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001 邂逅①/夕日を駆ける老執事
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夕焼けに染まる街道を一台の馬車が駆け抜ける。
御者の席に座り手綱を引くのは、白髪の混じった初老の男。顔には深いしわが刻まれているが、背が高く真っ直ぐな背筋と老骨とは思えない肉体が身に纏う執事服の上からでも分かる。
「お嬢様、もうすぐお屋敷でございます、ご気分はいかがですか?」
老執事は馬を操りながらも、後ろの荷馬車に座る主に声をかける。
「問題ないわ、エヴァルト。貴方が引く馬車は不思議と車酔いしないの、さすが私の執事ね」
「はっはっは。それは恐縮です」
老執事は目を細め、好々爺然とした笑みを浮かべる。
「しかし本当によろしかったのですか、私めの我儘に付き添ってもらっていただいても」
「別にいいわ、いつも私の我儘を聞いてもらっているお礼よ。それにお屋敷の中にいるよりも貴方の傍にいる方が断然安心できるし」
「これは一本取られましたな、私といると安心できるとは。お嬢様も色恋沙汰に花を咲かせる年頃ですかな?」
「悪いけど、貴方に恋愛感情はないわ。私が主で貴方は私の執事、これは絶対よ。それに貴方といると安心できるというはただの比喩じゃないことは貴方が一番知っているのではなくて?」
エヴァルトは主を乗せた馬車の手綱に力を入れる。
「老い先短い私ではお嬢様のご期待にそえるだけで精一杯ですよ。そろそろこの老体めの代わりを探してはいかがですかな?」
「貴方の代わりなんてこの世界を探してもきっと見つからないわね」
「ううっ……そう言ってもらえると、じいや嬉しいでございまする」
「っ! ちょっとエヴァルト、運転が荒くなってきたわよ⁉ 感激して泣いてないで前をしっかり見て! ちょっとどうして手綱から手を離して、鼻をかんでいるのかしらッ!?」
黄昏時の道を荒い運転の馬車が駆け抜ける。ほどなくしてその御者は馬車を完全に停止させた。
「エヴァルト、どうしたの。お屋敷はまだ先のはずでしょ?」
「お嬢様、街に火が上がっております」
数百メートル先の街に黒煙が立ち込めていた。破壊されていく街、広がりゆく炎、そして逃げまとう人々の悲鳴。
エヴァルトは眼光を鋭くし、この地獄の元凶を探す。
視線の先に見つけたそれは――。
「魔物でございます。お嬢様、ご命令を」
「言うまでもないわ、エヴァルト。私の領土に土足で踏み入った、不届きものに制裁を与えなさい」
「はい、仰せままに」
エヴァルトは馬車から降りて短く応え、主を乗せた馬車ごと魔術による結界を施す。
「【円環】」
エヴァルトがそう短く呟くと馬車は半球状の見えない壁に覆われ、絶対の安全を約束された。それを確認し、エヴァルトは戦地へと駆け出した。
御者の席に座り手綱を引くのは、白髪の混じった初老の男。顔には深いしわが刻まれているが、背が高く真っ直ぐな背筋と老骨とは思えない肉体が身に纏う執事服の上からでも分かる。
「お嬢様、もうすぐお屋敷でございます、ご気分はいかがですか?」
老執事は馬を操りながらも、後ろの荷馬車に座る主に声をかける。
「問題ないわ、エヴァルト。貴方が引く馬車は不思議と車酔いしないの、さすが私の執事ね」
「はっはっは。それは恐縮です」
老執事は目を細め、好々爺然とした笑みを浮かべる。
「しかし本当によろしかったのですか、私めの我儘に付き添ってもらっていただいても」
「別にいいわ、いつも私の我儘を聞いてもらっているお礼よ。それにお屋敷の中にいるよりも貴方の傍にいる方が断然安心できるし」
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エヴァルトは主を乗せた馬車の手綱に力を入れる。
「老い先短い私ではお嬢様のご期待にそえるだけで精一杯ですよ。そろそろこの老体めの代わりを探してはいかがですかな?」
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「ううっ……そう言ってもらえると、じいや嬉しいでございまする」
「っ! ちょっとエヴァルト、運転が荒くなってきたわよ⁉ 感激して泣いてないで前をしっかり見て! ちょっとどうして手綱から手を離して、鼻をかんでいるのかしらッ!?」
黄昏時の道を荒い運転の馬車が駆け抜ける。ほどなくしてその御者は馬車を完全に停止させた。
「エヴァルト、どうしたの。お屋敷はまだ先のはずでしょ?」
「お嬢様、街に火が上がっております」
数百メートル先の街に黒煙が立ち込めていた。破壊されていく街、広がりゆく炎、そして逃げまとう人々の悲鳴。
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「魔物でございます。お嬢様、ご命令を」
「言うまでもないわ、エヴァルト。私の領土に土足で踏み入った、不届きものに制裁を与えなさい」
「はい、仰せままに」
エヴァルトは馬車から降りて短く応え、主を乗せた馬車ごと魔術による結界を施す。
「【円環】」
エヴァルトがそう短く呟くと馬車は半球状の見えない壁に覆われ、絶対の安全を約束された。それを確認し、エヴァルトは戦地へと駆け出した。
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