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1章
第2話 今日からここが……
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並木道を通り抜け、アパートの真ん前まで無事たどりついたわたしは、安堵のため息をつく。
(ふう……到着っ! ここが今日からわたしの家!)
桜並木で察知した妙な空気――わたし以外に人がいないはずの場所に 漂う誰かの気配……は、もう微塵も感じない。
緊張の糸がとけ、すっかり心が軽くなったわたしは、目の前に建ちそびえるアパートを見あげた。
(……このアパートの一室が、今日からわたしのお城! 最上階から見る夜景はどんな感じかなぁ。楽しみーっ!)
最上階といっても、ここは2階建ての木造アパート。
賃貸スペースは2階のみだから、部屋を借りる人は全員最上階に住むことになるわけだけど……。
わたしが木造の建物に住むのは、今日が初めて。
不動産屋さんといっしょにこのアパートを見学したとき、木で作られたこのアパートの外観に一目惚れしたわたし。いい感じにレトロでおもむきがあって、クラシカルな雰囲気がとても素敵なんだもの。
外壁に不透明のペンキを塗っていないから、一見して木でできた家だってわかるし、瓦屋根も渋い。
第一印象でビビビッと来て、ここに決めました!
(昨日まで暮らしていた実家には、和室がなかったから、畳の部屋にもあこがれていたし。畳って、藺草のいい匂いがして落ちつくよね。……あ、都内にあるアパートで、いまだに木造って、けっこうめずらしいのかな?)
東京にかぎらず、わたしは現代日本のアパート事情にあまりくわしくない。大学2年までは実家とキャンパスがとても近くて、実家住まいだったから。
だけど、この春からわたしは3年生。
わたしが在籍している学部は、1年生2年生は神奈川県にあるキャンパス。3年生4年生は東京都にあるキャンパスに通うことになっている。
都内のキャンパスがあるのは世田谷区。
世田谷区には高級住宅地もあれば、古きよき下町情緒残る場所もあるそうだ。
今のわたしには『そうだ』としか言えないけど、ごく幼いころ、わたしも家族とともに世田谷区で暮らしていた時期があるらしい。
だけど、昔すぎてそのときの記憶はおぼろげ……というか、ほとんどおぼえてない。
そして、東京キャンパスがある世田谷区のこの町には昔、まかないつきの下宿屋が多かったという。
今は、近くに下宿屋はなく、代わりに賃貸アパートが多いらしい。
わたしが今日から住むことになるアパートも、昭和のころは下宿屋だったけれど、現在は普通のアパート。
(新年度最初の講義が始まるまで、まだ日にちに余裕がある今のうちにアパート生活を開始して……。初めての1人暮らしに早く慣れておきたいなぁ。自炊がんばろう!)
たっぷりの期待とちょっぴりの不安がわたしの心に入り混じる。
さっき桜並木で感じた妙な気配は……。もしかしたら、わたしの中の『ちょっぴりの不安』が、あのとき吹いた、あたたかな春風を誰かの気配だと――早とちりしてしまっただけなのかもしれない。
そう自分を納得させ、安心しようとしている最中。
突然、肩にかけているバッグから、音が鳴りだした。
このメロディはスマホの電話着信音。
わたしはバッグの中からスマホをとりだす。
通話の相手は、友達の恵。
スマホから響く恵の声は、ちょっと興奮ぎみ。……何かあった?
(ふう……到着っ! ここが今日からわたしの家!)
桜並木で察知した妙な空気――わたし以外に人がいないはずの場所に 漂う誰かの気配……は、もう微塵も感じない。
緊張の糸がとけ、すっかり心が軽くなったわたしは、目の前に建ちそびえるアパートを見あげた。
(……このアパートの一室が、今日からわたしのお城! 最上階から見る夜景はどんな感じかなぁ。楽しみーっ!)
最上階といっても、ここは2階建ての木造アパート。
賃貸スペースは2階のみだから、部屋を借りる人は全員最上階に住むことになるわけだけど……。
わたしが木造の建物に住むのは、今日が初めて。
不動産屋さんといっしょにこのアパートを見学したとき、木で作られたこのアパートの外観に一目惚れしたわたし。いい感じにレトロでおもむきがあって、クラシカルな雰囲気がとても素敵なんだもの。
外壁に不透明のペンキを塗っていないから、一見して木でできた家だってわかるし、瓦屋根も渋い。
第一印象でビビビッと来て、ここに決めました!
(昨日まで暮らしていた実家には、和室がなかったから、畳の部屋にもあこがれていたし。畳って、藺草のいい匂いがして落ちつくよね。……あ、都内にあるアパートで、いまだに木造って、けっこうめずらしいのかな?)
東京にかぎらず、わたしは現代日本のアパート事情にあまりくわしくない。大学2年までは実家とキャンパスがとても近くて、実家住まいだったから。
だけど、この春からわたしは3年生。
わたしが在籍している学部は、1年生2年生は神奈川県にあるキャンパス。3年生4年生は東京都にあるキャンパスに通うことになっている。
都内のキャンパスがあるのは世田谷区。
世田谷区には高級住宅地もあれば、古きよき下町情緒残る場所もあるそうだ。
今のわたしには『そうだ』としか言えないけど、ごく幼いころ、わたしも家族とともに世田谷区で暮らしていた時期があるらしい。
だけど、昔すぎてそのときの記憶はおぼろげ……というか、ほとんどおぼえてない。
そして、東京キャンパスがある世田谷区のこの町には昔、まかないつきの下宿屋が多かったという。
今は、近くに下宿屋はなく、代わりに賃貸アパートが多いらしい。
わたしが今日から住むことになるアパートも、昭和のころは下宿屋だったけれど、現在は普通のアパート。
(新年度最初の講義が始まるまで、まだ日にちに余裕がある今のうちにアパート生活を開始して……。初めての1人暮らしに早く慣れておきたいなぁ。自炊がんばろう!)
たっぷりの期待とちょっぴりの不安がわたしの心に入り混じる。
さっき桜並木で感じた妙な気配は……。もしかしたら、わたしの中の『ちょっぴりの不安』が、あのとき吹いた、あたたかな春風を誰かの気配だと――早とちりしてしまっただけなのかもしれない。
そう自分を納得させ、安心しようとしている最中。
突然、肩にかけているバッグから、音が鳴りだした。
このメロディはスマホの電話着信音。
わたしはバッグの中からスマホをとりだす。
通話の相手は、友達の恵。
スマホから響く恵の声は、ちょっと興奮ぎみ。……何かあった?
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