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第十話 五
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百位は屋根を失くした神輿にしがみついていた。神輿は、空を飛ぶ。
「ひゃああああああああああ!」
どこに行っても人形たちに道を塞がれていた。蹴散らしても無限にわいてくる。時間だけが浪費され、なんとかしろと担ぎのあやかしたちへ意思を通した。担ぎ手のあやかしたちが選んだのは、塀と堀を飛び越える道で、初めての空の旅は、浮く体で神輿にしがみつくので精一杯だった。内臓がせり上がる感覚に全身の毛穴が開く。すぐ隣の二位は胡坐をかいたまま涼しい顔でキセルを咥えているが、どんな体幹をしていればそんな余裕ができるのだ。
「いだっ!」
神輿の着地の衝撃で、今度は体が床に叩きつけられる。膝を強打した。もう二度と飛びたくない。
あやかしの門広間はすぐそこだ。龍の咆哮が轟き、肌寒さに身震いした。門広間に近づくにつれ気温が下がっている。吐く息が白い。火の粉舞う空の曇天が、なにやら渦を巻き始めている。
「……これじゃあ……」
戦いに行けるのは自分たちだけだ。そう直感したのは、帝都守備隊の詰所や武器庫が全て燃えていたからだ。僅かに動ける衛兵が、生き埋めになった衛兵を救おうとしている。道端で手足を失くした衛兵が泣き喚き、そもそも倒壊した建物の数さえ少ない気がした。穴が開いた地面の上には、かつて、衛兵の宿があったような。
そして神輿が進むたび、どんどん心臓が早打ちになっていく。居ても立っても居られなかった。神輿から飛び降りた百位は、半壊していたそれに駆け寄った。
「クク! ククっ!」
半壊しているのは牢屋だった建物で、一階の半分が二階に圧し潰されている。かろうじて全壊になっていないのは、牢の頑強な格子が柱を折った建物を支えているから。ただ、まだ潰されていない一階部からも、メキメキと木の悲鳴が聞こえる。
「くく! 返事してよ!」
呪符が貼り付けられている牢区画があった。そこは、二階部の床が真下に落下したようだった。動かせる壁や柱を掻き分ける。そうすれば、痣と擦り傷まみれの右腕があった。
「くく!!!」
その手を握り、何度も揺さぶった。頭を隠していた建材を押しのけたとき、栗色の瞳が動いた。
「くく! 起きて! ここから逃げて!」
「…………なに、してる、の?」
「助けに来たの!」
「…………どこまで、ばか、なの」
「馬鹿でいいわよっ! ここは危ないから!」
「うるさい」
握っていた手を振り払われる。牢屋の下敷きになったまま、九十九位は瞼を下ろした。
ここで、寝るみたいに。
「……なんでよ」
実は最初、馬小屋で知り合って、仕事を教えてあげたとき、なんとなく感じたことがあった。馬の世話の仕方、ほんとは知っていたんじゃないかって。聞かなかったけど。
「…………なんでよ」
あまりにも覚えが早すぎるし、そもそも馬との触れ合いに慣れていたから。だって、馬を使う商会の娘が、馬の扱い方を知らないなんてこと、ありえない気がして。
「ねえ、教えて」
でも、気のせいだと思うようにした。いつも笑いかけてくれて、お話をしてくれて。
「なんで、装束、貸してくれたの?」
五位と出会えたのは、東雲の装束を貸してくれたから。
「なんで、おにぎり、食べさせてくれたの?」
生きられたのは、傲慢な大きさの握りを食べさせてくれたから。
「わたしのこと、殺すなら、あんなお腹一杯になるまで、食べさせなくてよかったのに」
いつだって、もう駄目かもと思うたび、手を差し伸べてくれて。
「わたしのこと、殺すなら、あんなに一緒にいなくてもよかったのに」
いつだって、優しかった。
「ばかだなぁ」
返事は、それだけだった。
しゅるりと体に紐が巻きついてきた。なにかと思えば、十六夜の尾だった。担ぎ手のあやかしたちは歩みを止めていない。神輿が牢屋を通り過ぎようとしている。早く来い。そう言わんばかりに体が引っ張られる。
「やだ! ねえ! くく!」
その手を握ろうとしたのに、体が宙に浮いたせいで手が届かなかった。めきっと聞こえたのは、最後の支えが息絶えた音で、真上の屋根がぐらり、傾く。
「やだっ、やだあ! くく、くく! わたし、わたし、こころ! 名前、こころって言うの! ねえ! 教えて、くく! 名前っ! 教えてぇ!」
届かない手を伸ばしたとき、彼女は顔を上げてくれた。にへらと緩んだ頬を伝う一滴が落ちたとき、友達の顔がそこにあった。
「ばかだなぁ。ずっと、呼んでくれているのに。ばかだなぁ。ばかだなぁ。最初、どきっと、した、のに。ばか、だ、なぁ。ほんと、ばかなんだから。ばい、ばい、こころ、ちゃん」
――ねえ、百位さんのこと、ヒャクちゃんって呼んでもいい?
