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9話(2)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】
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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー
──申楽の子への将軍のご寵愛が並々ならないらしい。
京の町に、噂は瞬く間に広がった。
「何でもどこへ行くにも連れてって、閨(ねや)にもずっとお呼ばれしているらしいじゃないか」
「しかも、あの管領(かんりょう)様の猛反対を押し切ったとか。芸人と将軍との身分差なんて、素敵だねぇ」
だが、現実はそんな甘いものではなかった。
「この乞食風情が偉そうに」
渡殿(わたどの)を通っていると、冷ややかな声が聞こえてきた。柱の影で、数人の少年たちがひそひそと話している。
極彩色の水干に、紅をつけた唇──みな、義満の稚児たちだ。
みな、有名な大名や御家人の子息たちとだけあって利発そうな、洗練された容姿をしている。しかし今、その美しい顔は嘲笑で歪んでいた。
「おぉ、何か臭うと思ったら、人間の物真似をした猿か」
「一体、どんな卑しい手練手管(てれんてくだ)で大樹様を惑わしたのやら」
下卑た笑い声が響く。鬼夜叉は聞こえないふりをして、横を通り過ぎた。
彼らは妬ましいのだ。
あまたの優秀で美しい稚児をさしおいて、芸人の子である自分が義満の寵愛を一身に受けていることが。
だが何度も言うように、彼らが思っているのと、現実はだいぶ違う。
「大樹様。参りました」
唐紙を開けると、義満が書状とにらめっこをしていた。隣には頼之もいる。
「そこに置いておいてくれ」
義満は顔を上げることなく言った。だいぶ集中しているようだ。
鬼夜叉は頼まれた書巻を、文机の脇の経台(きょうつくえ)にそっと置いた。
「……どうした? 変な顔をして」
ちらりと、義満が顔を上げた。
さすが当代きっての目利き。一目見ただけで、鬼夜叉の様子がおかしいことに気づいたらしい。
「それが……」
開けかけた口を噤む。
自分は芸人だ。悪口を言われることには慣れている。
たいした問題じゃない。
控え間の前廊下に泥や動物の死骸がばらまかれていたり、義満からもらった着物を破かれていたりするのもたいした問題じゃない。
むしろ、感動したくらいだ。
どうやら人は、『源氏物語』の時代から何も変わっていないらしい。
もし将来、桐壺(きりつぼ)の役をやることがあった時には、この屈辱を恨みたっぷりに謡にぶつければいい。まぁ、桐壺の更衣はそんな女性ではないけれど。
「……いえ、もともとこうゆう顔です。では、僕はこれで」
「あぁ、夜には戻って来いよ」
今度は顔を上げずに言った。部屋を出た鬼夜叉は、深いため息を一つついた。
義満の稚児に命じられてから、一ヶ月。家と御所を行ったり来たりする忙しい毎日だ。
早朝は稽古をして、昼は御所に出仕。夕方に一回、家に帰り稽古。そして、夜は義満の寝所に戻ってくる。
ここ一ヶ月、ずっとそんな感じだ。
舞い──稽古がなければ、耐えることはできなかっただろう。
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