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2章
第2話 興恒さんの神通力
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『興恒さんの神通力がおよんでいる』
そう聞かされたとき、わたしは最初どういう意味か、よくわからなかった。
でも、これは――。
たとえ興恒さんがわたしのすぐ隣にいなくても、ある程度の範囲ならば、わたしは彼の持つ力に守られている……っていうことみたい。
この状態なら、黒い霊が再度わたしの前にやってくる可能性は極めて低く、もし出没したとしても、興恒さんに救助を求めれば、彼が即、駆けつけてくれるという。
わたしが
「救助を求めれば――って、もし声が出せない状況だった場合は?」
と聞くと(黒い霊体に実際につかまった経験を持つわたしは霊を警戒してる)、興恒さんはこう答えた。
「そなたが心で危機や恐怖を感じれば、その感情が私に伝わり、そなたのもとへあらわれることができる。だが、私の名を心の中で呼んでくれたほうが、より速くそなたのもとに行ける。名を声に出せば、さらにすばやく動けるが……、かならず声を出さねばと気にやむ必要はない」
わたしが引っ越し当日に、アパートの出入口前で黒い霊に捕らえられてしまったときも、興恒さんは、わたしが危機を感じたときの心の波を察知して、助けにあらわれたらしい。
近所の神社で出会った興恒さんが、どうしてアパートの前にあらわれたのか不思議だったけど、そういうわけだったみたい。
(あのときのわたしは、まだ興恒さんの名前を知らなかったから、心の中でも呼びようがなかったんだけど……)
そんなこんなで。
現在のわたしは、アパートであやかしとともに暮らしながら、平日は大学で講義を受けたり、部の活動に参加したりしている。
3年生になり、1、2年生のとき通っていた神奈川キャンパスから東京キャンパスに通うようになったわたしは、いままではどの部にも入部してなかったのに、ある部に入ることにした。
その、ある部とは『料理研究部』。
わたしが今年度からこの部に入ったのには、深い深いわけがある。
話せば長くなるけれど、一言でいうなら興恒さんと同居するようになったから。
(興恒さんがおいしいって思える料理をつくれるようになろう!)
これが料理研究部に入った目的。
……これだけだと、わたしが、興恒さんのことを異性としてすきになっちゃったみたいだけど――べつにそういうわけじゃない。
興恒さんが、わたしを黒い霊体から助けてくれたことには本当に感謝してるし、今後また黒い霊が出てきても、追い払うと約束してくれたことも、たのもしく感じている。
でも。興恒さんは人間であるわたしのことを「過去の記憶と神通力を失い、自分があやかしであることすら忘れてしまったタヌキのあやかし」だと思いこんじゃってる!
その、タヌキのあやかしの娘さんは興恒さんの恋人だったけど、周囲は2人の仲を猛反対。興恒さんはもう数百年間も会っていない恋人をずっと探していたらしい。
わたしが何度、自分はただの人間で、タヌキのあやかしではないと言っても、全然、信じてくれない。
困りはてた私をてらす、ひとすじの希望の光。
それは、おいしい料理をつくれるようになること。
これだけじゃ、何のことか、わけわかんないけど……。
実は、興恒さんの恋人のタヌキのあやかしは、料理がとても苦手で――1年間、必死で料理の腕をあげようと頑張ったものの、ちっとも腕はあがらなかったそうだ。
わたしが口で、自分は記憶を失ったタヌキが人間に変身してるわけじゃないと言っても信じない興恒さんだけど――。1年以内においしい料理がつくれるようになれれば。
わたしとタヌキのあやかしを、まったく別の存在だと認めてくれるんじゃ……。そんな可能性にかけるため、わたしは今年から、料理研究部に入ることにした。
今のままじゃ、わたしだって『おいしい料理がつくれる腕前』とは、とてもじゃないけど言えないから。
そう聞かされたとき、わたしは最初どういう意味か、よくわからなかった。
でも、これは――。
たとえ興恒さんがわたしのすぐ隣にいなくても、ある程度の範囲ならば、わたしは彼の持つ力に守られている……っていうことみたい。
この状態なら、黒い霊が再度わたしの前にやってくる可能性は極めて低く、もし出没したとしても、興恒さんに救助を求めれば、彼が即、駆けつけてくれるという。
わたしが
「救助を求めれば――って、もし声が出せない状況だった場合は?」
と聞くと(黒い霊体に実際につかまった経験を持つわたしは霊を警戒してる)、興恒さんはこう答えた。
「そなたが心で危機や恐怖を感じれば、その感情が私に伝わり、そなたのもとへあらわれることができる。だが、私の名を心の中で呼んでくれたほうが、より速くそなたのもとに行ける。名を声に出せば、さらにすばやく動けるが……、かならず声を出さねばと気にやむ必要はない」
わたしが引っ越し当日に、アパートの出入口前で黒い霊に捕らえられてしまったときも、興恒さんは、わたしが危機を感じたときの心の波を察知して、助けにあらわれたらしい。
近所の神社で出会った興恒さんが、どうしてアパートの前にあらわれたのか不思議だったけど、そういうわけだったみたい。
(あのときのわたしは、まだ興恒さんの名前を知らなかったから、心の中でも呼びようがなかったんだけど……)
そんなこんなで。
現在のわたしは、アパートであやかしとともに暮らしながら、平日は大学で講義を受けたり、部の活動に参加したりしている。
3年生になり、1、2年生のとき通っていた神奈川キャンパスから東京キャンパスに通うようになったわたしは、いままではどの部にも入部してなかったのに、ある部に入ることにした。
その、ある部とは『料理研究部』。
わたしが今年度からこの部に入ったのには、深い深いわけがある。
話せば長くなるけれど、一言でいうなら興恒さんと同居するようになったから。
(興恒さんがおいしいって思える料理をつくれるようになろう!)
これが料理研究部に入った目的。
……これだけだと、わたしが、興恒さんのことを異性としてすきになっちゃったみたいだけど――べつにそういうわけじゃない。
興恒さんが、わたしを黒い霊体から助けてくれたことには本当に感謝してるし、今後また黒い霊が出てきても、追い払うと約束してくれたことも、たのもしく感じている。
でも。興恒さんは人間であるわたしのことを「過去の記憶と神通力を失い、自分があやかしであることすら忘れてしまったタヌキのあやかし」だと思いこんじゃってる!
その、タヌキのあやかしの娘さんは興恒さんの恋人だったけど、周囲は2人の仲を猛反対。興恒さんはもう数百年間も会っていない恋人をずっと探していたらしい。
わたしが何度、自分はただの人間で、タヌキのあやかしではないと言っても、全然、信じてくれない。
困りはてた私をてらす、ひとすじの希望の光。
それは、おいしい料理をつくれるようになること。
これだけじゃ、何のことか、わけわかんないけど……。
実は、興恒さんの恋人のタヌキのあやかしは、料理がとても苦手で――1年間、必死で料理の腕をあげようと頑張ったものの、ちっとも腕はあがらなかったそうだ。
わたしが口で、自分は記憶を失ったタヌキが人間に変身してるわけじゃないと言っても信じない興恒さんだけど――。1年以内においしい料理がつくれるようになれれば。
わたしとタヌキのあやかしを、まったく別の存在だと認めてくれるんじゃ……。そんな可能性にかけるため、わたしは今年から、料理研究部に入ることにした。
今のままじゃ、わたしだって『おいしい料理がつくれる腕前』とは、とてもじゃないけど言えないから。
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