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3章

観光にやってきたわけじゃないはずが

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 世田谷ボロいち。東京都の無形民俗文化財――440年以上もの歴史を持ついち

 今日のわたしは興常おきつねさんといっしょにボロ市に来ていた。
 通称『ボロ市通り』と呼ばれている、ボロ市が開催されている通りを進んでいけば、じきに代官屋敷に到着し、そして、通りをでて、少し歩けば今度は世田谷城というお城の城跡にたどりつくという。

 さらにその近くには、招き猫発祥の地のひとつといわれる豪徳寺があるそうだ。
 区内観光をするためにやってきたわけじゃないけれど、行っておきたい場所がいろいろだ。

「ボロ市は夜になっても開催してるなら……暗くなる前に代官屋敷や城跡。豪徳寺にも行ってみたい」

 わたしの提案を興常さんは快諾してくれ、わたしたちは代官屋敷、城跡、豪徳寺と めぐることになった。

(これだけ複数の、歴史ある場所をめぐれば――わたしは興常さんに関することをもっと知ることができるかもしれない)

 今、わたしの隣に立っている興常さんは、和服を着た人間の姿をしているけれど、彼はキツネのあやかし。
 あやかしである興常さんは、何百年前から生きていて、まだボロ市という名称ではなかった昔のボロ市にも訪れたことがあるそうだ。

 今日1日で、何か手がかりがつかめますように――。
 と、わたしは希望に燃えていた……のだけれど。

 まずは世田谷代官屋敷。代官屋敷は表門をながめるだけじゃなくて、敷地内に入ることができて(立ち入り禁止のところもあるけど)、広い庭を歩いていくと屋敷内には区立の郷土資料館もある。
 資料館の入口の付近には、だいぶ前につくられたんだろうなって感じのキツネの石像がいくつもあった。でも――。昔からこの場所にあった石像というわけではないといった内容が書かれたパネルがそばにあった。

 むしろ興常さんは、庭の木々をしみじみとみつめてた。
 もしかして、前にもその木をみたことがあるの? って、聞いてみたけど、興常さんは「いや、そうではない」とわたしの質問をやさしく否定した。

(うーん、この代官屋敷の敷地は、日本建築も近代建築の資料館も庭の木々も趣があって素敵だけど、興常さんの過去を知るヒントはなかったような)

 そのあとわたしたちは、城跡と豪徳寺に行った。
 世田谷城の土塁と堀の一部が残る城跡、世田谷城址じょうし公園でも、招き猫発祥の地のひとつ、豪徳寺でも。

(……手がかりらしい手がかりは、みつからなかった!? あれっ、わたし、普通に観光しちゃっただけ?)
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