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12話(3)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】
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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー
昼下がりの庭は、燦々とした陽光に溢れていた。梢では小鳥が囀り、青葉が地面に柔らかい影を落としている。小川が流れる音が、心地よく響く。
しばしの間、良基は一言も発せず、のんびりと庭先の風景を眺めていた。
(……どうも調子が狂う人だな)
そんな事を思っていると、
「――御所勤めはどうかな?」
唐突に、良基が聞いてきた。鬼夜叉の返事も聞かず、続ける。
「武家とは言え、今の将軍は無類の芸能好き。御所でも立花、香道、和歌の会が定期的に催されている。幼き頃より、それらを習ってきた子息、子女たちでさえ、ついていくのに必死だ。ましてや、そなたのような――」
暗に「乞食の子」と言われている気がして、すかさず口を開いた。
「申楽の題材の多くは、和歌や古今の物語からとられています。僕も幼き頃より、父の指導のもと、あらゆる物語をたしなんできました」
強く言うと、良基はほほほと笑った。
「そうか、そうか。顔に似合わず、気が強いようだのぅ。観阿弥殿も良い子息を持たれた。古今の物語についても、よく学んでいるようじゃし。何なら、儂が京の町を案内してあげようか?」
「……えっ!?」
もしかして、先ほどのセイとの会話を聞かれていたのだろうか。
不自然なところはなかったか、と必死に思い返していると、良基が立て続けに聞いてきた。
「他には、何を習った? 蹴鞠、聞香、立花は?」
「えぇっと……蹴鞠を少し。あとのものは御所でかじった程度で……」
声が徐々に小さくなる。
御所で催された香道の会に出た時、作法も何もわからず、失敗してしまったのを思い出したのだ。
当然、その後は、他の稚児や側女に「やはり畜生に、雅な道は無理だろう」とからかわれた。
唇を噛んだ鬼夜叉に気づいて、良基は「ふむ」と頷いた。
「鬼夜叉殿。そなたさえ良ければ、御所で必要な教養をここで学んだらいかがかな。この屋敷には毎日、その道きっての上手が集まり、同好の会を開いておる。彼らに師事しても良いし、もちろん儂につくのでも良い」
突然の提案に、鬼夜叉は戸惑った。
「え、でも……僕は……」
「ん? もしやこのじじいの腕が心配かね? 儂はこれでも一応、『将軍きっての目利き』と呼ばれているあの悪童の師でもあるんだがのう」
「……え? じゃぁ悪童って、やっぱり大樹様のことで?」
「さよう。子どもの頃のあやつに、芸能が何たるかを教え込んだのは儂じゃ。大変じゃったぞ。暴れ馬みたいな悪ガキを大人しくさせるのは。今のあやつが公家の連中と対等に渡り合えているのも、儂が宮廷での作法やらを徹底的に教え込んだからじゃ。見物だったぞ。初めは侍ごときが言っておった公家の連中が、あやつの完璧な作法を見て、二の句がつげなくなった様は。近頃では、あやつが一人で宮廷に入って天子様に会っても、誰も文句は言わない。むしろ、宮仕えの女官なんてあやつが来ると聞くと色めきたつようになって」
「……は、はあ」
「おや? 興味なかったかのう。では、こうゆうのはどうじゃろう。昔は粗忽(そこつ)者だったあの悪童だが、唯一、儂が教える前から、舞いに関してはただならぬ興味――いや、敬慕を持っていた、というのは?」
「……え、大樹様が舞いに、ですか?」
まさか、そんなはずない。
昨日のことでも、よくわかったはずだ。
義満にとっては、芸も芸人も都合が悪くなればいつでも切り捨てられる道具でしかない。
(そんなこと、初めからわかっていたことなのに……)
鬼夜叉は、静かに頭を下げた。
「……准后様。お話は嬉しいのですが、僕はもう御所に行くことはないと思います。だから――」
「その話なら聞いておる」
良基は、肩で大きく息をした。
「まったく。あの悪童も、何を考えておるんだか。こんな時に鬼夜叉殿を手放すなど。確かにあやつは芸を見る目はあるようだが、それ以外はさっぱりだ。のぅ、そこな女人?」
良基は、庭に向けていた視線を縁側に向けた。
そこには誰もいない。鬼夜叉以外の人には、そう見えるはずだ。
「えっ」
自分を真っ直ぐ見る老人を、セイが目を丸くして見返した。
「……おじさん、あたしが見えてるの?」
「あぁ、見えておるよ。はっきりと」
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