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1章

第33話 オキツネサマは料理がお得意?

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 沢樫荘の2階、201号室。

 とある事情で、わたしは今日から、あやかしの青年、オキツネサマ、そして人の言葉を話す青い炎、リンちゃんと同居することが決定してしまった。
 顔と体は人間の青年だけど、耳としっぽはキツネという外見のオキツネサマ。彼は、わたし谷沼たにぬま 紗季音さきねに向かって、とても熱心な口調で告げる。

「リンが説明したとおり、私は人の世で食べられている料理もつくることができるぞ。というわけで、サキ、そなたにもう一度、聞く。料理はすべて私に まかせてくれるか」

「……え、えっと――」

 わたしは肯定も否定もできなかった。
 だって……謎すぎるから。

 なんでオキツネサマは、こんなにも、すすんで料理担当になりたいって何度も立候補してくるの?
 あと、リンちゃんの話だと、オキツネサマは料理上手らしいけど、あやかしの味覚と一般的な人間の味覚は――違う可能性が高いんじゃないかなぁ。

 人間同士だって、年齢や住んでいるところ、いままで食べてきたもので、味のこのみって違う場合が多いのだから。あやかしと人では、どんな味を美味しいと思うかに、へだたりがあるように思えてしまう。
 オキツネサマ自体は人間が食べる料理も好物だそうだけど、オキツネサマのすきな、あやかしごのみっぽい味の料理を人間がこのむとは限らないような気がする。

 オキツネサマの「料理は私が」という申し出に、はっきりと返事をしないわたしにしびれを切らしたのは、リンちゃんだった。
 リンちゃんはわたしにではなく、オキツネサマに言った。リンちゃんは、青い炎の体を何度も激しくピョンピョンさせながら、うったえかける。

『オキツネサマの料理の美味しさをサキっちに納得させるには、口で説明するよりも、まず、今日の夕飯をオキツネサマがつくって、実際に食べてもらうことっす! きっとサキっちは、人間とあやかしでは、このみの味だって異なるはず……と、いらん心配してビビッてるだけっす!』

 リンちゃんの発言にドキリとする。
 たしかにわたしは、あやかしと人では、美味しいと思う味が違うのかもと――、オキツネサマの料理を躊躇ちゅうちょしてたところだけど。

 でも、『いらん心配』って……。
 あやかしではないわたしが、あやかしであるオキツネサマと味覚が違うかもって予想して、心配するのって、普通のことじゃない?

 ここまで考えて、はっとする。
 オキツネサマもリンちゃんも、わたしを『自分があやかしであることを忘れ、人間であると思いこんでいる、タヌキのあやかし』だとカンちがいしてるんだった。

 だから、リンちゃんは『いらん心配』なんて言ったの?
 オキツネサマの横で浮かんでいるリンちゃんに視線を走らせる。
 わたしがみつめていることに気づいたのか、リンちゃんは――。

『オキツネサマの料理は、あやかしたちから賞賛されただけでなく、多くの人間たちからも美味しいと絶賛されたからなぁ~。オキツネサマ、今日の夕食、楽しみにしてるっす!』

 と、オキツネサマの料理に太鼓判を押す。

 あやかしたちからも人間たちからも、評判の料理。
 ……ということは、あやかしって味覚は人間と、そう変わらない?
 もしくは、オキツネサマは、すべてを超越した美味しさの料理をつくりだせるってこと?

「それではサキ、そなたが今日、私のつくった料理を食べたあと、あらためて聞こう。『料理は私にまかせてくれるか』と……」

 オキツネサマの熱の こもった真剣な声とまなざしに、わたしは、つい、うなずいてしまった。
 ……あ、でも、とりあえず1回、オキツネサマの料理を食べてみよう、話はそれからってだけで、オキツネサマが料理担当になることを承諾したわけじゃないから。

(オキツネサマが料理をつくることにこだわる理由は、謎のまま。オキツネサマの真意も、みえないままだし……)

 それでも、とにかく今日の夕飯は、オキツネサマがつくってくれるらしい。
 オキツネサマのつくる料理が待ちきれなくてソワソワしてるのか、リンちゃんは部屋の中を行ったり来たりしている。
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