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1章
第5話 わたし、心配されてるようだけど……(3/3)
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(そろそろ、近場の神社がどこにあるか調べなきゃ。心配性の恵を不安がらせないように、そう約束したんだし)
スマホを手にしたまま、アパートの真ん前に立ち続けているわたしが、神社の位置を検索しようとした瞬間。スマホの電話着信音がふたたび鳴りだす。
相手は――今回も恵だった。
……この短時間に、また何かあったとか?
「どうしたの、恵」
『紗季音、沢樫荘の近所にある神社はどんな神社か、もう調べた?』
恵の問いかけに、ちょっとだけギクリとするわたし。
「んっと――まだ、だけど。……でも、今、調べようとしてたところだよ、本当にたった今! ホントにホントだからっ」
(……なんだかこれじゃ、宿題をやっているか聞かれた小学生が『今やるところだったのに』って言い訳してるみたいだな……。でも、わたしの場合は、本当に たった今から調べようってところだったんだけど)
『今から調べるところなら、ちょうどよかったかも……。あたしも沢樫荘のそばにある神社をちょっと検索してみたんだけどね』
あ、わたしとのさっきのスマホでの会話が終わったあと、恵は恵で調べてくれてたんだ。友達思いの恵らしい。
「恵、どうも、ありが――」『それでね、それでね!』
わたしがお礼を言い終わらないうちに、恵は話しはじめる。
お礼を言われることが目的であれこれ世話を焼いているわけじゃない、彼女らしい態度のあらわれなのかもしれない。
それか、今回の場合は――恵の性格ゆえというより……。
彼女はわたしに、至急、何かを伝えたいのかもしれない。
わたしはスマホから聞こえてくる恵の言葉に、耳をかたむけた。
『紗季音が今日から住むことになってるアパートの近くに、神社はいくつもあるの。でも、行くなら――』
恵は、この近くにあるという神社の名前を口にした。
「近所にあるなら今日さっそく行ってみるつもりだけど……なんでそこをおすすめするの? 他にも神社はあるんでしょ? そこの神社はアパート怪奇現象を解決してくれるって評判なの?」
恵がその神社を推す理由がわからず、語尾がぜんぶハテナマークになってしまう。
『この神社を推す理由? それは……』
「それは?」
『この神社には、ものすごーくイケメンな神職さんがいるらしいよ。あ、「らしい」じゃなくて本当にいるの! ネットで調べた情報だから、あたしが実際に行ったわけじゃないけど、ウワサじゃなくて公式webサイトで確かめたからガセネタじゃないよ。神職さんの顔写真は公式サイトがアップされてた。ねえ、せっかくなら、とってもかっこいい神職さんがいるところにしておきなよ』
はい? イケメンの神職さん……?
「……あの、恵さん。本日、わたくしめが神社に行こうとしてるのは――今日から住む予定のアパートが、怪奇物件とのウワサがあるゆえであって。近所で働いてるらしいものすごいイケメンさんの情報をもらっても……」
『へ? すごく美形な神職さんイコール凄腕の陰陽道の使い手なんじゃないの? なら、悪霊退散とか朝飯前なんじゃ……。京の都を魑魅魍魎から護れるくらいなんだから都内のアパートにあらわれる霊くらい余裕な気がするよ』
美形な陰陽師が京を護る……とか、いつのまにか話が壮大でファンタジックになってるよ。ここ、京の都ではないし。
「……えっと、わたし神道にも陰陽道にも、くわしくないけど……。でも、なんというか今、恵が話しているのって実際に神社で働いてる現代の神職さんというよりも、陰陽道や陰陽師を題材にしたフィクションっぽいっていうか――」
『そっかぁ。……でも、平安時代に活躍した安倍晴明は実在の人物で――』
あ、この雰囲気。話が長くなりそう。
わたしは和テイストな建物や小物、食べ物がすきだけど。恵が好きな和テイストは、漫画や小説や映画やゲームの和テイストだからなぁ。
わたしは、歴史上の人物をモデルにした創作物にも、史実にも、あんまりくわしくない。興味がないっていうより、よく知らないんだ。
だけど、スマホごしに恵が語りはじめた、陰陽師に関する話は、実在人物、非実在キャラクターを問わず、とどまる気配がない。
今は、安倍晴明のお母さんはキツネだという伝説を熱く語る。
(……キ、キツネがお母さん! 人間の女性に変身したキツネが人間の赤ちゃんをご出産!?)
