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2章
第15話 リンちゃん、お食事中
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沢樫荘201号室のダイニングルーム。
わたしは、同居相手である興恒さんとリンちゃんの3人で夕ご飯の真っ最中。
本日の献立として丸テーブルにならんでいるのは、白カブと鶏肉の具だくさんうどんスープ。卵焼き。プチトマトと豆腐のサラダ。
つくったのは、興恒さんだ。
今わたしの向かいにすわっている彼は、人間のイケメンにしかみえない外見をしているものの――、興恒さんは妖狐と呼ばれるキツネのあやかし。
今日のメインメニューはうどんだけど、興恒さんは和食だけじゃなく、さまざまな外国料理もつくれちゃう。
(わたし……今はまだ料理がうまくつくれないけど。料理研究部にも入ったし、わたしもおいしい食事をつくれるようになりたいなぁ)
興恒さんがつくってくれた夕飯を食べながら、そう思っていると――。
わたしの右隣にいるリンちゃんがいきなりしゃべりだした。
『オキツネサマのつくった料理は、やっぱり最高っす~!!』
リンちゃんは、燐火と呼ばれる青い火の玉。今はテーブルの上でプカプカと浮かんでいる。
ちょっとくぐもった声だけど、人の言葉を話すから、わたしとも難なく会話できる。
「本当に、興恒さんのつくる食事はおいしいよね!」
相づちを打つわたし。
「そうか、そうか。サキもリンもわたしの料理をうまいと思うなら、これからもどんどんふるまうぞ。遠慮なく食すがよい」
自作の料理を食べながら、ご満悦な様子でわたしとリンちゃんをみつめる興恒さん。
数週間前から続く、沢樫荘201号室では何度となくくりかえされた、なごやかで平和なやりとり。
……だけど、人の姿になり、人と同じように物を食べる興恒さんとは違い、青い火の玉の見た目をしたリンちゃんのお食事風景は――単なる人間であるわたしからみると、かなり変わっている……と思う。
リンちゃんが食事するところを初めてみたときなんて、そりゃあもうおどろいたもの。
まあ、リンちゃんからみたら、人間が食べ物を口にする姿のほうが変わってみえているのかも、しれないけど……。
『オキツネサマの手打ちしたうどんは、今日のスープにとてもよくあうっす! 白カブのまろやかさも絶妙っす!! それから、それから……』
興恒さん作のうどんスープの感想をいいながら、リンちゃんは食事を続ける。
人だったら、食べるかしゃべるかどちらかにしなさいと言われてしまうかもしれない。
だけどリンちゃんの食事のしかたなら、話すことと食べることは同時進行が可能だ。
火の玉のリンちゃんには、口らしきものは見当たらない。
今リンちゃんは、体中で食事をしている。……どういうことかというと――。
リンちゃんの食事方法。見た目は、フランス料理の料理法として有名な『フランベ』そっくりなんだ。
みた感じが似てるだけで、システムは違うとは思うんだけど……。
『カブと鶏肉の組みあわせは、具材としてもスープのエキスとしても、おれっちの好みド真ん中っす~!』
言いながら、リンちゃんはうどんの入った器を5センチほど浮かびあがらせ、器ごと、リンちゃんの青い炎のようにみえるボディで包みこむ。
その様子は、さながら料理にアルコールをそそぎ、火をつけ、火柱《ひばしら》をあげさせているよう。
見た目のインパクトは大の、お食事方法だ。
普段は10センチ程度の大きさのリンちゃんなのに、食べたいと思ったものを包みこむときは、それが自身の体よりだいぶ大きなものでも、包みこめちゃう。炎がいきなり大きくなるように体が巨大化する。
『あ~、おうどん、とってもおいしかったっす!』
リンちゃんの言葉と同時にうどんを入れたまま浮かんでいた器は、ストンとテーブルに着地した。
器の中は空っぽ。麺も汁も、もう入っていない。
ここも、リンちゃんの食事中の様子はフランベを連想させるものの、実際のフランベとは大きく異なるところだ。
フランス料理のフランベが、火柱のあがったあと、あとかたもなく料理が消えてしまったとしたら……こまっちゃうものね。
(今日もリンちゃんの食べっぷりは豪快だな)
慣れとは恐ろしいもので、初めてみたときはとてつもなくおどろいていたリンちゃんの食事の様子を、いまやわたしは日常の1コマとして、みつめていた。
うどんスープをたいらげたリンちゃんは、次は卵焼き、その次はサラダをその身に包みこんでいく。ぶわっと青い火柱があがったような光景が続く。
ここはアパートのダイニングルームなのに、まるでレストランみたい。
すべてを食べ終えたリンちゃんの体は、いつものサイズ――10センチほどの大きさの火の玉――にもどった。
