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1章

第31話 この部屋で暮らします!

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 沢樫荘の2階、201号室。

 わたし、谷沼たにぬま 紗季音さきねは、今日からこのアパートで1人暮らしを始める予定――だったのだけど、ある出来事の関係で、オキツネサマと呼ばれる、あやかしの青年、そして人の言葉を話す青い炎、りんかのリンちゃんと同居生活をスタートすることになってしまった。

 オキツネサマとリンちゃんとわたしによる、長い長い話しあいの結果、そういうことに決まった以上、いまさら引き返せない。

 1階から2階へ移動したわたしとオキツネサマとリンちゃんの3名は、すでにわたしが不動産屋さんから受け取っていたカギで、無事、部屋の中に入ることができた。
 わざわざ『無事、部屋の中に入ることができた』と強調してしまうのは、このアパート……実はすごい怪奇物件。

 よく霊がでるとネットでも話題になってるらしく、わたしもさっそく今日、アパートの出入口付近で黒いもやのような霊体に襲われそうになってしまったばかり。

(人の姿になったオキツネサマがあらわれて、わたしから黒い霊を追い払ってくれたから助かったけど……今後もあの黒い霊体がやってくるかもしれないっていうんだから、油断できない――)

 さいわい、この部屋には人間に攻撃をしかけてくるような、怪奇な霊はいないっぽい。
 バスルーム含め、201号室の室内をひととおりキョロキョロし終えたわたしは、最後の点検場所だった和室で安堵あんどのため息をつく。

 隣でわたしを見守ってくれている和装の美青年、オキツネサマと彼の横でプカプカ浮かんでいる青い炎、リンちゃんも、わたしの安心した様子をながめ、ホッとしているようだった。
 今のオキツネサマは人の姿(耳としっぽはキツネだけど……)だから、キツネの姿のときよりも、彼の表情を理解しやすい。

 リンちゃんは、大きさがハムスターくらいの、青い炎だけど、全身の動きで感情をあらわすことが多いからなのか、炎の形をしたままでも、気持ちがわりと伝わってくる……ような気がする。(今は静かにしているリンちゃんだけど、いったん人間の言葉を話しはじめると、リンちゃんって、いっぱいしゃべることが多いし)

 オキツネサマとリンちゃんに向かって、わたしは言った。

「これで部屋の点検は、終わったね」

 うなずくオキツネサマとリンちゃん。
 リンちゃんは炎の体を上半分だけ、かたむけて、うなずきの動作をする。
 そういえば、さっきもリンちゃんはこうやって肯定のポーズをしてみせてくれた。……たしか、今、わたしたちがいる201号室の和室ではなくて、1階の管理人室で。

 この201号室に、恐い霊は(すくなくとも今のところは)いないらしいとわかり緊張がほぐれると――、たたみ藺草いぐさが室内をいい匂いにしてくれてることがわかり、さらにわたしの心を落ちつかせる。

 和室に住むのは、わたしの昔からの憧れだったからなぁ。(いくら和テイスト好きなわたしでも、怨霊に襲われるのは、ごめんだけど……)

 このアパートの間取りは――。わたしが調べた他のアパートでも、似たような間取りをみかけたから、賃貸物件ではよくある間取りなんだと思う。
 玄関スペースのすぐ先はダイニングキッチン。バスルームやトイレも玄関に近い場所にある。ダイニングキッチンの奥には、6帖の和室が2部屋、隣あっている。

 わたしとオキツネサマとリンちゃんが今いるのは、そのうちの1部屋。
 この部屋の隣の和室は、さっきチェック済み。

(部屋がひとつじゃなくて、よかった~! この広さのわりには家賃も格安って、不動産屋さんは言ってたな。……怪奇現象のせいで入居者がすぐ出ていってしまうとは教えてくれなかったけど――)

 部屋が安全かどうか、霊のようなものが ひそんでいるか調べてるあいだ、ほとんど会話をすることなく黙々と見てまわっていたわたしたち。
 だけど、もう201号室のすべてのスペースを見終えることができた。

 わたしが(ひとまず、安心できたよ、オキツネサマ、リンちゃん)って、横にいる2人に話しかけようとしたとき。
 オキツネサマがわたしに向かって言った。

「サキ、今日からともに暮らすにあたって、そなたに約束してほしいことがある。聞いてくれるか?」

 オキツネサマがわたしに約束してほしいこと……って、何?
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