【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)

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25話(4)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】

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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI

■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』

-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU    
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「お、あれが例の桜か」
義満が庭の一画にある、一本の糸桜に目をやった。

横に大きく腕を広げた幹からは、薄桃色の花をまとった枝が天女の瓔珞のようにしゃらしゃらと揺れている。様々な名木や名花を集めた庭の中でも、この桜は誰が見ても別格だと感じるだろう。

「確かに美しいが、何度見てもただの柳の木にしか見えないな。本当にあそこに花鬼が住んでいるのか?」
「えぇ、今はセイと在原朝臣がいますよ。あと義経と弁慶も。あ、安倍晴明もいますね。木に五寸釘を打とうとしている花鬼を止めてます」
「それはまた、豪華な集まりだな」

糸桜の根元では、花鬼たちがワイワイと酒盛りをしていた。傍らで、良基が微笑ましげにそれを見守っている。端から見れば、桜を観賞しているようにしか見えないが。

実は、この木こそが影向(ようごう)の桜の本体なのだ。もともとは近衛家にあった名木なのだが、室町第御所建造の際に、義満が無理を言って譲り受けた。

おかげで、今では花鬼の出現をいち早く知ることができる。
この前も、清涼殿にでる菅原道真の花鬼を祓うために、藤若は夜な夜な京の町をかけずり回っていたところだ。「化け物退治する稚児」が見られたのも、その時かもしれない。

義満がため息をついた。

「はぁ。俺も一緒に行ければいいのにな。御所の中にこもっているだけなんて、やはり性分に合わない……近頃では帝との謁見や朝廷への参進などで、ずっとこんな堅苦しい格好させられて……せめて少しくらい息抜きしたい」
「まぁ、何言っているんですか」

高橋殿がわざとらしく驚きの声を上げた。

「そんなこと言いながら、ずいぶんと好き勝手しているじゃありませんか。この前の祇園会での件、忘れたとは言わせませんよ」
「さて、何だったかな」

義満が明後日の方向を向く。

先日、四条河原で申楽の興行が行われた。藤若は、義満の付き添いとして随行したのだ。

「あの時、公家の方々が何とおっしゃっていたと思います? 義満公は乞食である申楽の子供を側に侍らせて、あまつさえ同じ盃を与えたと。それを見ていた諸大名たちが貴方様のご機嫌をとるためにごぞって藤若殿に贈り物をするものだから、伝統と格式が命の公家の方々は猛反発ですわ。三条公忠様なんか『後愚昧記』にはっきりとけしからんと書かれているそうよ」
「ふん。そんなのは、言わせておけばいい。それに大名どもがゼアに贈り物をするのは、何も俺のせいだけではない。今やこいつは、観世座一の人気役者だからのう」
「まあ、確かに」

高橋殿は、感慨深そうに藤若を見た。

「出会った頃はまだまだ子どもだったのに、今じゃ花が開くように美しくなって。それに演技の方も、まるで当人が憑いているかのように迫真せまるものがあって、いつも息も飲んでしまいますわ」
「まぁ、それは当の本人である花鬼たちから色々と稽古をつけてもらっているので──」

言いかけてやめた。秘すれば花。役者の舞台裏は言わない方がいい。

「ところで花鬼と言えば」
ふいに、義満が話題を変えた。

「この前、お前が言っていた花鬼を主役にした申楽能を創るというのは、進んでいるのか?」
「それが……まだまだなんです。一応、父から作能のやり方については習っているんですが、幽霊を主役にするとなると、目に見えないはずの存在をどうやって演出すればいいか悩んでいて……今、ぼんやり考えているところだと、物語を前場と後場に分けて、前場では現地の人に憑いた花鬼が現れて、後場では花鬼が当時の姿になって現れるっていう。あ、それとも──」
「これは長くなりそうだ。行くぞ。高橋」

義満は忍び笑いを浮かべながら、踵を返した。

「お前がどんな能を創るか、楽しみに待っていよう。その時までには、きっと俺もこの世をより良いものにできているだろう」

背中を向けたまま、義満はひらひらと手を振った。

これより数十年後、義満は南朝との講話を実現し、念願であった両朝合一を果たす。さらには、明朝貿易において、明の皇帝から「日本国王」の称号まで与えられ、室町幕府の最盛期を築き上げた。

「えぇ、必ず」

去って行く義満の背中を見ながら、藤若は風に乗ってやってきた桜の花びらを手にとった。

藤若、後の世阿弥は、花鬼──古典の登場人物が幽霊として登場する夢幻能という新しい演技の形式を確立し、申楽を能楽という不動の芸能にまで高め上げた。

そして六百年経った現在でも、能──花鬼の美しくも哀しい物語は、日本のどこかしらで演じられ、花鬼たちの生き様や想いを多くの人々に伝え続けている。



/完





今までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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