――え? まあ、いいけど。
――ヒャクちゃんも好きに呼んでくれていいよ?
――そう? じゃあ……、九十九だから、クク、ね。
――……ふふ、そっか、えへへ、うん、嬉しい、な。
屋根が落ちる。はにかむ九十九位の頭部目掛けて。
「やだあああああああああああああああああああああ!」
直視できなかったから目を力一杯に瞑った。
……やけに、静かだった。
建物が崩れたのに、なにも聞こえなかった。
片目だけを薄く開けてみた。
鍛え抜かれた大きな背中がある。金髪で筋肉質な男はなぜか上半身裸だった。
崩れたはずの屋根が静止している。掬うように屋根を抱えているのも筋肉質な青色の右腕で、右腕の持ち主は鬼のような形相で牢屋を天から見下ろしていた。
いや、鬼のような、ではなく、本物の、鬼だ。
「邪魔、しないで」
男を見上げた九十九位は、そう口にした。
「気に入らん」
男の声量は、極端に小さかった。図体に見合わないほど。
「罪を、償わせて」
その言葉を聞いた男の背から、湯気が立つ。
「償い、だと?」
次の瞬間、九十九位は瓦礫の中から引きずり出されていた。それも、胸倉を掴まれ、無理やり引きずり出された。からからと木の破片が散らばる。九十九位は素足のままだったが、つま先は地面に触れていなかった。
「あれほどの才を持ちながらっ、このまま無責任に死ぬと言うのかああああ!」
九十九位に頭突きをかましたのは、帝位三位、鬼を従える男で、九十九位が「くはっ」と鼻血を垂らし、目を回す。
「友を救える力が、戦う力がぬしにはあるのにっ! それを捨てると言うのかああああ!」
雄叫びに九十九位が顔をしかめる。胸倉を握る腕にさらに力が入ったようで、小刻みに震えだす。
「ならその才! 俺様によこせえ! 俺様だけだあ! なんの才も持たない平凡な帝位はあ! どんなに体を鍛えようが、霊力を操るぬしらの足元にも及ばん! ふざけるな! ふざけるなあああ! 家族を守れなかったのだろう!? 友を裏切ったのだろう!? だから死んで償うだと? ぬしが裏切った友はっ、いまっ、なにを望んでいるのだあああああああ!」
九十九位の栗色の瞳が、ゆっくり動く。
向き合わなければ。
伝えなければ。
絡んだ目線に、伝えるのは、
「くく! わたしっ、くくのこと大好きだからぁ!」
裂けてしまいそうなほど口角を引き下げた彼女は、歯を割れんばかりに食いしばり、大粒の涙を溢れさす。
「百位! ここは任せて早く行け! 俺様は、動けるものを救い、後から行く! 止まるな! 振り返るな! 語るのは、背中だけで充分だ! 行け!」
吠える三位は表情を見せはしない。血管が浮き上がった逞しい腕と、盛り上がった背中は発汗し、たぎる熱気を昇る湯気が示す。青鬼、そして赤鬼が倒壊した建物から衛兵たちを引っ張り出していく。
やがて百位は神輿に座らされた。九十九位と三位のことが気になって仕方なかった。だが、進まなければならない。その一心で、神輿の正面へ顔を向け、白銀の鍵を胸に抱いた。火の粉の中を、純白の粒たちがひらりと舞う。
今年の初雪は、例年よりも一月早かった。
「ひゃああああああああああ!」
どこに行っても人形たちに道を塞がれていた。蹴散らしても無限にわいてくる。時間だけが浪費され、なんとかしろと担ぎのあやかしたちへ意思を通した。担ぎ手のあやかしたちが選んだのは、塀と堀を飛び越える道で、初めての空の旅は、浮く体で神輿にしがみつくので精一杯だった。内臓がせり上がる感覚に全身の毛穴が開く。すぐ隣の二位は胡坐をかいたまま涼しい顔でキセルを咥えているが、どんな体幹をしていればそんな余裕ができるのだ。
「いだっ!」
神輿の着地の衝撃で、今度は体が床に叩きつけられる。膝を強打した。もう二度と飛びたくない。
