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5章 すれちがい、そして
5-03
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家に帰ってからのわたしは、自分の部屋に閉じ込もっていた。
長い時間、ずっーと……。
そのあいだ何をしていたかというと、頭からふとんをかぶって、声もたてずにベッドで泣いていた。
我ながら芸のない落ち込み方とは思うのだけど、今はそれしかすることが思いつかないからしょうがない――。
そんなわたしを心配したのはママと妹の鈴。
2人は声をそろえて、
「お姉ちゃん、どうしたの?」
と言って、わたしをなぐさめようとしてくれた。
だけど、わたしは、
「なんでもない……。ちょっと疲れただけ」
そう答えると、2人を部屋から追い出してしまった。
誰かにこのこと話しても、きっと誰もわかってなんかくれない……、って思ったから。
そんな感じで、たった1人きり、落ち込んで落ち込んで、落ち込み疲れたわたしはある考えに至った。
(わたしって――変なの……)
ユーリに他の友達がいたって、いいはずなのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。
“ともだち”
ユーリ、いつもやさしかったよね……。
友達になりたいって押しかけて行ったわたしと友達になってくれた。
“ともだち”……。
「ううん」
わたしは首を振った。
(ただの友達の1人じゃイヤだった。わたしは彼女にとって、一番の存在になりたかったんだ……)
ユーリは素敵すぎる。
わたしがユーリみたいになるのは、不可能なことだってわかってる。
だからせめて、わたしがユーリの一番になって、彼女を独り占めしたかった。
わたし……カフェで「ユーリの『彼女』だと思われてるかもしれない」って思ったとき、ホントは嬉しかった……。
くすぐったい感じが、なんだか気持ちよかった。
1番の親友。
でも、それ自体が“彼女の親友になりたい”って言葉でごまかしただけの、わたしの子どもっぽい独占欲だったのかもしれない――。
そう気がついたとき、わたしは遠い昔の、ある出来事を思い出す。
わたしは幼稚園のころ、ヒツジのヌイグルミをとっても大事にしてた。
こんなこと、ずっと忘れてたけど、わたしはそのヌイグルミにメエちゃんという名前をつけて可愛がっていた。
すごく好きだったから、わたしが幼稚園に行っている間に、妹の鈴がそのヌイグルミで遊ぶのがイヤでならなかった。
それで、ある日。わたしはママに抗議した。
「このまえリンがお砂場あそびしたままの手でメエちゃん、さわろうとしてたの」
すると、ママはわたしと鈴の両方にほほえみかけ、こう言った。
「リンは、おねえちゃんのメエちゃんをさわるときは手をあらってからにしましょうね」
鈴はコクンとうなずいた。
「それなら、りこもメエちゃん、かしてあげるわよね?」
わたしはイヤイヤうなずいた。
ホントは、砂で汚れるからさわらせたくなかったんじゃない。
お気に入りのヌイグルミを誰かに触られるのがイヤなだけだった。
次の日、幼稚園から帰ってくると、鈴がメエちゃんで遊んでいた。
鈴は昨日のわたしの言葉を気にして、きれいに洗ったんだろうと思われる真っ白な手で、ていねいに、ていねいにヌイグルミの頭をなでていた。
わたしには、それがたまらなくイヤだった。
そのときの気持ち、今でも憶えている。
(メエちゃんを大事にするのは、わたしだけなのに……)
そう思った瞬間、鈴のちっちゃい手がすごく憎たらしくみえた。
それで、わたしは鈴からヌイグルミを取り上げて、彼女を泣かせてしまった。
鈴は、ちっとも悪くないのに……。
今思い出すだけでも、自分の心のせまさを実感してしまう。
あの頃と、わたしはなんにも成長ってない。
ユーリは綿の詰まったヌイグルミじゃないのに、おんなじことしちゃったんだ。
ユーリ、わたしがひどい言い方しちゃったから、すごく傷ついた顔してた……。
わたしだって友達から、『男の子といるほうが楽しいんでしょ』なんて言われたら、とってもイヤな気分になるはずなのに――。
ヒツジのヌイグルミ――、メエちゃん……。
あんなに大事にしてたのに、どこいっちゃったんだろう……。
今の今まで、そんな物があったことすら忘れてた。
……ユーリのことも、いつか――、そうなっちゃうの?
高校のとき、すごくきれいな人をみつけて、追いかけて。でも、あの人、いま何処で、何しているんだろう……、そんなふうに思う日が来るんだろうか?