食事を終了したリンちゃんの全身は、普段よりもツヤツヤピカピカ光っている。
リンちゃんは、彼がおいしいと思うものを食べたとき、通常よりもまばゆく輝くらしい。
わたしは、同居相手である興恒さんとリンちゃんの3人で夕ご飯の真っ最中。
本日の献立として丸テーブルにならんでいるのは、白カブと鶏肉の具だくさんうどんスープ。卵焼き。プチトマトと豆腐のサラダ。
つくったのは、興恒さんだ。
今わたしの向かいにすわっている彼は、人間のイケメンにしかみえない外見をしているものの――、興恒さんは妖狐と呼ばれるキツネのあやかし。
今日のメインメニューはうどんだけど、興恒さんは和食だけじゃなく、さまざまな外国料理もつくれちゃう。
(わたし……今はまだ料理がうまくつくれないけど。料理研究部にも入ったし、わたしもおいしい食事をつくれるようになりたいなぁ)
興恒さんがつくってくれた夕飯を食べながら、そう思っていると――。
わたしの右隣にいるリンちゃんがいきなりしゃべりだした。
『オキツネサマのつくった料理は、やっぱり最高っす~!!』
リンちゃんは、燐火と呼ばれる青い火の玉。今はテーブルの上でプカプカと浮かんでいる。
ちょっとくぐもった声だけど、人の言葉を話すから、わたしとも難なく会話できる。
「本当に、興恒さんのつくる食事はおいしいよね!」
相づちを打つわたし。
「そうか、そうか。サキもリンもわたしの料理をうまいと思うなら、これからもどんどんふるまうぞ。遠慮なく食すがよい」
自作の料理を食べながら、ご満悦な様子でわたしとリンちゃんをみつめる興恒さん。
数週間前から続く、沢樫荘201号室では何度となくくりかえされた、なごやかで平和なやりとり。
……だけど、人の姿になり、人と同じように物を食べる興恒さんとは違い、青い火の玉の見た目をしたリンちゃんのお食事風景は――単なる人間であるわたしからみると、かなり変わっている……と思う。
リンちゃんが食事するところを初めてみたときなんて、そりゃあもうおどろいたもの。
まあ、リンちゃんからみたら、人間が食べ物を口にする姿のほうが変わってみえているのかも、しれないけど……。
『オキツネサマの手打ちしたうどんは、今日のスープにとてもよくあうっす! 白カブのまろやかさも絶妙っす!! それから、それから……』
興恒さん作のうどんスープの感想をいいながら、リンちゃんは食事を続ける。
人だったら、食べるかしゃべるかどちらかにしなさいと言われてしまうかもしれない。
だけどリンちゃんの食事のしかたなら、話すことと食べることは同時進行が可能だ。
火の玉のリンちゃんには、口らしきものは見当たらない。
今リンちゃんは、体中で食事をしている。……どういうことかというと――。
リンちゃんの食事方法。見た目は、フランス料理の料理法として有名な『フランベ』そっくりなんだ。
みた感じが似てるだけで、システムは違うとは思うんだけど……。
『カブと鶏肉の組みあわせは、具材としてもスープのエキスとしても、おれっちの好みド真ん中っす~!』
言いながら、リンちゃんはうどんの入った器を5センチほど浮かびあがらせ、器ごと、リンちゃんの青い炎のようにみえるボディで包みこむ。
その様子は、さながら料理にアルコールをそそぎ、火をつけ、火柱《ひばしら》をあげさせているよう。
見た目のインパクトは大の、お食事方法だ。
普段は10センチ程度の大きさのリンちゃんなのに、食べたいと思ったものを包みこむときは、それが自身の体よりだいぶ大きなものでも、包みこめちゃう。炎がいきなり大きくなるように体が巨大化する。
『あ~、おうどん、とってもおいしかったっす!』
リンちゃんの言葉と同時にうどんを入れたまま浮かんでいた器は、ストンとテーブルに着地した。
器の中は空っぽ。麺も汁も、もう入っていない。
ここも、リンちゃんの食事中の様子はフランベを連想させるものの、実際のフランベとは大きく異なるところだ。
フランス料理のフランベが、火柱のあがったあと、あとかたもなく料理が消えてしまったとしたら……こまっちゃうものね。
(今日もリンちゃんの食べっぷりは豪快だな)
慣れとは恐ろしいもので、初めてみたときはとてつもなくおどろいていたリンちゃんの食事の様子を、いまやわたしは日常の1コマとして、みつめていた。
うどんスープをたいらげたリンちゃんは、次は卵焼き、その次はサラダをその身に包みこんでいく。ぶわっと青い火柱があがったような光景が続く。
ここはアパートのダイニングルームなのに、まるでレストランみたい。
すべてを食べ終えたリンちゃんの体は、いつものサイズ――10センチほどの大きさの火の玉――にもどった。
食事を終了したリンちゃんの全身は、普段よりもツヤツヤピカピカ光っている。
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