あやかしの門広間はすぐそこだ。龍の咆哮が轟き、肌寒さに身震いした。門広間に近づくにつれ気温が下がっている。吐く息が白い。火の粉舞う空の曇天が、なにやら渦を巻き始めている。
「……これじゃあ……」
戦いに行けるのは自分たちだけだ。そう直感したのは、帝都守備隊の詰所や武器庫が全て燃えていたからだ。僅かに動ける衛兵が、生き埋めになった衛兵を救おうとしている。道端で手足を失くした衛兵が泣き喚き、そもそも倒壊した建物の数さえ少ない気がした。穴が開いた地面の上には、かつて、衛兵の宿があったような。
そして神輿が進むたび、どんどん心臓が早打ちになっていく。居ても立っても居られなかった。神輿から飛び降りた百位は、半壊していたそれに駆け寄った。
「クク! ククっ!」
半壊しているのは牢屋だった建物で、一階の半分が二階に圧し潰されている。かろうじて全壊になっていないのは、牢の頑強な格子が柱を折った建物を支えているから。ただ、まだ潰されていない一階部からも、メキメキと木の悲鳴が聞こえる。
「くく! 返事してよ!」
呪符が貼り付けられている牢区画があった。そこは、二階部の床が真下に落下したようだった。動かせる壁や柱を掻き分ける。そうすれば、痣と擦り傷まみれの右腕があった。
「くく!!!」
その手を握り、何度も揺さぶった。頭を隠していた建材を押しのけたとき、栗色の瞳が動いた。
「くく! 起きて! ここから逃げて!」
「…………なに、してる、の?」
「助けに来たの!」
「…………どこまで、ばか、なの」
「馬鹿でいいわよっ! ここは危ないから!」
「うるさい」
握っていた手を振り払われる。牢屋の下敷きになったまま、九十九位は瞼を下ろした。
ここで、寝るみたいに。
「……なんでよ」
実は最初、馬小屋で知り合って、仕事を教えてあげたとき、なんとなく感じたことがあった。馬の世話の仕方、ほんとは知っていたんじゃないかって。聞かなかったけど。
「…………なんでよ」
あまりにも覚えが早すぎるし、そもそも馬との触れ合いに慣れていたから。だって、馬を使う商会の娘が、馬の扱い方を知らないなんてこと、ありえない気がして。
「ねえ、教えて」
でも、気のせいだと思うようにした。いつも笑いかけてくれて、お話をしてくれて。
「なんで、装束、貸してくれたの?」
五位と出会えたのは、東雲の装束を貸してくれたから。
「なんで、おにぎり、食べさせてくれたの?」
生きられたのは、傲慢な大きさの握りを食べさせてくれたから。
「わたしのこと、殺すなら、あんなお腹一杯になるまで、食べさせなくてよかったのに」
いつだって、もう駄目かもと思うたび、手を差し伸べてくれて。
「わたしのこと、殺すなら、あんなに一緒にいなくてもよかったのに」
いつだって、優しかった。
「ばかだなぁ」
返事は、それだけだった。
しゅるりと体に紐が巻きついてきた。なにかと思えば、十六夜の尾だった。担ぎ手のあやかしたちは歩みを止めていない。神輿が牢屋を通り過ぎようとしている。早く来い。そう言わんばかりに体が引っ張られる。
「やだ! ねえ! くく!」
その手を握ろうとしたのに、体が宙に浮いたせいで手が届かなかった。めきっと聞こえたのは、最後の支えが息絶えた音で、真上の屋根がぐらり、傾く。
「やだっ、やだあ! くく、くく! わたし、わたし、こころ! 名前、こころって言うの! ねえ! 教えて、くく! 名前っ! 教えてぇ!」
届かない手を伸ばしたとき、彼女は顔を上げてくれた。にへらと緩んだ頬を伝う一滴が落ちたとき、友達の顔がそこにあった。
「ばかだなぁ。ずっと、呼んでくれているのに。ばかだなぁ。ばかだなぁ。最初、どきっと、した、のに。ばか、だ、なぁ。ほんと、ばかなんだから。ばい、ばい、こころ、ちゃん」
――ねえ、百位さんのこと、ヒャクちゃんって呼んでもいい?
