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7話(2)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】
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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー
「まったく、頼之(よりゆき)の奴! 嫌がらせのように部屋に閉じこもりやがって! あんなでかい図体のくせして!」
「まぁまぁ、大樹様。頼之殿は貴方のこととなると、あの固い頭がもっと固くなるところがあるから。──あら?」
唐紙の前にいる鬼夜叉に高橋殿が目を向けた。
湯殿に用意されていたのは、真新しい童水干(わらべすいかん)だった。
薄紫の単。白絹の水干。胸と袖の飾り紐は、鮮やかな若緑色。膝下までの袴は濃紺。
髪は後ろで高くくくり、元結いでとめてある。
これぞ、稚児という格好だ。
「よくお似合いだこと。ねぇ、大樹様?」
「ふん」
義満はちらりと鬼夜叉を見ただけで、すぐに視線を逸らした。
どうやら、かなり機嫌が悪いらしい。
先ほどまで機嫌良さそうに「何でも好きなものを贈ろう」と言っていた人物だとは思えない。高橋殿からその人となりを聞かされていなければ、そのあまりの落差に戸惑ったことだろう。
表御所ではあんなに輝いていた黄金の〝気〟も、気のせいか今は薄く色も鈍い。
義満の自室らしい部屋は広々とした板間で、南向きの蔀(しとみ)からは風雅な庭が見渡せた。だが初夏とは思えない冷ややかさといい、廊下よりも増した息苦しさといい、どうも落ち着かない部屋だ。
鬼夜叉は自らの腕を抱き、ぶるりと震えた。
(どうしたんだろう……? 湯冷めでもしたのかな?)
その時、高橋殿の短い悲鳴が響いた。
「大樹様!? どうなさったんですか!?」
突然、ぐらりと床に手をついた義満の身体を、高橋殿が受け止める。
「どうしたのですか? お具合でも?」
義満は頭を振ると、高橋殿を手で制した。
「大事ない。ちょっと眩暈がしただけだ。すぐに治る」
「癇癪も過ぎると、身体を悪くしますわ。ただでさえ、ここのところ、ずっと調子が悪いのに。先ほどから、顔色も冴えませんわ」
「うるさいな。余(よ)が大丈夫だと言ったら、そうなんだ」
義満は体勢を直すと、再び盃を手にとった。
高橋殿が言う通り、義満の顔色はだいぶ悪かった。
しかし、義満が簡単に他人の言うことなど聞くはずない。それくらいは会ったばかりの鬼夜叉でもわかる。
「大樹様。今日はそこらへんにしておきなさい」
高橋殿が、盃を持つ義満の手をぴしゃりと叩いた。
さすがにやりすぎなのではと、鬼夜叉は肝を冷やした。何せ相手は将軍。お手討にされてもおかしくはない。
しかし義満は意外にも、
「まったく、高橋の小言はいつもうるさいな」
と、ブツブツ言いながらも盃を置いた。高橋殿が当然、という顔で素早く盃を片付ける。
「言われたくないのなら、ご自愛下さいませ。もはや貴方様は、この国にとってなくてはならないお方なのですから」
「ふん、余計なお世話だ」
義満は皮肉たっぷりに鼻を鳴らした。
傍らで見ていると、二人のやりとりは将軍と愛妾というより、しっかり者の姉ときかん気のない弟のようだ。
「さあさ、今日は鬼夜叉殿がいるんですから、お酒よりも舞いなどどうですか?」
「……しょうがないな。鬼夜叉、舞え」
義満はほとんど面倒くさそうに、前の板間を扇で示した。
カチンと勘に障る。
(何だ、それ。自分から呼んでおいて)
鬼夜叉はほとんど喧嘩を仕掛けるような気持ちで、席を立った。
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