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9話(1)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】

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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI

■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』

-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU    
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「……へ? 何言ってるの? 毎日、大樹様の部屋に来られる訳がないよ」
「出来るでしょう。あなたがこの人お付きの稚児になれば。ね、ぴったりじゃない! 稚児だったら身の回りの世話と称して、ずっと傍についていることも出来るし、寝所に入ったって怪しまれない。でしょう?」
「そんな簡単に言うなよ……ただでさえこんなことになってるのに……きっとすぐに出入り禁止だよ」

赤くなった義満の額を見て、鬼夜叉は今更ながら怖じ気づいた。

「あら、そう? あたしはそうとは思わないけどなぁ~」
義満と鬼夜叉の顔を交互に見ながら、セイはにたにたと笑った。ポンと、鬼夜叉の肩を叩く。

「ま、なるようにしかならないんだから。それよりも、今日はもう休んだら? あなたも疲れているでしょ?」
確かに。無心に眠る義満を見ていたら、徐々に自分の瞼も重たくなってきた。

「うぅ、やばい、限界かも……セイは? これから、どうするの?」
「あたしは夜遊びにいってくるわ。せっかくの都なんだし」
「わかった……いい男がいてもついていくんじゃないぞー」
「それは保証出来ないわね。じゃ」

手を振って、セイは庭の向こうの闇に消えてしまった。

「はぁ……今日は色々あったなぁ……」

昼間は舞台で、夜は御所(ごしょ)。まるで、何日分もの出来事を凝縮した一日だった。
色々なことを思い出しながらうつらうつらしていると、後ろからカタリと物音がした。

「!?」
振り返ってみて驚いた。

廊下に続く唐障子のわずかな隙間から、白いものが浮かんでいた。
細い二つの瞳。喜びとも哀しみともつかない間(あわい)の表情。

間違いない。
──新熊野で見た女面だ。

身体は完全に闇に沈んでいるのだろう。白い面(おもて)だけがぽっかり浮いているように見える。

ぞわり。戦慄で、首の裏の肌が粟立った。
と、次の瞬間、女面がスッと闇の中に消えてしまった。

「待っ──」
立ち上がろうとして、留まった。義満を、ここに一人で置いておくことは出来ない。

鬼夜叉はしばらくの間、息を潜めて襖(ふすま)の向こうの闇を見ていた。だが、再び女面が姿を現すことはなかった。





「……ん」

半蔀(はじとみ)から朝の日差しが入ってくる。身体を起こすと、額がわずかに痛んだ。
昨夜の出来事を思い出そうとして、途中までしか出てこないことに気づく。

(確か、申楽の子どもと一緒だったはずだが……)
キョロキョロと辺りを見回す。誰もいない。先ほどまで自分の頭があったところには、白絹の水干が畳んで置かれていた。

「……」
着物を手に取った時、庭の方から伸びやかな声がした。
誘われるように、縁側に出る。

見ると池を配した庭を背景に、一人の少年が舞っていた。


〽 天の原 ふりさけみれば 霞たつ 雲路まどひて ゆくへ知らずも


瞳を閉じ、まるで天にのみ捧げるような舞いと謡い。
義満は縁側に腰を下ろし、しばらくぼんやりとその光景を見ていた。


「早いな」
舞い終わり、朝の澄んだ空気を堪能していた鬼夜叉は、その声にハッと振り返った。縁側の高欄に肘をついた義満が、まだ眠気の残る顔でこちらを見ていた。

「大樹様っ」
慌てて、平伏する。まさか見られていたなんて。

「すみませんっ、いつもこの時間は朝稽古をしているので、身体がつい」
「そうか、感心だな」

義満は欠伸を一つして、鬼夜叉を見た。

「俺は随分と深く眠ってしまったようだ。昨晩の記憶があまりないんだが」
「あっ、えーと、それは、大樹様は大変お疲れのご様子で、話をしている間に眠ってしまったような……そうではないような……」
「は? どっちなんだ……?」

しばらく記憶をさぐっていた義満だったが、そのうち諦めたように立ち上がった。階を降りて、鬼夜叉のところまでやってくる。

「面を上げよ」
鬼夜叉が顔を上げると、義満は凜々しい将軍の顔に戻っていた。黄金の〝気〟に、朝日が反射して眩しい。

「こんなに穏やかに眠れたのは、久しぶりだ。よくわからぬが、お前のおかげなんだろう」
義満は鬼夜叉の前にしゃがみこむと、厳かな口調で言った。

「本日より、そなたに余の近習(きんじゅう)を命じる。常に余の傍につき、片時も離れるな」
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