――え? まあ、いいけど。
――ヒャクちゃんも好きに呼んでくれていいよ?
――そう? じゃあ……、九十九だから、クク、ね。
――……ふふ、そっか、えへへ、うん、嬉しい、な。
屋根が落ちる。はにかむ九十九位の頭部目掛けて。
「やだあああああああああああああああああああああ!」
直視できなかったから目を力一杯に瞑った。
……やけに、静かだった。
建物が崩れたのに、なにも聞こえなかった。
片目だけを薄く開けてみた。
鍛え抜かれた大きな背中がある。金髪で筋肉質な男はなぜか上半身裸だった。
崩れたはずの屋根が静止している。掬うように屋根を抱えているのも筋肉質な青色の右腕で、右腕の持ち主は鬼のような形相で牢屋を天から見下ろしていた。
いや、鬼のような、ではなく、本物の、鬼だ。
「邪魔、しないで」
男を見上げた九十九位は、そう口にした。
「気に入らん」
男の声量は、極端に小さかった。図体に見合わないほど。
「罪を、償わせて」
その言葉を聞いた男の背から、湯気が立つ。
「償い、だと?」
次の瞬間、九十九位は瓦礫の中から引きずり出されていた。それも、胸倉を掴まれ、無理やり引きずり出された。からからと木の破片が散らばる。九十九位は素足のままだったが、つま先は地面に触れていなかった。
「あれほどの才を持ちながらっ、このまま無責任に死ぬと言うのかああああ!」
九十九位に頭突きをかましたのは、帝位三位、鬼を従える男で、九十九位が「くはっ」と鼻血を垂らし、目を回す。
「友を救える力が、戦う力がぬしにはあるのにっ! それを捨てると言うのかああああ!」
雄叫びに九十九位が顔をしかめる。胸倉を握る腕にさらに力が入ったようで、小刻みに震えだす。
「ならその才! 俺様によこせえ! 俺様だけだあ! なんの才も持たない平凡な帝位はあ! どんなに体を鍛えようが、霊力を操るぬしらの足元にも及ばん! ふざけるな! ふざけるなあああ! 家族を守れなかったのだろう!? 友を裏切ったのだろう!? だから死んで償うだと? ぬしが裏切った友はっ、いまっ、なにを望んでいるのだあああああああ!」
九十九位の栗色の瞳が、ゆっくり動く。
向き合わなければ。
伝えなければ。
絡んだ目線に、伝えるのは、
「くく! わたしっ、くくのこと大好きだからぁ!」
裂けてしまいそうなほど口角を引き下げた彼女は、歯を割れんばかりに食いしばり、大粒の涙を溢れさす。
「百位! ここは任せて早く行け! 俺様は、動けるものを救い、後から行く! 止まるな! 振り返るな! 語るのは、背中だけで充分だ! 行け!」
吠える三位は表情を見せはしない。血管が浮き上がった逞しい腕と、盛り上がった背中は発汗し、たぎる熱気を昇る湯気が示す。青鬼、そして赤鬼が倒壊した建物から衛兵たちを引っ張り出していく。
やがて百位は神輿に座らされた。九十九位と三位のことが気になって仕方なかった。だが、進まなければならない。その一心で、神輿の正面へ顔を向け、白銀の鍵を胸に抱いた。火の粉の中を、純白の粒たちがひらりと舞う。
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