晴明が大昔の人だとしても、実在人物になんて大胆な伝説を……。
それはともかく! 今はまだ昼間だけど、このまま恵の話を聞きつづけていたら、日が暮れてしまう可能性が高い。
神社の閉門時間って何時なんだろう? 区役所とはちがうから、何時閉門かは、神社ごとにちがうのかな。
それでも、あんまり遅くなるのは避けたいところ。
よし、かくなるうえは……。
わたしは、ちょっと強引に恵の話に割って入った。
「恵! わたし、恵がオススメしてくれた神社に今から行ってくるよ」
『ほんと!? よかった、よかった! じゃあ、陰陽師に関する話はまた今度にするよ。じゃあね、紗季音』
恵の声は明るい。今日最初にスマホに連絡してきたときの心配そうで不安げな声が嘘みたい。
わたしは、ほっとしながら恵との通話を終了した。
(けっこう長電話になっちゃった。こんなことならもっと早く、『恵がオススメしてくれた神社に今から行く』って言うんだったな)
そもそもわたしが神社に行っておこうと思ったのは、心配性なところがある恵を不安がらせないためだ。
ちょっと変わったところもあるけど、恵は友達思いのいい子だし。
まあ……。実際にそのイケメン神職さんがすごい除霊能力を持ってる。
そして。
沢樫荘には本当に霊がでると仮定するとして。
近所に住む沢樫荘の住民がイケメン神職におはらいをもうしこんで、悪霊退散。
悪い霊は立ち去り、事件は無事、一件落着。住人が短期で賃貸契約を解約することはなくなりました……となるような気がしてしまう。
でも、こういうツッコミはいったん置いとこう。
だって。恵は自分がすすめた神社に、わたしが行くと言ったのを聞いて安心したみたいだったんだから。
(さてと、早くその神社に行ってこようっと)
わたしは恵から聞いた神社の位置をスマホで検索してみた。
たしかに、今いる場所から、わりと近所だ。
* * * * *
まさか、神社でとんでもない事態に遭遇するとは――このときのわたしには予測できずにいた。
……だって、もし、もしもだよ? 何か不思議なことがあるとしても、それは怪奇物件とウワサされているアパート、沢樫荘で……。だと思っていたから。
スマホを手にしたまま、アパートの真ん前に立ち続けているわたしが、神社の位置を検索しようとした瞬間。スマホの電話着信音がふたたび鳴りだす。
相手は――今回も恵だった。
……この短時間に、また何かあったとか?
「どうしたの、恵」
『紗季音、沢樫荘の近所にある神社はどんな神社か、もう調べた?』
恵の問いかけに、ちょっとだけギクリとするわたし。
「んっと――まだ、だけど。……でも、今、調べようとしてたところだよ、本当にたった今! ホントにホントだからっ」
(……なんだかこれじゃ、宿題をやっているか聞かれた小学生が『今やるところだったのに』って言い訳してるみたいだな……。でも、わたしの場合は、本当に たった今から調べようってところだったんだけど)
『今から調べるところなら、ちょうどよかったかも……。あたしも沢樫荘のそばにある神社をちょっと検索してみたんだけどね』
あ、わたしとのさっきのスマホでの会話が終わったあと、恵は恵で調べてくれてたんだ。友達思いの恵らしい。
「恵、どうも、ありが――」『それでね、それでね!』
わたしがお礼を言い終わらないうちに、恵は話しはじめる。
お礼を言われることが目的であれこれ世話を焼いているわけじゃない、彼女らしい態度のあらわれなのかもしれない。
それか、今回の場合は――恵の性格ゆえというより……。
彼女はわたしに、至急、何かを伝えたいのかもしれない。
わたしはスマホから聞こえてくる恵の言葉に、耳をかたむけた。
『紗季音が今日から住むことになってるアパートの近くに、神社はいくつもあるの。でも、行くなら――』
恵は、この近くにあるという神社の名前を口にした。
「近所にあるなら今日さっそく行ってみるつもりだけど……なんでそこをおすすめするの? 他にも神社はあるんでしょ? そこの神社はアパート怪奇現象を解決してくれるって評判なの?」
恵がその神社を推す理由がわからず、語尾がぜんぶハテナマークになってしまう。
『この神社を推す理由? それは……』
「それは?」
『この神社には、ものすごーくイケメンな神職さんがいるらしいよ。あ、「らしい」じゃなくて本当にいるの! ネットで調べた情報だから、あたしが実際に行ったわけじゃないけど、ウワサじゃなくて公式webサイトで確かめたからガセネタじゃないよ。神職さんの顔写真は公式サイトがアップされてた。ねえ、せっかくなら、とってもかっこいい神職さんがいるところにしておきなよ』
はい? イケメンの神職さん……?
