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3章
さまざまなキツネたち
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冬の寒空の下――。
わたしと興常さんは、世田谷ボロ市に来ていた。
平日の昼間でも大勢の人でにぎわっている中、わたしたち2人は、ある露店にズラリと並べられた置物をみていた。
和・洋・中さまざまなデザインの置物たち。サイズも大小さまざま。素材だって陶器、ガラス、木、セルロイド、プラスチック、ソフトビニール等々さまざま。
かなりの年代物の骨董品にみえるものもあれば、昭和や平成に流行し今でも人気なキャラクターの置物もある。
わたしが目をとめたのは、キツネの置物。
こちらも大きなものから小さなものまでサイズはいろいろ。見た目もいろいろ。
1980年代製ファンシーグッズと手書きのポップに書かれた、メルヘンチックなイラストを立体化にした雰囲気のキツネの置物もあれば、稲荷神社でみかける、対になったキツネの像とよく似た外見の置物もある。
神社でみるようなキツネの置物は陶器製で、サイズは10センチぐらいと小さい。
(そういえば……興常さんと初めて会ったのも、近所にある神社だったな)
そんなことをふと思いだし、わたしの視線は露店の置物のキツネたちから、隣に立っている興常さんへと移動する。
今、わたしのそばにいる興常さんは、和服を着た人間の青年。
わたしと目があい、彼はにっこりほほえんだ。
……この状況、イケメン男子が笑顔をうかべたようにしかみえないけれど、興常さんはキツネのあやかし。
キツネの姿にも人間の姿にも簡単になれるのは、彼が高い神通力を持つあやかしだから、らしい。
『らしい』としか言えないのは、興常さんは自分や自分の過去を詳細には語らない。
知られたくないから……というより、興常さんはわたし、谷沼 紗季音のことを『記憶喪失中のあやかし』だとカンちがいしてて……。わたしに過去の話を一挙にすれば、わたしがパニックを起こす可能性があるかも、だからゆっくり自然に――わたしが記憶をとりもどしていくのをみまもっていくつもりだという。
わたし、記憶喪失じゃないよ。あやかしでもない、ごく普通の人間だよ。そう何度言っても興常さんはわたしを『自分があやかしであることも忘れ、人間だと思いこんでいるあやかし』なのだと思っている。
(そんな興常さんだけど、何百年も前に『1年間だけ恋人のあやかしと人の世で暮らしていたとき』もボロ市に訪れたってことは話してくれた。それがいつのことなのかは……おそらく16世紀後期から19世紀前期のあいだなんだろうってだけしか、今のわたしにはわらなくて――)
こんな風にわたしが隣にいる興常さんに話しかけるでもなく、悶々といろいろなことを考えていると。
「――サキ、サキ!」
興常さんがわたしの名前を連呼してる。……何だろう?
わたしと興常さんは、世田谷ボロ市に来ていた。
平日の昼間でも大勢の人でにぎわっている中、わたしたち2人は、ある露店にズラリと並べられた置物をみていた。
和・洋・中さまざまなデザインの置物たち。サイズも大小さまざま。素材だって陶器、ガラス、木、セルロイド、プラスチック、ソフトビニール等々さまざま。
かなりの年代物の骨董品にみえるものもあれば、昭和や平成に流行し今でも人気なキャラクターの置物もある。
わたしが目をとめたのは、キツネの置物。
こちらも大きなものから小さなものまでサイズはいろいろ。見た目もいろいろ。
1980年代製ファンシーグッズと手書きのポップに書かれた、メルヘンチックなイラストを立体化にした雰囲気のキツネの置物もあれば、稲荷神社でみかける、対になったキツネの像とよく似た外見の置物もある。
神社でみるようなキツネの置物は陶器製で、サイズは10センチぐらいと小さい。
(そういえば……興常さんと初めて会ったのも、近所にある神社だったな)
そんなことをふと思いだし、わたしの視線は露店の置物のキツネたちから、隣に立っている興常さんへと移動する。
今、わたしのそばにいる興常さんは、和服を着た人間の青年。
わたしと目があい、彼はにっこりほほえんだ。
……この状況、イケメン男子が笑顔をうかべたようにしかみえないけれど、興常さんはキツネのあやかし。
キツネの姿にも人間の姿にも簡単になれるのは、彼が高い神通力を持つあやかしだから、らしい。
『らしい』としか言えないのは、興常さんは自分や自分の過去を詳細には語らない。
知られたくないから……というより、興常さんはわたし、谷沼 紗季音のことを『記憶喪失中のあやかし』だとカンちがいしてて……。わたしに過去の話を一挙にすれば、わたしがパニックを起こす可能性があるかも、だからゆっくり自然に――わたしが記憶をとりもどしていくのをみまもっていくつもりだという。
わたし、記憶喪失じゃないよ。あやかしでもない、ごく普通の人間だよ。そう何度言っても興常さんはわたしを『自分があやかしであることも忘れ、人間だと思いこんでいるあやかし』なのだと思っている。
(そんな興常さんだけど、何百年も前に『1年間だけ恋人のあやかしと人の世で暮らしていたとき』もボロ市に訪れたってことは話してくれた。それがいつのことなのかは……おそらく16世紀後期から19世紀前期のあいだなんだろうってだけしか、今のわたしにはわらなくて――)
こんな風にわたしが隣にいる興常さんに話しかけるでもなく、悶々といろいろなことを考えていると。
「――サキ、サキ!」
興常さんがわたしの名前を連呼してる。……何だろう?
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