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2章
第8話 これって、特別な行為にあたりますか?(1/2)
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大学から、アパート 沢樫荘への帰り道。
薄暗がりの大通りで、わたしは自分と向かいあっている興恒さんに、ある質問をしようかと思っていた。
その質問とは――。
興恒さんたちあやかしのあいだでは「大福を贈ることには何か特別な意味があったりするの?」って。
だって興恒さんは、わたしが彼を大切にしているそぶりなんて特にみせていないのに……わたしが興恒さんを大切に思っている、なんて急に言いだすんだもの。
おどろいちゃったよ。
そもそも、あやかしである興恒さんの発言に、出会ったころはびっくりしてばかりだった。だけど、とある事情でいっしょに暮らすようになってからは――。だいぶ彼の突拍子のない言葉にもなれてきたと思ってたのに。
(……いくら今は人間の姿をしているといっても、興恒さんは妖狐と呼ばれるキツネのあやかし。人とは異なる存在――)
人の常識とあやかしの常識は違うことが多い。
それは、この数週間、興恒さんとの同居を通して身にしみている。
今日のわたしは興恒さんに向かって、『あなたを大切に思っています』的なことは全然言ってないけど、さっき買った苺大福を興恒さん、そして燐火と呼ばれる青い火の玉、リンちゃんにもあげるよとは言った。
そしたら興恒さんは
『サキは、私のこともリンのことも、大切に思ってくれているのだな』
と、ご発言。
これはやっぱり、わたしの予想(大福をあげる行為は、あやかしにとっては特別な意味をなすことなのかもしれない)が当たっている可能性があるよね。
ただでさえ興恒さんは、わたし、谷沼 紗季音のことを『あやかしである記憶を失い、自分を人間と思いこんでいるタヌキのあやかし』だと信じているし。
わたしが何度、自分はただの人間でタヌキが変身しているわけじゃないと訴えても、興恒さんは『なくした記憶はゆっくりあせらず取り戻せばいい。私とふたりで』ってスタンス。
興恒さんがわたしとカン違いしてるタヌキのあやかしの娘さんは、彼の恋人だけど数百年間(!?)会えずにいるらしい。
わたしが大福をあげると言ったことで興恒さんは、
『サキは記憶を取り戻してはいないものの、私を大切に思っていることは確信できた』→→ということは→→『サキは、私を愛する心を完全に取り戻したのであろう。あとは記憶か――』
なんていうふうに考えを飛躍させてるのかもしれない。
興恒さんって思い込みが激しくて結構単純な面があるから。
(やっかいで めんどくさい事態になる前に、あやかしのあいだでは大福をあげることに意味があるのか、やっぱりちゃんと聞いておかないと!)
「興恒さん、あやかしのあいだでは大福を贈るって行為に、何か意味があったりする?」
わたしの質問に興恒さんは即答した。
「特にそのようなことはない。少なくとも、私は聞いたことがない。それより――」
あれ、そうだったの!?
じゃあ、なんで興恒さんは、わたしが興恒さんを大切に思っている――なんて言ったの?
自分はものすごいイケメンだから……ってワケじゃ、なんとなくなさそうだし。
それにしても『それより』って? 一体わたしに何を言うつもりなの、興恒さん。
気になるわたしに興恒さんが告げた。
「美味なる菓子を私にわけあたえるため、薄暗くなるまで黒餡の苺大福が売られている店をしらみつぶしに探さずとも……そなたの真心だけで充分なのだ。今後、帰りが遅くなりそうなときは私がむかえに参ろうぞ」
……あれれ?
興恒さんの中では、わたしの帰りがいつもより遅くなったのは、興恒さん(とリンちゃん)へのおみやげの苺大福を買うために、いくつものお店を渡り歩いていたから……って、ことになっちゃってる!?
薄暗がりの大通りで、わたしは自分と向かいあっている興恒さんに、ある質問をしようかと思っていた。
その質問とは――。
興恒さんたちあやかしのあいだでは「大福を贈ることには何か特別な意味があったりするの?」って。
だって興恒さんは、わたしが彼を大切にしているそぶりなんて特にみせていないのに……わたしが興恒さんを大切に思っている、なんて急に言いだすんだもの。
おどろいちゃったよ。
そもそも、あやかしである興恒さんの発言に、出会ったころはびっくりしてばかりだった。だけど、とある事情でいっしょに暮らすようになってからは――。だいぶ彼の突拍子のない言葉にもなれてきたと思ってたのに。
(……いくら今は人間の姿をしているといっても、興恒さんは妖狐と呼ばれるキツネのあやかし。人とは異なる存在――)
人の常識とあやかしの常識は違うことが多い。
それは、この数週間、興恒さんとの同居を通して身にしみている。
今日のわたしは興恒さんに向かって、『あなたを大切に思っています』的なことは全然言ってないけど、さっき買った苺大福を興恒さん、そして燐火と呼ばれる青い火の玉、リンちゃんにもあげるよとは言った。
そしたら興恒さんは
『サキは、私のこともリンのことも、大切に思ってくれているのだな』
と、ご発言。
これはやっぱり、わたしの予想(大福をあげる行為は、あやかしにとっては特別な意味をなすことなのかもしれない)が当たっている可能性があるよね。
ただでさえ興恒さんは、わたし、谷沼 紗季音のことを『あやかしである記憶を失い、自分を人間と思いこんでいるタヌキのあやかし』だと信じているし。
わたしが何度、自分はただの人間でタヌキが変身しているわけじゃないと訴えても、興恒さんは『なくした記憶はゆっくりあせらず取り戻せばいい。私とふたりで』ってスタンス。
興恒さんがわたしとカン違いしてるタヌキのあやかしの娘さんは、彼の恋人だけど数百年間(!?)会えずにいるらしい。
わたしが大福をあげると言ったことで興恒さんは、
『サキは記憶を取り戻してはいないものの、私を大切に思っていることは確信できた』→→ということは→→『サキは、私を愛する心を完全に取り戻したのであろう。あとは記憶か――』
なんていうふうに考えを飛躍させてるのかもしれない。
興恒さんって思い込みが激しくて結構単純な面があるから。
(やっかいで めんどくさい事態になる前に、あやかしのあいだでは大福をあげることに意味があるのか、やっぱりちゃんと聞いておかないと!)
「興恒さん、あやかしのあいだでは大福を贈るって行為に、何か意味があったりする?」
わたしの質問に興恒さんは即答した。
「特にそのようなことはない。少なくとも、私は聞いたことがない。それより――」
あれ、そうだったの!?
じゃあ、なんで興恒さんは、わたしが興恒さんを大切に思っている――なんて言ったの?
自分はものすごいイケメンだから……ってワケじゃ、なんとなくなさそうだし。
それにしても『それより』って? 一体わたしに何を言うつもりなの、興恒さん。
気になるわたしに興恒さんが告げた。
「美味なる菓子を私にわけあたえるため、薄暗くなるまで黒餡の苺大福が売られている店をしらみつぶしに探さずとも……そなたの真心だけで充分なのだ。今後、帰りが遅くなりそうなときは私がむかえに参ろうぞ」
……あれれ?
興恒さんの中では、わたしの帰りがいつもより遅くなったのは、興恒さん(とリンちゃん)へのおみやげの苺大福を買うために、いくつものお店を渡り歩いていたから……って、ことになっちゃってる!?
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