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プロローグ
《2》
しおりを挟む入学式が無事に終わり気がつくと教室に帰ってきていた。ぼぅっと惚けたままだったようだ。
「なぁ多咲ー大丈夫?何かずっとボケっとしてっけど?」
また声をかけてきたのは、先程と同じく佐藤だった。
「あ、え…あ、うん、だ、大丈夫…」
「担任鈴井だってーあ、鈴井先生って真面目そうに見えるけど、結構いい加減で、でもそれが丁度いい感じで、まぁとにかく当たりな先生なんだよ」
「そうなんだ…」
この佐藤という生徒は情報を次から次へと教えてくれる。
「な、井上~」
「…何?お前外部生ナンパしてんの?」
緋縁とは違ってクールでカッコイイメガネをした井上と呼ばれた生徒が言う。
「ちっげーよ~ボッチしてて、心細そ~な雰囲気出てたから声かけてたの」
「お前ねー…言い方が…ふぅ…
オレは井上、よろしく、見ての通り持ち上がり組、佐藤ってちょっとウザイかもしれないけど悪い奴じゃないから」
「なんだよそれ~外部生ってかなり戸惑うこと多いだろうからさぁ」
「あ、いや有難いよ。俺は多咲っていうの、よろしく…俺、人見知りだから声かけてもらって助かったよ」
「だってさ、クラスメイトと親睦を深めてるだけですよ!」
「まぁそうだろうけど、確かにここは慣れるまでちょっと掛かるかもな」
訳知り顔で納得する井上を見て、緋縁は入学式前の佐藤の言っていたことを思い出していた。
「あ、それさ…聞いてもいい?ここの学校って普通と違うの?全寮制ってのは変わってるっちゃ変わってると思うけど、聞かない話じゃないし…他に何かあるの?」
恐る恐るといった風に聞いてみた。
「んー…なんて言ったらいいか…元々金持ちとか権力者みたいなお偉いさんが集まってこの学校作ったんだよ、でさーその息子とかーそれっぽい家の奴らが入るじゃん?で、寮じゃん?繁華街からそんなに遠くないけどあんまり出られないじゃん?男ばっかじゃん、だからここの中でどうにかしようとなる訳よ」
「え、な、何が?」
「説明としてはざっくりし過ぎだろう!」
『はーい席につけー
ホームルーム始めるぞー、とりあえず、入学式お疲れ~担任の鈴井だ。まぁ詳しい事は各教科の先生から説明あるだろうし、持ち上がり組は大丈夫だろう。外部生はパンフレットと入寮の時の書類よく読んでおけよ…
まぁーこんなもんか?ん~とりあえず、1人ずつ名前呼んでいくから返事しろよ』
ガタガタと生徒たちが慌てた様子で着席していく間にも構わず話し始める担任教師、鈴井。確かに見た目は真面目そうなアイテムのメガネもしているが、いい加減な態度である。
空いた口が塞がらない…怒涛のように進んでいく説明不足の情報とホームルーム。緋縁はついていくのが精一杯で、目眩がしそうだった。
(情報過多だ…何だよこれ…外界から隔離された安全な居場所だと思ったのに…もぅ嫌になってきた)
考え抜いて決めた道のだったはずが、不安しか感じない高校生活の予感いっぱいで、半泣き状態だった。
『それじゃぁ今日の所は終了って事で、明日も遅刻しないで来いよ~はい、さようなら』
(終わった…終わっちゃったよ…色々全部、モヤモヤしたままだよっ)
「悪い悪い、鈴井タイミング最悪だったよなーさっきの話、分かった?」
「分かるわけないだろっ本当に佐藤も先生もいい加減なんだから…佐藤の爽やかスポーツマン風の見た目に騙されないようにね。
そんで、さっきの佐藤の分かりにくい説明に補足させてもらうとさ、色んな興味の対象が学園内の同性になるって事。尊敬や友情だけじゃなくて愛情もって事。要は恋愛感情も…」
「そう、それそれ、それが言いたかったの、外部からだとびっくりかなぁ~?って」
「しかも生徒会にはファンクラブみたいな親衛隊もいる。一種のアイドルだな」
(ひ、ひぇぇ~…なんじゃそりゃ…)
「えと、せ、生徒会?」
「そうそう、生徒会には要注意だねっ!マジ近ずかない方が身のため!親衛隊がオッカナイんだよ~」
「この学校ってさ、生徒会がほとんど仕切ってるっていうか、運営の一部を任せられてて権力すげぇの。見た目もいいだろ?んでS組だし一般生徒からしたら特別な崇める対象って事になるんだよ…だからトラブルを避ける意味で関わらないのが一番だな」
「そ、そういう事…ありがとう頭に入れとくよ」
(は、はぁ!?崇めるって…い、いやいや絶対に近ずかないから大丈夫!!むしろこっちが願い下げだわっ!)
「…なぁ…気ぃ悪くしたらすまん、その格好ってさ、何?顔隠してんの?あー花粉症?んー…ちょっとさ…怪しく見えるから…」
ギッックゥゥ~~~!!
