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002 七夕の日、少年と少女が願うのは。
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七月七日。
雲ひとつない青空の下、肌を焼くほどの日差しが降り注ぐ表通りを一人の少女が通り過ぎる。
艶のある長い髪に、白いロングワンピースを着た少女。片手には陽の雨を遮る日傘を差し、涼しげな表情で歩く姿は街行く人々の視線を釘付けにする。
男性から見れば、彼女の隣を歩くことを渇望するが、それが高い理想であると挫折するほどの美人。
女性から見れば、男達の視線を集める彼女に嫉妬するも、それ以上に憧憬の眼差しを向けるほどの佳人。
三十度を超える暑さにも負けず、それを感じさせない足取りの彼女はどこか浮世離れしているようだった。
だが、一つだけ白いロングワンピースの少女を現実に引き戻しているものがあった。
隣を歩く男である。
寝癖のついたボサボサの髪に冴えない眼鏡、シワだらけの白Tシャツに黒いズボンを着た男。
長身痩躯であるが猫背で、足取りもどことなく重い。
周りの男達から見た彼の評価は、美人とは不釣り合いな冴えない奴だ。
見た目冴えない男、黒無蒼司は隣を歩く白いロングワンピースの少女、日和に声をかける。
「今日はすごく暑いな。人も多いし、熱中症になる前にどこか建物の中に避難しよう」
「ええ、そうですね。このままだと干からびてしまいます」
涼しげな表情を見せる日和だが、彼女の額から桜色の頬、細い顎、首筋、そして鎖骨へと汗の滴が流れ落ちるのを見て、蒼司は水の入ったペットボトルを差し出した。
「さっきそこの自販機で買ってきた。脱水症状になる前に飲んでくれ」
「え、ですがこれは黒無さんのでは?」
「今日は俺に付き合ってもらってるんだ。これぐらい奢らせてくれ」
蒼司とペットボトルを交互に見た後、日和はペットボトルに口を付けた。
ごくごくと細い首に冷たい水を流し込む。
「生き返る感覚がします。暑い日にはやはり冷たいものですね」
「だな」
二人が表通りを歩いていると、近くの公園に人だかりができているのを見つけた。
人々は備え付けられた机の上で何か書き物をしている。そして書き終えた者はそれを笹に飾り付ける。
「日和、あれは何をしているんだ?」
「ああ、そういえば今日は七夕でしたね」
「七夕? 聞いたことはあるが、あの人たちは何をしているんだ?」
蒼司の言葉に日和は目を丸くするが、すぐに七夕について語り出した。
「七夕というのはその昔、遊んで暮らすようになった織姫と彦星を怒った神様が天の川を隔てて二人を引き離してしまい、一年に一度、七月七日の夜にだけ会わせるという伝説から始まった行事です。七月七日にあの短冊に願いごとを書いて、笹に飾り付けをするんですよ」
「そうなのか」
「せっかくですし、私たちも願いごとを書いてみましょう」
蒼司は笹に飾られた短冊を見る。
『恋人ができますように』『料理が上手になりますように』『サッカーが上手になりますように』『平和な世界でありますように』
人々は各々自分の願いをそこに込めていた。
蒼司と日和はそれぞれ別々の備え付けの机の上で短冊に願いを書き始めた。
イベントのスタッフから短冊とペンを渡された蒼司はそこでピタリと動きを止める。
(俺の願いか……)
そんなものは一つしかない。
短冊にペンを走らせる。少しの逡巡なく込めた願いはこれだ。
『失った記憶を取り戻せますように』
短冊に込めた願いを確認し、笹に飾り付けようとしたところで、日和から声をかけられる。
「書き終わりましたか?」
「ああ。今から飾り付けるところだ」
蒼司の短冊に書かれた言葉を見て、日和は苦笑する。
「やっぱり、黒無さんの願いはそれですか」
「ああ。これ以外に俺の願いはない」
「そうですよね」
