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6章 このままじゃ、終われない!
6-04
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『誰かが自分にだけやさしくて、そのことを自慢に思ってしまう……』
わたしとユーリじゃ、状況が違うんだろうけど、その時のユーリの気持ちは、わたしにもなんとなくわかる。
わたしもユーリと友達になれたことを京花達に自慢して、彼女達を機嫌悪くさせていた――。
わたしは京花達から無視されたりとか、そういう意地悪なことは何もされなかったけど、でも、それって、ユーリの場合は相手が同じ学校の男の子で、わたしは違う学校の女の子だったから?
それとも、京花達は根がすっごくいい子達だから、そんなことにはならなかったの?
あてはまりそうな違いを思い浮かべても、なんだかしっくりしない。
だって誰かが自分を大事に思ってくれるのって、抑えきれないくらい嬉しいはずだ。
だけど、そのことでユーリはつらい思いして……。
それなのに、わたしは結局、ユーリにも京花達にもイヤな思いをさせてただけだった。
本当はクラスの友達にも恵まれてたのに、わたしはもっと素敵な友達がほしいなんて、ずっと不満に思っていた。
そんな自分が恥ずかしかった。
すごくズルいことしてたんだって思えた。
なのに、わたしの口からは、
「でも、やっぱりユーリは悪くないよ……」
そんな、ありきたりな言葉しか出てこなかった。
ユーリに何かを伝えたいのに、その“何か”を言葉にすることができなかった。
彼女はわたしに向かって、すこしぎこちない微笑を浮べた。
「あの頃は、私もそう思ってた。私はちっとも悪くないって……。だから、いままで友達だと思ってた子達から急に避けられるようになったときも、『この子達にとって、私って何だったんだろう……』って、気持ちでいっぱいだった。女の子から話しかけられないから、男の子としゃべってると、“清原さんは男子とばっかりいるから、女子に嫌われるのよね”って声が聞こえてきて……。全然平気なフリしてたけど、本当はすごく……寂しかったな……」
そう語るユーリの横顔は見ている者を底の見えない暗闇に引きこんでしまうほど、悲しげに曇っていた。
「2ヶ月もしないうちにクラス替えがあって女の子から無視されることはなくなった。だけど、そんなことがあってから、私は自分が女なのもゆるせないくらい、同性が大嫌いな中学生に変わっちゃってた。女の子を信じることが怖くなっちゃってた――」
ここまで話すと、ユーリはわたしをじっとみつめた。
吸いこまれそうになるほど深い、黒い瞳で……。
「『女の子』なんて忘れたかった。だから私は女子生徒がほとんどいない、今の高校を選んで男っぽいカッコばっかりしてたんだ。……だけど、はじめて莉子を見たとき――」
「はじめて……って、わたしがCDショップでユーリのことを呼び止めた時のことだよね?」
「ううん……。違うんだ。ホントは私、あの店に莉子が入ってきたときから――、莉子のこと、みてたんだ」
「え?」
思いもしなかった言葉に目を見開いてしまう。
「友達と一緒にCDショップに入ってきた莉子は楽しそうに、はしゃいでいた。髪をきれいに結んで、屈託なく笑う――そんな莉子をみていたら、素直に可愛いって思っている自分がいたんだ。“長い髪”“制服のスカート”“女の子の友達との寄り道”みんなみんな、うらやましかった……」
「ユーリ……」
「昔は自分もそこにいたのに、もう、そこに戻ることはできないんだって気持ちが押し寄せてきて、その場から立ち去れなくなってた。足が動かなかった。“なんで”“どうして”、そればっかりが私の頭に響いてた……」
わたしとユーリじゃ、状況が違うんだろうけど、その時のユーリの気持ちは、わたしにもなんとなくわかる。
わたしもユーリと友達になれたことを京花達に自慢して、彼女達を機嫌悪くさせていた――。
わたしは京花達から無視されたりとか、そういう意地悪なことは何もされなかったけど、でも、それって、ユーリの場合は相手が同じ学校の男の子で、わたしは違う学校の女の子だったから?
それとも、京花達は根がすっごくいい子達だから、そんなことにはならなかったの?
あてはまりそうな違いを思い浮かべても、なんだかしっくりしない。
だって誰かが自分を大事に思ってくれるのって、抑えきれないくらい嬉しいはずだ。
だけど、そのことでユーリはつらい思いして……。
それなのに、わたしは結局、ユーリにも京花達にもイヤな思いをさせてただけだった。
本当はクラスの友達にも恵まれてたのに、わたしはもっと素敵な友達がほしいなんて、ずっと不満に思っていた。
そんな自分が恥ずかしかった。
すごくズルいことしてたんだって思えた。
なのに、わたしの口からは、
「でも、やっぱりユーリは悪くないよ……」
そんな、ありきたりな言葉しか出てこなかった。
ユーリに何かを伝えたいのに、その“何か”を言葉にすることができなかった。
彼女はわたしに向かって、すこしぎこちない微笑を浮べた。
「あの頃は、私もそう思ってた。私はちっとも悪くないって……。だから、いままで友達だと思ってた子達から急に避けられるようになったときも、『この子達にとって、私って何だったんだろう……』って、気持ちでいっぱいだった。女の子から話しかけられないから、男の子としゃべってると、“清原さんは男子とばっかりいるから、女子に嫌われるのよね”って声が聞こえてきて……。全然平気なフリしてたけど、本当はすごく……寂しかったな……」
そう語るユーリの横顔は見ている者を底の見えない暗闇に引きこんでしまうほど、悲しげに曇っていた。
「2ヶ月もしないうちにクラス替えがあって女の子から無視されることはなくなった。だけど、そんなことがあってから、私は自分が女なのもゆるせないくらい、同性が大嫌いな中学生に変わっちゃってた。女の子を信じることが怖くなっちゃってた――」
ここまで話すと、ユーリはわたしをじっとみつめた。
吸いこまれそうになるほど深い、黒い瞳で……。
「『女の子』なんて忘れたかった。だから私は女子生徒がほとんどいない、今の高校を選んで男っぽいカッコばっかりしてたんだ。……だけど、はじめて莉子を見たとき――」
「はじめて……って、わたしがCDショップでユーリのことを呼び止めた時のことだよね?」
「ううん……。違うんだ。ホントは私、あの店に莉子が入ってきたときから――、莉子のこと、みてたんだ」
「え?」
思いもしなかった言葉に目を見開いてしまう。
「友達と一緒にCDショップに入ってきた莉子は楽しそうに、はしゃいでいた。髪をきれいに結んで、屈託なく笑う――そんな莉子をみていたら、素直に可愛いって思っている自分がいたんだ。“長い髪”“制服のスカート”“女の子の友達との寄り道”みんなみんな、うらやましかった……」
「ユーリ……」
「昔は自分もそこにいたのに、もう、そこに戻ることはできないんだって気持ちが押し寄せてきて、その場から立ち去れなくなってた。足が動かなかった。“なんで”“どうして”、そればっかりが私の頭に響いてた……」
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