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2章

第1話 はじまりました、新学期!

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めぐみ、今日は部室に顔だす?」
「うん、紗季音さきねは?」
「わたしも、もちろん行くよ。今日は活動日だし」
「じゃ、今日の講義も終わったし、部室、行こう!」

 わたしと恵は大学構内の渡り廊下を、部室めざして歩いていく。

 新年度になり、新しいキャンパスで大学生活が始まった。
 わたしと恵が籍を置く学部は、1、2年生のときは神奈川キャンパス、3、4年生になると東京キャンパスに通学することになる。

(だから、神奈川県在住のわたしは3年生になるのを機に、春休みのうちから、都内の賃貸アパート、沢樫荘で生活するようになったんだけど――)

 いま、わたしの隣にいる恵は、東京と神奈川の都県境、多摩川の近くに家があるから、どちらのキャンパスにも自宅から通っている。
 東京キャンパスも恵の自宅も、どちらも世田谷区。恵は通学が区内になり交通時間が大幅に短縮したという。

 恵といえば……。
 まだ春休みだったとき。
 わたしは彼女に、いろいろ心配させてしまった。

 恵がネット上で
「沢樫荘は怪奇現象が起きる心霊物件。出没する霊のせいで入居者がなかなか居つかない」
 という噂を目にして、沢樫荘への入居を開始するわたしに連絡してきたのだ。

(……噂どおり、引っ越し当日から、アパートの入り口でわたしは黒い色をした霊のようなものに遭遇してしまったわけだけど……)

 でも、わたしは沢樫荘に越してきたその日の夜。恵に「このアパートは安全だから、ちっとも心配いらないよ」と、メールした。
 恵を安心させたかったから、霊がでたことを黙っていたというより――。黒い霊がでてくる物件だという問題は、当日のうちに『ほぼ』解決したから。

 黒い霊体に手足をつかまれてしまったわたしを颯爽さっそうと助けにあらわれた美青年。彼は、今後ふたたび霊が出没しても、「神通力」という不思議な力で、霊を追い払ってくれるというのだ。

 この青年は、あやかしという、人とはちがう存在。
 妖狐と呼ばれるキツネのあやかしで、人間の姿にもキツネの姿にもなれる。
 名前は興恒おきつねというそうで、彼を慕う、人の言葉を話す青い炎、燐火のリンちゃんからは『オキツネサマ』と呼ばれている。

 一方、黒い霊は丸1年間、わたしを獲物として狙っているそう。
 大学が始める前は「……まさかわたし、興恒さんにSPのように つねにそばにいてもらわないと、通学中に黒い霊に襲われたりしちゃう? わたし、谷沼 紗季音は、要人でもなんでもないごく普通の一般人なのに? 興恒さんだって、私服の警官じゃなくて和服のあやかしだし」
 なんて考えたこともあったけど――。

 興恒さんいわく、沢樫荘と大学の距離は近いから、充分、興恒さんの神通力がおよんでいるらしい。
 そう聞かされたとき、わたしは最初どういう意味か、よくわからなかった。

(……『興恒さんの神通力がおよんでいる』っていうのは――)
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