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3章

ペアになってる? どういうこと??

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「――サキ、サキ!」

 興常さんと2人で世田谷ボロいちに訪れているわたしが、ある露店の前で考えごとをしていたら――。横にいる興常さんがわたしの名前を連呼する。
 ……いったい何だろう? というか、わたしが考えごとに没頭してたから今の今まで気づかなかっただけで、けっこう前から興常さんはわたしのこと呼びかけてた?

「どうしたの? 興常さん」

 興常さんがなぜわたしを呼んでいるのか、わからないまま返事をする。
 彼はホッとしたような ため息をつき、つぶやく。

「気がついたか、サキ」

 ……わたし、ちょっと考えごとをしてただけで意識を失っていたわけじゃないんだけど……。
 でもまあ隣にいる相手が何かを黙々と考えているようで、呼びかけても答えなかったら不安になるよね。

 ただでさえ興常さんには、心配性なところがあるから。あやかしなのに。
 そう、興常さんは今は人間の若者の姿をしているけど、キツネのあやかし。
 わたしは彼の過去をもっとくわしく知りたくて、今日このボロ市に来ている。

 それで、ついつい いろいろ考えこんじゃったんだ。この露店に並べられたキツネの置物を見ていたら自然と。

「ごめんね、わたし、ちょっと考えごとしてただけなんだ。あ、興常さん、何かわたしに話しかけてた?」

 だとしたら、その内容はまったく頭に入ってない。
 興常さんはかぶりを振った。

「いや、私ではなくこの店の店主がサキに用があるそうだ」

 ……この露店の店主の人が、わたしに用? ますます『いったい何だろう』だ。
 わけがわからないまま、わたしは向かい側にいる店主と思わしき男性に顔をむけた。

(えっと、わたしに何のご用でしょうか)と思いながら。

 店主であろう男の人は、わたしにすこぶる明るい笑顔をみせ、話しかけてきた。(興常さんの話によれば、すでにこの男性はわたしに話しかけたみたいなんだけど……わたしは気がついていなかった)

「お姉さん、ペアになってる置物を探してるのかい?」

「……ペア?」

 店主の人の質問の意図がよくわからず、反芻はんすうしてしまう。
 男性は言葉を続けた。

「ほら、お姉さんはファンシーグッズのキツネよりも、ついになった稲荷のキツネのほうをじっくりみてたからさ。お姉さんがご利益がありそうなものを探してるならいいんだけど、そうじゃなくてペアやカップルになった置物が、デートの記念にほしいんなら、こっちとかこっちもいいと思ってね」

 彼は、わたしと興常さんのそばからはちょっと離れた位置に並んでいた置物をひょいひょいと移動させる。わたしたちの真ん前に、いくつもいくつも。

 というか――。
 デ、デート!? わたしと興常さんはデートしてるわけじゃないよ。
 そもそもカップルって、デートの記念にペアやカップルになった置物を買うものなの? アクセサリーとかじゃなくて?
 恋人ができたことのないわたしには、そこら辺の事情はよくわからないけど。

(……でも……)

 わたしの目の前に置かれた、置物はどれもとても可愛かった。
 人間のカップルの置物も、動物(コグマとかネコとか)のカップルの置物も。
 その中でも、わたしの目をひいたのは――。

 3頭身の小さな男の子と女の子が仲よく並んでる、磁器でできた10センチくらいの置物だ。
 やさしくあたたかい作風でみているだけで、ほっこりしてくる。

 雰囲気としてはオランダの民族衣装を着た幼い男の子と女の子がチュ! ってキスしてる民芸品。あの小さな恋人たちの雰囲気に似ているかな。
 この置物は、キスはしてなくて、よりそっているだけだけど、ほのぼのとした仲むつまじいムードがただよってきた。
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