【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)

文字の大きさ
上 下
7 / 64

3話(2)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】

しおりを挟む


ーーーーーーーーーーー
一時的に週4回の更新にさせていただきます。
■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI

■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』

-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU    
ーーーーーーーーーーー


「近頃のお前の舞いは、目を瞠るものがあるな」
夕方。稽古をつけてもらっていると、父の清次が言った。
夜の宴での稽古の成果か、最近、鬼夜叉は自分でも演舞の腕がメキメキ上がっているのを感じていた。

「うむ。これなら、どうにかなるかもしれない」
清次は、興奮ぎみに鼻息をもらした。

「聞いて驚け、鬼夜叉。今度行われる新熊野の勧進能に、我が座も召されることになった。しかも、今回は将軍様もいらっしゃるそうだ」
「えっ、将軍様が!? ……ん? 将軍様?」
「まさかと思うが、息子よ。将軍様を知らないのか?」
「そのくらい知ってますよ。鬼斬り伝説で有名な坂上田村麻呂とか、あとは『長恨歌』の玄宗皇帝とかかな?」
「おいおい、それは物語の中の将軍だろう。いい加減、物語と現実を混同するのはやめろ。お前は、今の将軍様を知らないんだな?」

鬼夜叉は素直に頷いた。

「……すみません。僕はどうも、政治には疎くて」
「お前が疎いのは、申楽以外の全てだろう」

清次はきっぱり言って、ごほんと喉を正した。

「今の将軍──足利幕府三代目将軍である義満様は、あらゆる芸能に秀でた風流将軍だと聞く。もしここで将軍の贔屓を得られれば、一座は一躍、都へ進出できるかもしれないぞ。そうすれば、もっと多くの人に申楽を知ってもらえる!」

近頃の清次は、申楽をさらに刷新すべく、日々、新しい演目を創り、演出や音曲に工夫を凝らしていた。その努力が報われたのだろう。先日行われた興福寺での勧進能では、大きな喝采を得ることができた。
その評判が将軍の耳に入り、今回の勧進能につながったのかもしれない。

「やっとだ、鬼夜叉」

清次が、息子の肩をがしりと掴んだ。
「今の将軍である義満(よしみつ)様は、良いと思った芸には惜しみない支援をしてくださるという。そうなれば、もう乞食だ畜生だと言われることもなくなる。今まで俺たちを馬鹿にしてきた者を見返すことも出来る。あと少し、あと少しの辛抱だ」

肩に食い込んだ清次の指が、これまでの苦労を物語っていた。彼は目じりから落ちるものを気づかれぬように拭うと、さっと顔を上げた。

「さぁ、こうしてはいられない! さっそく稽古だ! びしびし指導するから、覚悟しておけよ!」



そして迎えた、新熊野神社での勧進能の日。
広い境内の一画には、舞台とそれを囲む桟敷席が建てられた。色鮮やかな幕が、初夏の風になびく。舞台正面の地べたには筵が敷かれ、既に農民や神官、下級武士などが大勢集まっていた。

「もしかして、緊張してる?」

舞台袖から客席を覗いていると、後ろからセイがひょっこりと顔を出した。
新熊野での勧進能の話をしたら「面白そう」と言ってついてきたのだ。どうせ他の人には、見えないのだからと好きにさせておいた。
何より、セイがいてくれた方が鬼夜叉としても心強い。

「大丈夫よ。いつも宴会でやっているみたいにやれば。ほら、お客さんなんて雑鬼だと思えばいいの」
「う、うん。ありがとう……」

だが今日は、どうしても雑鬼だと思えない人物が一人いた。
ちらりと、桟敷席の方を見やる。

舞台正面の二階桟敷には、金の屏風が立てかけられ、左右で正絹(しょうけん)の几帳がなびいていた。
今日一番の主賓の席だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

穢れなき禽獣は魔都に憩う

クイン舎
キャラ文芸
1920年代の初め、慈惇(じじゅん)天皇のお膝元、帝都東京では謎の失踪事件・狂鴉(きょうあ)病事件が不穏な影を落としていた。 郷里の尋常小学校で代用教員をしていた小鳥遊柊萍(たかなししゅうへい)は、ひょんなことから大日本帝国大学の著名な鳥類学者、御子柴(みこしば)教授の誘いを受け上京することに。 そこで柊萍は『冬月帝国』とも称される冬月財閥の令息、冬月蘇芳(ふゆつきすおう)と出会う。 傲岸不遜な蘇芳に振り回されながら、やがて柊萍は蘇芳と共に謎の事件に巻き込まれていく──。

裏吉原あやかし語り

石田空
キャラ文芸
「堀の向こうには裏吉原があり、そこでは苦界の苦しみはないよ」 吉原に売られ、顔の火傷が原因で年季が明けるまで下働きとしてこき使われている音羽は、火事の日、遊女たちの噂になっている裏吉原に行けると信じて、堀に飛び込んだ。 そこで待っていたのは、人間のいない裏吉原。ここを出るためにはどのみち徳を積まないと出られないというあやかしだけの街だった。 「極楽浄土にそんな簡単に行けたら苦労はしないさね。あたしたちができるのは、ひとの苦しみを分かつことだけさ」 自称魔女の柊野に拾われた音羽は、裏吉原のひとびとの悩みを分かつ手伝いをはじめることになる。 *カクヨム、エブリスタ、pixivにも掲載しております。

仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-

橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。 心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。 pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。 「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

処理中です...