「……あの、恵さん。本日、わたくしめが神社に行こうとしてるのは――今日から住む予定のアパートが、怪奇物件とのウワサがあるゆえであって。近所で働いてるらしいものすごいイケメンさんの情報をもらっても……」
『へ? すごく美形な神職さんイコール凄腕の陰陽道の使い手なんじゃないの? なら、悪霊退散とか朝飯前なんじゃ……。京の都を魑魅魍魎から護れるくらいなんだから都内のアパートにあらわれる霊くらい余裕な気がするよ』
美形な陰陽師が京を護る……とか、いつのまにか話が壮大でファンタジックになってるよ。ここ、京の都ではないし。
「……えっと、わたし神道にも陰陽道にも、くわしくないけど……。でも、なんというか今、恵が話しているのって実際に神社で働いてる現代の神職さんというよりも、陰陽道や陰陽師を題材にしたフィクションっぽいっていうか――」
『そっかぁ。……でも、平安時代に活躍した安倍晴明は実在の人物で――』
あ、この雰囲気。話が長くなりそう。
わたしは和テイストな建物や小物、食べ物がすきだけど。恵が好きな和テイストは、漫画や小説や映画やゲームの和テイストだからなぁ。
わたしは、歴史上の人物をモデルにした創作物にも、史実にも、あんまりくわしくない。興味がないっていうより、よく知らないんだ。
だけど、スマホごしに恵が語りはじめた、陰陽師に関する話は、実在人物、非実在キャラクターを問わず、とどまる気配がない。
今は、安倍晴明のお母さんはキツネだという伝説を熱く語る。
(……キ、キツネがお母さん! 人間の女性に変身したキツネが人間の赤ちゃんをご出産!?)
晴明が大昔の人だとしても、実在人物になんて大胆な伝説を……。
それはともかく! 今はまだ昼間だけど、このまま恵の話を聞きつづけていたら、日が暮れてしまう可能性が高い。
神社の閉門時間って何時なんだろう? 区役所とはちがうから、何時閉門かは、神社ごとにちがうのかな。
それでも、あんまり遅くなるのは避けたいところ。
よし、かくなるうえは……。
わたしは、ちょっと強引に恵の話に割って入った。
「恵! わたし、恵がオススメしてくれた神社に今から行ってくるよ」
『ほんと!? よかった、よかった! じゃあ、陰陽師に関する話はまた今度にするよ。じゃあね、紗季音』
恵の声は明るい。今日最初にスマホに連絡してきたときの心配そうで不安げな声が嘘みたい。
わたしは、ほっとしながら恵との通話を終了した。
(けっこう長電話になっちゃった。こんなことならもっと早く、『恵がオススメしてくれた神社に今から行く』って言うんだったな)
そもそもわたしが神社に行っておこうと思ったのは、心配性なところがある恵を不安がらせないためだ。
ちょっと変わったところもあるけど、恵は友達思いのいい子だし。
まあ……。実際にそのイケメン神職さんがすごい除霊能力を持ってる。
そして。
沢樫荘には本当に霊がでると仮定するとして。
近所に住む沢樫荘の住民がイケメン神職におはらいをもうしこんで、悪霊退散。
悪い霊は立ち去り、事件は無事、一件落着。住人が短期で賃貸契約を解約することはなくなりました……となるような気がしてしまう。
でも、こういうツッコミはいったん置いとこう。
だって。恵は自分がすすめた神社に、わたしが行くと言ったのを聞いて安心したみたいだったんだから。
(さてと、早くその神社に行ってこようっと)
わたしは恵から聞いた神社の位置をスマホで検索してみた。
たしかに、今いる場所から、わりと近所だ。
* * * * *
まさか、神社でとんでもない事態に遭遇するとは――このときのわたしには予測できずにいた。
……だって、もし、もしもだよ? 何か不思議なことがあるとしても、それは怪奇物件とウワサされているアパート、沢樫荘で……。だと思っていたから。
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