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8話(1)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】

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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI

■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』

-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU    
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(まさか、本当に大樹様は……?)
いや、それはありえない。御所には、名門氏族の子息や子女がたくさんいる、天人のような彼らをさしおいて、まさか芸人の子が寝所に召されるなど、許されないことだ。

(そうだ、セイ。セイはどこにいる?)
助けを求めて、辺りを見回す。確か御所に着く前までは、鬼夜叉の隣をフワフワ浮いていたはずだ。今もきっとどこかにいるに違いない。

「まったく、落ち着きのない奴だな」
呆れ声がしたと思ったら、いつの間にか義満が目の前で片膝をついていた。顎を強く掴まれ、至近距離で視線がかち合う。

「単刀直入に言うぞ。お前は何者だ?」
「は……? 何者、ですか? もしかして、まだ僕を南朝の手先と疑っているんですか? それは絶対にありえません。僕は後にも先にも、ただの芸人で──」
「そうゆうことを聞いているんじゃない」

と、義満がぴしゃりと言った。

「余が聞いているのは、そなたが何をしたかだ。この間も今日も、そして今も、そなたが舞った時、一瞬だけだが花びらのようなものが見えた。そしたら身体が急に軽くなり、悩まされていた頭痛も消えた。一体、何をしたんだ?」
「何をしたって……何も。ただ舞っただけです。……たぶん」
「たぶん?」
「いや、舞っている時はあまり覚えていないというか。こうふわふわしたいい気分の中に浸っているというか」

義満の顔が不審に歪む。

「そなた、何か怪しい薬草でもやってるのか?」
「まさか!」

顔の前で手を振った。

「とにかく、僕は本当にただ舞っているだけです。それ以外は何もしていない」
ふと、セイの言葉を思い出す。

──あなたの舞いには邪気を鎮める力がある。
だが、こんなことを言えば、薬を疑われるどころじゃない。物狂いの疑いまでかけられてしまう。

「くそっ」
義満が苛々した様子で、親指の爪を噛んだ。

「そなたなら、この状況について何か知っていると思ったんだが。余の検討違いだったか」
「? この状況、といいますと……?」

義満は一瞬、鬼夜叉を探るような目つきで見ると、嘲りの笑みを浮かべた。

「まぁ、別に芸人ごときに言っても差し支えないか」
カチンときた。
鬼夜叉は煮えたぎる苛立ちを、すました面の下に押し込む。

「そうですか。なら言わないで結構です。芸人の僕には関係ないことですから」
「別に言わないとは言ってないだろう!」

すかさず反駁(はんばく)すると、義満は間を置かずに言う。こころなしか、口調もくだけている。

「ここのところだ。御所──特に、この母屋(もや)にいると、やけに身体が重くなったり、頭が痛くなったり。果ては、毎晩のように同じ夢を見て起こされる」
「夢、ですか?」
「あぁ、お前たち申楽師が使う面があるだろう。若い女の面だ。それをかけた奴が、徐々に俺に近づいてくるんだ。毎晩、毎晩少しずつ」
「女面?」

鬼夜叉は昼間舞台で見た、女面の鬼のことを思い出した。
義満は気まずそうに目を伏せる。

「将軍である俺が、そんな夢ごときに怯えているなんて思われたら困る。が、妙に気味が悪くてな。まさかと思うが、南朝の輩が俺に呪詛をかけている可能性もある。しかし、どうも自分はそうゆうことには疎くてな。ゆえに申楽者であるお前なら、何か知っているかと思ったんだ」
「? どうして申楽師なら、知っていると思ったんですか? 別に呪術と申楽は関係ないでしょう?」

義満は、ぽかんと口を開けた。

「本気で言ってるのか? まさか、お前、本当に何も知らずにただ舞っているだけなのか!?」
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