おきつね様の溺愛!? 美味ごはん作れば、もふもふ認定撤回かも? ~妖狐(ようこ)そ! あやかしアパートへ~

にけみ柚寿

文字の大きさ
上 下
24 / 72
1章

第22話 恋人って誰と誰が――

しおりを挟む
「私やリンのことを忘れてしまっただけでなく、みずからがタヌキのあやかしであることすら忘れてしまったとは――」

 オキツネサマと呼ばれる、この青年の言葉に、わたしはがっくり肩を落とす。

(ああぁ……。オキツネサマ、今度もわかってくれてなかった)

 ここはアパート、沢樫荘の管理人室。
 今日からこのアパートで1人暮らしを始める予定のわたしは、入居開始日早々、数々のトラブルに見舞われていた。

 わたしが今、自分の部屋ではなく管理人室にいるのだって、ある怪奇現象に巻き込まれてしまったせい。
 それを助けてくれたのが、わたしのとなりに座っている青年、オキツネサマなんだけど――。

 今現在の彼の見た目は、和服を着た人間の成人男性の姿に、キツネの耳としっぽがついているもの。(ちなみに耳としっぽは、いわゆるキツネ色じゃなくて、白い色をしている)
 彼のそばには、人の言葉を話す 青い炎、リンちゃんがプカプカ浮かんでいる。

 オキツネサマが、人間からキツネに変身したり半人半狐に変身したりする場面に居合わせてしまった以上、もう
「キツネが人に変わるなんて昔話の中の出来事よね」
 と言い切れなくなってしまった。

(でも! それでも、このわたし、谷沼たにぬま 紗季音さきねは単なる人間で、タヌキが人に変身してるわけじゃないのにっ!)

 オキツネサマは、わたしのタヌキの耳としっぽが見たいなんて無茶な要求をしてきたばかり。
 わたしがきっぱり、はっきり『自分はタヌキが人間に変身してるわけじゃない』と告げたものの――。

『そなたがもし、タヌキでないならば、なぜ「谷沼 紗季音」などと名乗る。その名、順序を変えれば「まさにたぬきね」。つまり「まさにタヌキね」ではないか』

 と勝ち誇ったような顔で言い返される始末。
 そんなの偶然だと答えたら、今度は、わたしを『自分がタヌキのあやかしであることを忘れてしまった』あつかい。

 こんな風にいつまでたっても平行線な、わたしとオキツネサマのやりとりを、リンちゃんは青い炎の体をゆらゆらさせ、心配そうな様子で見守っていたのだけど――。
 ついにしびれを切らしたらしい。
 リンちゃんはわたしとオキツネサマのそばをグルグルまわりながら、ダーッと早口で話しはじめる。

『オキツネサマ! サキっちの記憶を取りもどさせるには、やっぱオキツネサマの愛でしょ! 変身した姿をみても思いだせないとなると、あとは愛の力しかないと思うっす』

「うむ、リンもやはりそう思うか」

 リンちゃんのアドバイスに、首を上下して納得するオキツネサマ。

(……愛! オキツネサマの……愛の力って!?)

 わたしは、オキツネサマの愛の力とやらに、もちろん納得できない。
 オキツネサマとわたし、今日会ったばっかりだよ。
 リンちゃんやオキツネサマは、わたしを昔からの知りあいの……『タヌキ』だと思いこんでいるようだけど、わたしたち本当は今日が初対面なの!

 わたしはリンちゃんとオキツネサマ、両方に向かって叫んだ。ここがアパートの管理人室だということも忘れて。

「愛!? なんで、この状況で『愛の力』なんて言葉がでてくるのっ」

 オキツネサマは、わたしをみつめ、真面目な声色で答える。

「それはもちろん、私とそなたは恋人同士だからだ」

 ――恋人? キツネとタヌキで、恋人同士? キツネはキツネ、タヌキはタヌキ同士でくっつくんじゃないの?

 あやかしの恋愛事情にあかるくないわたしにとって、オキツネサマの答えは意外なものだったからか――。
 気がつくとわたしは、彼の言葉をくりかえしていた。

「……恋人同士?」

「ああ、相思相愛の間柄ともいうな」

 リンちゃんがわたしたちのあいだでユラユラと体をゆらしながら語る。

『あやかし同士とはいえ、キツネとタヌキ。種族の違いから周囲に恋路を邪魔され、ずっと会えなかったなんて。ううっ、泣けるっすね~』

 ……あ、やっぱりあやかし同士ならなんでもOKって倫理観じゃないんだ、あやかしの世界も。キツネとタヌキのカップルってあんまり聞かないものね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...