上 下
38 / 93
1部

第37話 館に宿りし魔力とは?

しおりを挟む
「――というわけで、僕はあなたをお客様として丁重におもてなしいたしますよ。覚悟してくださいね」

 そう言うと、ペピートは退室していった。
 この館の客間にいるのは私ひとりになる。

(うーん、物腰のやわらかそうなペピートに『覚悟してくださいね』とまで言われるとは思わなかった)

 それにしても、今日は本当にいろんなことがたてつづけにあった。
 私は、ラウレアーノ先生に「お風呂に入ってぐっすり眠る」ことをすすめられているんだった。
 いまからさっそくお風呂に入ろう! そして、入浴後は、もう寝ちゃおーっと。

(でも、そのまえに……)

 私はお風呂に入るまえに、もう一度この部屋をみまわしてみる。
 カーテンもテーブルもベッドも、やっぱり可愛い。
 聖兎愛好家集団の巫女と呼ばれる女性たちがこの部屋のお風呂を使うということは――。

 ひょっとして、巫女装束 (この国の正式な巫女装束とも違うらしいけど) とやらが飾ってあるのかも? と思ったけど、それらしきものはなかった。
 どんなデザインの巫女装束なのかは、謎のままだけれど、もうお風呂に入ろう。

(浴室はこの部屋のカーテンの先にあるってペピートが言っていたよね)

 部屋の扉からは遠い位置にカーテンはある。

(さっき初めてこの部屋のカーテンをみたときは、カーテンをあけると窓があるのかと思っていたけど、お風呂だったとは……)

 室内をお風呂めざして移動していると、なぜだか、ふと、ついさっきペピートから告げられた言葉を思いだした。

『ラウレアーノ先生もよろこばれていましたよ。先生はロエル様が子どものころからの主治医ですからね』

 今日私を診てくれたラウレアーノ先生は、ロエルの子どものころからの主治医の先生だった。
 ラウレアーノ先生とロエル――。

(子ども時代のロエルかぁ)

 きっと、それはそれは可愛いお子様だったんだろうな。
 童話にでてきそうな、ちいさな王子様っぽい雰囲気の顔だちやムードだったのかも。

(そういえば――)

 ロエルの子どものときの姿を、なんとなく想像していると、なぜだか『そういえば』という言葉が思いうかぶ。そして……。

 ツキーンと、私の頭に、痛みの感覚が走った。

(何だったの、いまの感じ……)

 奇妙に思ったけど、幸い頭痛はすぐに やんでくれた。

(なんだか不可解だけど、気にせず入浴することにしよう)

 カーテンの前まできた私は、のれんをくぐるようにして浴室に入っていく。


 カーテンを開けるとそこにはバスタブ。そして、脱衣所と洗面所と思わしきスペースもあった。

(ミルク色のバスタブ……可愛いなぁ)

 バスタブのとなりの脱衣所スペースには、ちゃんとタオルらしきものもかけてある。
 これは体を洗うためものというよりか、浴槽からでたら体をふくためのものっぽい。

 だってタテヨコの長さが、大きなバスタオルくらいある。
 これがバスタオルだとしたら、私がいた世界のバスタオルよりかなり薄いけど……。
 厚いタオルじゃないのは、きっとこの布も、魔力を秘めた布、魔布《まふ》なんだ。
 吸水力、すごそう。

 さっそくお風呂に入ろうと服を脱ぎ、バスタブに近づく。
 館に宿った魔力が準備してくれたそうだけど、お風呂の温度の『熱い、ぬるい』は、だいぶ個人差がある。

 まして私は、この世界とは別の世界からやってきた人間。
 まずは湯加減をたしかめてみるため、バスタブに手を入れようとした、そのとき――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ずっとあなたが欲しかった。

豆狸
恋愛
「私、アルトゥール殿下が好きだったの。初めて会ったときからお慕いしていたの。ずっとあの方の心が、愛が欲しかったの。妃教育を頑張ったのは、学園在学中に学ばなくても良いことまで学んだのは、そうすれば殿下に捨てられた後は口封じに殺されてしまうからなの。死にたかったのではないわ。そんな状況なら、優しい殿下は私を捨てられないと思ったからよ。私は卑怯な女なの」

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。 寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。 「こりゃあすごい」 解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。 「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」 王太子には思い当たる節はない。 相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。 「こりゃあ対価は大きいよ?」 金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。 「なら、その娘の心を対価にどうだい」 魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

処理中です...