「日和は何を願ったんだ?」
蒼司の言葉に日和は小悪魔っぽくウインクした。
「内緒です」
雲ひとつない青空の下、肌を焼くほどの日差しが降り注ぐ表通りを一人の少女が通り過ぎる。
艶のある長い髪に、白いロングワンピースを着た少女。片手には陽の雨を遮る日傘を差し、涼しげな表情で歩く姿は街行く人々の視線を釘付けにする。
男性から見れば、彼女の隣を歩くことを渇望するが、それが高い理想であると挫折するほどの美人。
女性から見れば、男達の視線を集める彼女に嫉妬するも、それ以上に憧憬の眼差しを向けるほどの佳人。
三十度を超える暑さにも負けず、それを感じさせない足取りの彼女はどこか浮世離れしているようだった。
だが、一つだけ白いロングワンピースの少女を現実に引き戻しているものがあった。
隣を歩く男である。
寝癖のついたボサボサの髪に冴えない眼鏡、シワだらけの白Tシャツに黒いズボンを着た男。
長身痩躯であるが猫背で、足取りもどことなく重い。
周りの男達から見た彼の評価は、美人とは不釣り合いな冴えない奴だ。
見た目冴えない男、黒無蒼司は隣を歩く白いロングワンピースの少女、日和に声をかける。
「今日はすごく暑いな。人も多いし、熱中症になる前にどこか建物の中に避難しよう」
「ええ、そうですね。このままだと干からびてしまいます」
涼しげな表情を見せる日和だが、彼女の額から桜色の頬、細い顎、首筋、そして鎖骨へと汗の滴が流れ落ちるのを見て、蒼司は水の入ったペットボトルを差し出した。
「さっきそこの自販機で買ってきた。脱水症状になる前に飲んでくれ」
「え、ですがこれは黒無さんのでは?」
「今日は俺に付き合ってもらってるんだ。これぐらい奢らせてくれ」
蒼司とペットボトルを交互に見た後、日和はペットボトルに口を付けた。
ごくごくと細い首に冷たい水を流し込む。
「生き返る感覚がします。暑い日にはやはり冷たいものですね」
「だな」
二人が表通りを歩いていると、近くの公園に人だかりができているのを見つけた。
人々は備え付けられた机の上で何か書き物をしている。そして書き終えた者はそれを笹に飾り付ける。
「日和、あれは何をしているんだ?」
「ああ、そういえば今日は七夕でしたね」
「七夕? 聞いたことはあるが、あの人たちは何をしているんだ?」
蒼司の言葉に日和は目を丸くするが、すぐに七夕について語り出した。
「七夕というのはその昔、遊んで暮らすようになった織姫と彦星を怒った神様が天の川を隔てて二人を引き離してしまい、一年に一度、七月七日の夜にだけ会わせるという伝説から始まった行事です。七月七日にあの短冊に願いごとを書いて、笹に飾り付けをするんですよ」
「そうなのか」
「せっかくですし、私たちも願いごとを書いてみましょう」
蒼司は笹に飾られた短冊を見る。
『恋人ができますように』『料理が上手になりますように』『サッカーが上手になりますように』『平和な世界でありますように』
人々は各々自分の願いをそこに込めていた。
蒼司と日和はそれぞれ別々の備え付けの机の上で短冊に願いを書き始めた。
イベントのスタッフから短冊とペンを渡された蒼司はそこでピタリと動きを止める。
(俺の願いか……)
そんなものは一つしかない。
短冊にペンを走らせる。少しの逡巡なく込めた願いはこれだ。
『失った記憶を取り戻せますように』
短冊に込めた願いを確認し、笹に飾り付けようとしたところで、日和から声をかけられる。
「書き終わりましたか?」
「ああ。今から飾り付けるところだ」
蒼司の短冊に書かれた言葉を見て、日和は苦笑する。
「やっぱり、黒無さんの願いはそれですか」
「ああ。これ以外に俺の願いはない」
「そうですよね」
「日和は何を願ったんだ?」
蒼司の言葉に日和は小悪魔っぽくウインクした。
「内緒です」
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