呑みにしても良いものか困惑する。
「単純にどタイプだ。俺の者にしたい、俺の者になれよ。こんなに欲しいと思ったのはサキ…お前が初めてだ」
片手で撫でられていたが両手で顔を包まれる。鼻と鼻がつくほどの距離に迫られ、熱い息がかかる。いっその事キスされた方が恥ずかしくないんじゃないかと思ってしまう近さで目を見つめられる。
「さ、さっき…初めて…会ったばっかり…で」
「関係ねぇ、俺が欲しいと思ったんだ」
(ん?いやいやいや…な、流されるな俺!)
勇気を出して発した言葉に被せるかのように言われる。熱っぽい視線に流されそうになるが、ここで頷いてしまえば、取り返しのつかない事になりそうだと頭をフル回転させ、自分を叱咤激励させる緋縁。
元々憧れていた人物に熱く迫られ、非現実的な状況が霧掛かった夢のようだと錯覚してしまいそうだが、相手は不良。夜の街に馴染むチームの総長だ。聞きたいことや、突っ込みたいことは山ほどあるが、穏便に帰る道を探す。
「あ、…ご、ごめんなさい…俺…」
「好きな奴でもいるのか?」
ゾクッと寒けのする視線に変わる。
(ひ、ひぇぇ~~…これじゃあ脅されてるみたいなんだけどー!怖い~)
またしてもフルフルと首を振るのが精一杯だ。
「なんの問題もねぇ俺の者になるな?」
(頷けない、頷いちゃ駄目だっ…イ、イチの忠告聞くんだったぁ~…)
「ほ、本当に…む、む、む…無理なんです…俺…恋愛とか分かんないし、誰とも……付き合うとか…かん、考えた事ないし…」
「…まじか…」
(あ、分かってくれた?)
やっぱり、人間話し合えば分かってくれるとホッとした緋縁だったが
「まっさら…て事?」
(…ん?
「え?まっさら…?」
「ヤバい…マジかよ…ヤバ…」
コウの目がギラギラとしてきた
(え?な、何?なになに…こ、怖い怖い)
緋縁は余りに経験がなかった、同級生の中でも幼い考えで恋愛とは自分とフィルターが1枚隔てている、そんな感覚でどこか現実味のない絵空事の出来事だと思っていた。
目の前には欲情した男の顔があって、そういう対象として見られ、自分の身にそんなセクシャルな事が降り掛かってきているとはどうしても実感出来ないでいた。
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