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最終章 わたしたちのはじめかた

2.

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 ユーリはわたしをみつめ、ゆっくりと告げた。

「莉子が私のことを好きっていってくれた時、本当はすごく嬉しかった――。だけど、莉子が見ているのは、男の子みたいな私で、女の子になれない私じゃなかったから……」

「……―――」

 わたしはユーリの言葉を否定することができなかった。何か言おうとして口を開けても、声が出てくれない。
 『そんなこと、ないよ』と言ってしまったら、それはユーリに対して嘘をついたことになってしまうから……。

「莉子が友達になってくれて、幸せになれたのは私の方――。でも、私は莉子にあこがれてもらう資格なんて、本当は何も持ってないんだ……。がっかりさせて、ごめんね――」

 ユーリは少しおどけて、口もとに微笑みを浮べた。だけど――、それはまるで、わたしにさよならでも告げるような、儚げなものに見えた。
 ときどき、どこか遠くをみつめるように物憂げになるユーリの黒い瞳……。
 はにかみながら、『また、一緒に帰ってくれる?』といったときのユーリの口もと。

 それらはきっと、ユーリがわたしに出してくれた『信号』をだったんだ。それなのに、わたしはそれを“素敵”としか受けとれなかった。
 それどころか、わたしは彼女に『男の子といる方が楽しいんでしょ?』なんて言ってしまった。

 ユーリは、ずっと1人で悩んできたのに。
 ユーリはわたしに心を開いてくれたのに。

 わたしは彼女に対して言ってはいけない、とても酷いことを言ってしまったんだ。
 そう思うと、わたしの両方の瞳から、涙がぽたぽたと流れ落ちていた。

「どうして莉子が泣いてくれるの?」

 やさしい声だった。
 ユーリは、涙を止められなくなったわたしをはげますように、口もとに柔らかな笑みを浮かべた。
 そのほほえみは暖かくて……、でも、まだ少し寂しそうだった。
 ユーリはこんなときでも、わたしに優しくしてくれる。なのに、わたしは――

「だって……だって、わたし――」

 そこまでいうと、わたしはユーリの身体にしがみついていた。
 ユーリを離したくない、そんな気持ちをわたしは泣くことと、触れることでしか、彼女に伝えられなかった。
 ユーリは、肩を震わせて泣き続けているわたしを少しでも落ち着かせようと、背中をさすってくれた。

 そんなユーリの優しさが、今のわたしには少しつらかった。
 でも、やっぱりうれしくて、気持ちよくって――。 
 そういった、ごちゃまぜな感情が、さっきいいかけた“だって”の続きを、わたしの正直な想いを語らせてくれた。

「わたし、ユーリのことをたくさん、本当にたくさん、傷付けてた……。ユーリのこと、なんにもわかってあげられなかった……。なんにも知ろうとしてなかった――。だけどね……。強いからすき、強くないからすきじゃない、なんてことじゃないの。わたしは、ユーリが……、“清原由利”が……、大好きなの……!」

 涙のせいで視界がぼやけてしまった瞳で、今度はわたしがすがるようにユーリをみつめた。

「わたし、2年前のユーリとも友達になりたい。わたしがクラスの女の子、全員分の友達になる! それじゃ、ダメ……?」

「莉子……」

 気がつくと、わたしはユーリにきつく抱きしめられていた。
 服の上からユーリの体温が、苦しいほど伝わってくる。その暖かさにつつまれて、わたしはようやく涙を止めることができた。
 ユーリのきれいな瞳がわたしをのぞきこんでいる。

「莉子。ホントの私と友達になってくれる……?」  

 わたしの答えは決まっている。

「うん――。よろしくね……」

 彼女の背中に手をまわし、わたしはそうつぶやいた。
 わたしはこれからも彼女と一緒にいたい、そう思ったから……。

 もうすぐ秋は終り、冬が訪れるけど、わたしはこの秋を絶対に忘れないと思う。
 わたしがユーリと出会うことのできた、彼女と過ごした最初の季節を。

(だって、つきなみと思うかもしれないけど、わたしたちの出会いは、きっと――)

     ~・~END~・~
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