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第7話 アイテムの持ち主に選ばれた理由が、なんというか、その……(1/2)

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「いったいティコティスは……どこまで、私がここにくるまえにいた世界について知っているの? たしかに私は、ティコティスの言う『別の世界』から、精霊さんに、この世界に『とばされて』しまったみたいなの――。もしかして、ティコティスも『精霊』なの?」

 私が会った、池の精霊さんは、人間とおなじような姿形をしていた。
 ティコティスは、うさぎのすがたをしているけれど、精霊全員が人間みたいな容姿をしているとは限らないんじゃないかな。
 池の精霊さんは、人の心を読むことができるのは、ごく一部の精霊だけだと言っていた。

 だとすると、人の心が読めなくても、ティコティスも何かしらの精霊とか?
 可能性は高いかも。

 ……だって、私をこの世界にとばしたのは、精霊さん。
 そしてティコティスは私を『別の世界』から『とばされ』たのかと聞く。

(しかも、わりと普通のテンションで)

 目のまえにいるティコティスも、精霊なのかも……。
 私がそう思ってしまうのも、ある意味当然かもしれない。
 そんな私の問いに、ティコティスはサラリと答えた。

「ぼくはセイレイじゃないよ」

「えっ……。じゃあ、ティコティスは――」

「ぼくはセイレイじゃなくて、セイジュウだよ」

 精霊ではなくて、精獣。
 獣の精みたいな意味?
 それとも聖獣。聖なる獣 (ユニコーン的な生物ってこと?) という意味?
 頭の中が、はてなマークでいっぱいの私に、ティコティスが言った。

「ぼく自身はセイレイじゃないけど、セイジュウとして、きみがいま困っていることがあったら助けになれるかもしれないよ」

「ほんとっ!」

 私は、くい気味に返事をした。
 だって、いきなり別の世界に送られて、『別に困っていない人』って、滅多にいないと思う。

 そして、ティコティスは私が別の世界――私からみたら異世界――に、とばされたことを知っている。
 日本語は通じるし、味方になってくれるのなら心強い。

 ……まあ、ティコティスのことを「心強い」とだけ思うわけには、いかない面もあるけど……。
 なぜって、ティコティスのやさしげだけど、のほほんとした対応には、若干の不安もある。

(「大変だっ! 別の世界から人間がとばされてきた!!」ではなく、「こんにちは~」からの「別の世界から、とばされてやってきた人間だよね?」だし……)

 ティコティスのことは、いいうさぎだと信じているけど、うさぎの常識と善悪は、人間のそれとはズレている気がする。
 人だって、国や時代がちがえば常識は変わる。
 善悪の基準にいたっては、国や時代がいっしょであっても、個人個人でかなり差があると思う。

 人間同士でさえそうなんだから、どうみたって異なる種族のティコティスに、私の持っている常識がそのまま通じる可能性は低いはず。
 私はティコティスの親切心に期待しすぎて、あとで自分がガッカリしないよう心に決めたうえで。

 いまの自分の状況――なんで、ここにいるのか――を話してみた。
 なるべく手短に、簡潔に。

 今日、私はあやまって池に落ちてしまった。
 すると、その池の精霊だと名乗る女性があらわれて、私と問答。
 彼女は「唯花は死んだわけじゃない。でも、異世界に送ってあげる」と言い、私は気づくとこの場所に……。

 ティコティスは私の話を興味深げに聞いている。
 ときどき、フムフムと相づちをうちながら。
 ひととおりの説明を終えた私に、ティコティスはしみじみと言った。

「そっかー。大変だったね」

「うん、今日一日で何度ハラハラドキドキしたことか……」

 私の言葉をさえぎるように、ティコティスは、やや唐突にしゃべりだした。

「そうだっ! 唯花に、これをあげるね」

 ティコティスは首まわりに、ちょこんとした前足をまわし、自分が首にしていた何かをはずした。
 いままでフサフサの毛におおわれてみえていなかっただけで、どうやらティコティスは、ずっと首にチョーカーのようなアクセサリーをしていたみたい。