そんなのって、なんだか悲しすぎる……。
わたしは、これ以上起きていると気が滅入ってきそうだったから、まだ夜の8時半だったけど眠ってしまうことにした。
(ヒツジが1匹……ヒツジが2匹……)
そんな古典的な方法で、眠気を誘おうとしてみる。
だけど、わたしのまぶたの裏にうつったヒツジはメエちゃんに似ていて、余計にやるせない気持ちになってしまった。
長い時間、ずっーと……。
そのあいだ何をしていたかというと、頭からふとんをかぶって、声もたてずにベッドで泣いていた。
我ながら芸のない落ち込み方とは思うのだけど、今はそれしかすることが思いつかないからしょうがない――。
そんなわたしを心配したのはママと妹の鈴。
2人は声をそろえて、
「お姉ちゃん、どうしたの?」
と言って、わたしをなぐさめようとしてくれた。
だけど、わたしは、
「なんでもない……。ちょっと疲れただけ」
そう答えると、2人を部屋から追い出してしまった。
誰かにこのこと話しても、きっと誰もわかってなんかくれない……、って思ったから。
そんな感じで、たった1人きり、落ち込んで落ち込んで、落ち込み疲れたわたしはある考えに至った。
(わたしって――変なの……)
ユーリに他の友達がいたって、いいはずなのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。
“ともだち”
ユーリ、いつもやさしかったよね……。
友達になりたいって押しかけて行ったわたしと友達になってくれた。
“ともだち”……。
「ううん」
わたしは首を振った。
(ただの友達の1人じゃイヤだった。わたしは彼女にとって、一番の存在になりたかったんだ……)
ユーリは素敵すぎる。
わたしがユーリみたいになるのは、不可能なことだってわかってる。
だからせめて、わたしがユーリの一番になって、彼女を独り占めしたかった。
わたし……カフェで「ユーリの『彼女』だと思われてるかもしれない」って思ったとき、ホントは嬉しかった……。
くすぐったい感じが、なんだか気持ちよかった。
1番の親友。
でも、それ自体が“彼女の親友になりたい”って言葉でごまかしただけの、わたしの子どもっぽい独占欲だったのかもしれない――。
そう気がついたとき、わたしは遠い昔の、ある出来事を思い出す。
わたしは幼稚園のころ、ヒツジのヌイグルミをとっても大事にしてた。
こんなこと、ずっと忘れてたけど、わたしはそのヌイグルミにメエちゃんという名前をつけて可愛がっていた。
すごく好きだったから、わたしが幼稚園に行っている間に、妹の鈴がそのヌイグルミで遊ぶのがイヤでならなかった。
それで、ある日。わたしはママに抗議した。
「このまえリンがお砂場あそびしたままの手でメエちゃん、さわろうとしてたの」
すると、ママはわたしと鈴の両方にほほえみかけ、こう言った。
「リンは、おねえちゃんのメエちゃんをさわるときは手をあらってからにしましょうね」
鈴はコクンとうなずいた。
「それなら、りこもメエちゃん、かしてあげるわよね?」
わたしはイヤイヤうなずいた。
ホントは、砂で汚れるからさわらせたくなかったんじゃない。
お気に入りのヌイグルミを誰かに触られるのがイヤなだけだった。
次の日、幼稚園から帰ってくると、鈴がメエちゃんで遊んでいた。
鈴は昨日のわたしの言葉を気にして、きれいに洗ったんだろうと思われる真っ白な手で、ていねいに、ていねいにヌイグルミの頭をなでていた。
わたしには、それがたまらなくイヤだった。
そのときの気持ち、今でも憶えている。
(メエちゃんを大事にするのは、わたしだけなのに……)
そう思った瞬間、鈴のちっちゃい手がすごく憎たらしくみえた。
それで、わたしは鈴からヌイグルミを取り上げて、彼女を泣かせてしまった。
鈴は、ちっとも悪くないのに……。
今思い出すだけでも、自分の心のせまさを実感してしまう。
あの頃と、わたしはなんにも成長ってない。
ユーリは綿の詰まったヌイグルミじゃないのに、おんなじことしちゃったんだ。
ユーリ、わたしがひどい言い方しちゃったから、すごく傷ついた顔してた……。
わたしだって友達から、『男の子といるほうが楽しいんでしょ』なんて言われたら、とってもイヤな気分になるはずなのに――。
ヒツジのヌイグルミ――、メエちゃん……。
あんなに大事にしてたのに、どこいっちゃったんだろう……。
今の今まで、そんな物があったことすら忘れてた。
……ユーリのことも、いつか――、そうなっちゃうの?
高校のとき、すごくきれいな人をみつけて、追いかけて。でも、あの人、いま何処で、何しているんだろう……、そんなふうに思う日が来るんだろうか?
そんなのって、なんだか悲しすぎる……。
わたしは、これ以上起きていると気が滅入ってきそうだったから、まだ夜の8時半だったけど眠ってしまうことにした。
(ヒツジが1匹……ヒツジが2匹……)
そんな古典的な方法で、眠気を誘おうとしてみる。
だけど、わたしのまぶたの裏にうつったヒツジはメエちゃんに似ていて、余計にやるせない気持ちになってしまった。
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