それはそうだろう、マスクをしてメガネをして髪の毛が伸び放題、目の下あたりまで前髪が来ている。見た目が重要視されるこの学校では怪しいはずだ。清潔感もない。
「あ、あの、こ、これはさ…えと、マスクは風邪引いててさ…えと、髪の毛何だけど…これは…その…軽く、聞いて欲しいんだけどさ…
俺、受験終わったくらいから体調崩しまくってさ…多分気が抜けたんだと思うんだけど…入退院繰り返しちゃって、髪の毛切るとかそれどころの話じゃなくてさ、いい加減邪魔なんだけどタイミング悪くって…んで、目ぇチクチクするしパソコン用のメガネなんだけど…やっぱ、あ、怪しい奴だよな…ハハ…」
たどたどしくはあるが、一気に説明した。引かれてしまうのではないかと怖い気持ちもあるものの、誤解はされたく無かった。
(けど…あながち顔を隠しているってのは嘘ではないから…心苦しい…)
「…な~るほど、そっかー大変だったんだなぁ…もう大丈夫なの?」
「うん、それはもう。元々そんな弱いわけじゃ無かったんだけど…色々と…ごちゃごちゃしてて…入院とか初めてしたし」
「ふーん、素顔は美少年ってお決まりのパターン?」
井上が疑いの眼差しでみている。
「は!?び、美少年?…いや、普通、だと思うけど…ソコソコデスヨボクは…」
「いや、何でカタコトなの…ねぇ見してっ」
「改まって見せるもんじゃないと思うけど…別にいいよ」
ここには生徒会のアイツもいないので惜しげも無くマスクをずらし、メガネを取って前髪を上げる。本当に普段は隠している意味は無いのだ。むしろ顔に掛かってウザったいくらなのだ。
「童顔って言われるから余り自分の顔好きじゃないんだけどね…」
「いや、美少年だわ!お綺麗な顔してるわ!」
「お綺麗なって…そんな事面と向かって言われた事…」
(…あった…あったじゃないか…めちゃくちゃ褒められたことあるじゃん…い、イヤイヤ無い。無かったことにしよう)
「はぁーそんな容姿してたら普通にモテるだろ、この学校じゃ余り目立つようなことしない方が良いかもな…」
「…ま…ぁ…全くモテなかった…訳じゃないけど…俺としては意図しない方面からというか…目指すところと違う容姿で…うん…」
「ままま、とりあえず、寮に帰ろう。俺さぁ荷物片付け終わってないしさぁ腹減ってきたんだよね~部屋帰りたい」
佐藤がお腹を擦りながら訴えてきた。
「自由人めっ」
井上が冷たく言い放つ。
教室内では各自帰っている生徒もいれば、高校生になったと浮き足立つ者もいてガヤガヤとしていた。
「多咲は?もう部屋片ずいてる?つか何号室にいんの~?」
佐藤は遠慮なく聞いてくる、しかし人見知りの緋縁にとってある種図々しい聞き方は助かる。
荷物をまとめて帰る準備をし、3人で寮に向かう。
「荷物少ないし、ほぼほぼ片付けた。えーと312号室」
「多咲くん、佐藤は部屋に入れない方が良いよ。幸い俺は同じ部屋じゃないから良かったけど、居座ってうるさいから」
佐藤と井上は仲が良いのか何なのか、この歯に衣着せぬ物言いが2人にはバランスが良いのか…
「多咲ー早く顔出て来て。眼福~目の保養~」
ニコニコと佐藤は言ってくる。
「え、いやここならもっとキラッキラした人達いっぱいいるじゃん、特に生徒会とかさ…」
(まずい、自分から話を振ってしまった。でも探りを入れるにはいいかも、自然な流れだったかも)
「多咲くん生徒会に興味あるの?」
「ちょっと違うんだよな~同じクラスにいるってのもいいしさぁ」
もう佐藤の話しは聞き入れて貰えないらしい。独り言となっている。
「えーそんな凄いなら、ちょっとは気になるよ、そういえば入学式で声掛かっててびっくりした、学校間違えたかと思った」
「ははっ確かに、面食らうよな。生徒会はオールマイティな人種がなるんだよ。学力、家柄、容姿、人望、人柄?原則S組の人達、中でも会長は桁違いだな」
「へー…人柄…」
緋縁は思わず、死んだ目のようになってしまった。
(ふぅん、あのクソ野郎が人柄~…へーぇー世も末だな…ふんっ)
「その会長ってそんなに凄い人なの?」
「あぁリーダーシップが凄い、日高グループの次男で人望も本当に凄い、男が憧れるってやつ?イケメンだし、色んな意味でお近ずきになりたい奴らがワンサカいるらしいよ。あ、でも何かちょっと黒い噂も…」
「あれだろ?夜の街に出没してるってやつ、俺もそれ聞いた事ある」
佐藤が割って入ってきた。
「それな、中学の時の同室の奴が噂好きでさ色んな情報聞いたんだけど、何でも血眼になって人を探してるって」
「怖いなぁ~半殺しにでもされんの?つーか井上以外と口軽いなぁ」
「軽いうちに入らないだろ、ただの噂だし、俺レベルに入ってくる話だぞ?」
ゴクリ…緋縁は生唾を飲み込んだ。
さが…し…て…る…って…
「多咲?」
「あ…だ、誰探してるの?」
「さぁそこまでは、ただ、めっちゃ探してる、とか荒れてる、とかそんな噂」
嘘だろ…まさか…な…半年だぞ…まさか…
まさか…
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