(うさぎさんだし、体には何も身につけてない、人ならばハダカの状態でうかんでたのかと思ってた)

 はずしたばかりのチョーカーを私にさしだす。

「……ティコティス、これは?」

「みてのとおり、チョーカー。唯花とぼくが友達になったしるしだよ」

「ありがとう。でも、私に合うサイズかなぁ」

「たぶん、大丈夫だよ」

 ティコティスはクリっとした目をキラキラさせて、「つけてみて、つけてみて」と瞳で、うったえてくる。
 そんなに期待をこめられた目でみつめられると、ことわることなんてできない。
 ティコティスは「大丈夫だよ」なんて軽く言うけど、本当にサイズはあうんだろうか。
 平均的な体型の二十代女性 (私) と平均的なサイズのうさぎ (ティコティス) とでは、首まわりの長さがちがうんじゃない?
 リボン結びする、ヒモでできた長めのチョーカーならともかく、目のまえのチョーカーは金属製のようにみえる。
 さらにいえば、金属でできているけど、中央部分にはオレンジ色に光る石がひとつ、はめ込まれていて、チョーカーの両端についている留金でとめるデザインになっているみたい。
 あ、もしかして、ある程度のサイズの誤差なら、調節できるつくりになってるのかな。
 私はティコティスからチョーカーをうけとり、ためしに自分の首につけてみる。
 パチン、と留金がはまり、途端にオレンジ色の石がはめ込まれたあたりから1メートルほどの光のすじが放射状になって輝く。
 周囲がまばゆい光で、きらめく。

(な、何……これ!?)

 ほんの数秒のできごとだったけど、私がおどろくには充分だった。
 しかも、私がチョーカーをつけたことによって起きた変化は、まだあった。

 つけた瞬間、私の頭から何かが抜きとられたようなヘンな感覚がした。
 軽いめまいとともに、まるで、脳から記憶がシュッなくなるような、奇妙な感じ。

 記憶がなくなる?
 ……いやいや、私、べつに記憶喪失には、なってないよね。
 ためしに私は今日起きたことを思い返してみる。

 今日、私はあやまって池に落ちてしまった。
 すると、その池の精霊だと名乗る女性があらわれて私と問答。
 彼女は「唯花は死んだわけじゃない。でも、異世界に送ってあげる」と言い、私は気づくとこの場所に……。

 ほら、さっきティコティスに説明したとおり、ちゃんとおぼえてる。
 もっとくわしく言うことだってできる。

 私の名前は睦月 唯花。
 公園に行くまえは会社で今日の業務をこなしていた。
 この会社に勤務するのは今月まで。
 仕事の引き継ぎは無事に終わってる。

 公園に行った理由は健太郎と待ちあわせをしていたから。
 その健太郎にはフラれてしまった。

(思いだすのも、なんかシャクだけど、健太郎に面と向かって別れを告げられたんじゃなくて、スマホで『もう別れよう』って言われたんだった)

 思い返したくないことまで頭によみがえってきちゃったけど、これは私の記憶がはっきりしている証拠でもある。
 そうなると――。
 チョーカーをつけたとき感じた、自分の頭の中から記憶が抜け落ちるような、奇妙な感覚は、いったいなんだったの?

 私の記憶はちゃんとしているのに。
 不可解さのあまり、私はティコティスに、うったえかけるように質問する。

「これは何なのっ……!?」

 ティコティスは、いままでとおなじく、ほのぼのムードをただよわせたまま言う。

「おめでとう、唯花」

「へ……? 何が?」

 ティコティスは、口角をあげてニッコリほほえむ。

「ぼくの思ったとおり、唯花はチョーカーの新しい持ち主に選ばれたよ」

「選ばれるも何も、……ティコティスが私にくれるって言ったんじゃ……」

「うん! 唯花ならきっと大丈夫だとぼくは思ったから。でも、最終的な判断は、チョーカーに、はめ込まれた魔石自身の意思にゆだねられるから」

――魔石。

 また、ファンタジーっぽいものがでてきた。
 魔法の力を持つ石ってこと?
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