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1章

第15話 光? 炎? 青いのが、ぷかぷかと……

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 アパートの出入口手前で意識を失ってしまったわたしは、管理人室に運ばれたらしい。(気を失ってたときの記憶がないから、らしいとしかいえない)
 運んだのは、大家さんや管理人さんじゃない。ついさっき会って、わたしを助けてくれた青年だ。

 彼は、わたしがアパートの中からあらわれた黒いもやのようなものに
わたしが つかまえられてしまったのを救ってくれた。
 黒い靄にみえたのは、何かの霊だったみたい。
 ……そう、この沢樫荘は怪奇現象が起こるとのウワサがあるアパート。

 そして、青年はわたしの名前を知っていた。わたしたち初対面のはずなのに。そればかりか、彼はわたしが今日から沢樫荘で1人暮らしを始めることも知っていて――。

(どうしてこの人はわたしの名前も、わたしが今日から沢樫荘に住むってことも知ってるのか、教えてほしい)

 聞く気満々のわたしは、ふとんから上半身を起こし質問しようとした。そのとき。
 わたしと青年のあいだを割って入るように、青く光るものがポンッとあらわれた。

――今度は青い光? 次はいったい何?

 青く光る何かは、よくみると青い色をした火の玉みたい。
 ホンモノの火の玉をわたしはみたことはないから、どこかで見たイラストの火の玉みたいってことなんだけど。
 目の前の青いもの。本当にこれ、なんなんだろう。
 大きさはハムスターくらい。ぷよぷよ、ふわふわ、宙に浮かんでる。

 ふりかかる謎が解けないうちにあらたな謎があらわれて。
 わたしは目を見開き、口をあんぐりさせてしまう。

 青い火の玉みたいなものは、わたしと青年のあいだでピョンピョン飛びはね――言葉を話し始める。

 ……今日一日だけで、すでにキツネに話しかけられたり、黒いもやの言葉を聞いたりしていたわたしは、早くも人間以外のものがしゃべる場面に遭遇しても、そこまで驚かなくなっていた。

 青い炎の玉は、青年に向かって言う。

『オキツネサマー! ただいま もどってきたよ』

 電話ごしのように少しくぐもった声だけど、高音で可愛らしい感じ。そして、すごく早口で、この青い炎は話す。
 青年は青い炎に視線をうつし、
「おかえり」
 と、やさしく言う。

 青年と青い炎、両者の関係は良好なようだ。
 ……ん、『オキツネサマ』がこの人の名前なの? それともニックネーム?
 よくわからず首をかしげていると、青い炎がわたしに近づいてきた。(炎みたいにみえるけど、近くでも全然熱くない)

 青い炎は今度はわたしのそばでピョンピョン飛びはねながら明るい声で言った。

『よかった、よかった! 意識をとりもどしたようだな、本当によかったなっ』

 謎の存在だけど、青い炎はわたしに対して友好的っぽい。
 だから意識をとりもどしたことを「よかったな」と言われれば、わたしの口から、素直にお礼の言葉がでる。
 そして素直にお礼以外の言葉もでる。

「ありがとう。……えっと、あなたは誰? いったい何者か、教えてもらえると、うれしいかも――」

 わたしの言葉でそれまで元気に飛びはねていた、青い炎のようなものの動きがピタリと止まる。
 しばらくして――。
 シュンとした声があたりに響く。

『……え? おぼえていないのか、おれっちのこと……』

 おぼえているもなにも、ぷかぷか浮かぶ青い炎が言葉を話す場面にでくわしたのは、今が初めてであって――。
 ついでにいえば、リアルで一人称「おれっち」の相手と話すのも初だ。

 ん……? あれ、この反応や、やりとり、今日すでに別の場所で別の相手としてなかったっけ、わたし。
 そう、あれは今日、沢樫荘の近所の神社での会話だ。(わたしが10時間以上意識を失っていたら、あれは今日ではなくて昨日の出来事になるけど、たぶん体感的に、わたしはそんなに長い間気を失っていたわけではないと思う。正確にはまだわからないけど)

 たしか今日、近所の神社に行ったとき。
 わたしは
「あのっ、知りあいのどなたかと、人ちがいされてますよ! わたしはあなたと、今、初めてお会いしたので……」
 って言ったんだ。今、わたしの隣にいる青年に対して。
 彼が、わたしを自分の知りあいとカンちがいして話しかけているようだったから。

 すると彼は、シュンとしてしまい……。
「……そなた、おぼえていないのか、この私を」
 と言ったんだ。

 そのあと、この人は……「今の姿ではなく、この姿をみれば、私を思いだすはずだ」みたいなことを言って――。
 突如あらわれた煙から白狐が飛びだしてきたんだ。
 わたしにキツネの知りあいはいないのに。
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