暗黒騎士物語

根崎タケル

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第14章 草原の風

第16話 狼の聖地ネウロイ

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 ネウロイの地。

 広大なキソニアのとある場所にある狼達の聖地である。
 少し高い丘の上に複数の高い岩が並ぶ景観である。
 そのネウロイの地は絶えず強い風が吹き、岩の隙間を風が通りすぎると狼が咆哮を上げているような音がする。
  ネウロイは凶獣フェリオンが住んでいた地であり、強く吹く風はフェリオンの魔力を帯びた咆哮が残ったものある。
 咆哮を聞き、その声に応えた者を狼の眷属へと変えてしまう。
 かつて国を追われた人間の王であるライカンが人狼ワーウルフへと変貌した話は有名である。
 そんな魔風が吹き荒れる地にコウキは足を踏み入れようとしていた。



 コウキは犬のような生物であるラシャを頭に乗せて走る。
 このラシャのおかげで多頭蛇の岩場を簡単に抜ける事ができた。
 ラシャがどのような存在かわからない。
 しかし、コウキに懐いている。
 犬や猫などに好かれないコウキとしては新鮮であり、それが嬉しくて連れて行っている。

(何だろう風が強くなってきた。しかも、この風……。何か変だ)

 コウキは風を受けながらそう思う。
 風には魔力が含まれていて、コウキのむき出しの肌に喰らいつくような感触を与えていた。
 先ほどの蛇の岩場と同じように只ならぬ場所なのだろうと考える。
 そして、走っている時だった。
 突然何かが四方から飛んでくる。
 コウキはその飛んできたものを素早く避ける。
 飛んできたものは先ほどまでコウキがいた場所に突き刺さる。
 それは十字の形をした小さな刃物であった。
 手裏剣、またはスローイングスターと呼ばれる投擲武器である。
 コウキは周囲を見る。
 先ほどまでいなかったはずなのに、いつの間にか黒い毛並みの狼人ウルフマン達に取り囲まれている。
 手裏剣を投げるまで完全に姿を消していたようだ。
 
「ほう、避けたか、ただの馬人の子ではないようだな」

 黒い狼人ウルフマンが片刃の剣を構えて言う。
 コウキは周囲を見る。
 姿を見せている狼人ウルフマンの他に姿を隠している者がいる。
 姿を見せている者は囮だ。
 あえて姿を見せる事で隠れている者を探させない。
 これで全てだと思い込ませる。
 過去に習った事がある戦法だ。
 ゴブリンだってこれくらいの事はすると聞いている。
 こういう時は止まってはいけない。
 すばやく動き続ける事が重要であった。

「ごめんなさい。通らせてもらいます」

 コウキは前に向かって駆け出す。
 前には2匹の黒い狼人ウルフマン
 コウキが剣を振るうと狼人ウルフマンも片刃の剣で応戦する。
 その剣を受け流し、横をすり抜けるとそのまま駆ける。
 後ろから手裏剣を投げるがそれを横に飛び避ける。
 振り返らず全力疾走だ。
 狼人ウルフマン達も追いかけてくる。
 
「おのれ! 我ら影走りシャドウランナーから逃れられると思うな!!」

 その声を聴いた時だった。
 コウキは地面に足が引っ張られる感覚がして動きを止めてしまう。

「な? 何!?」

 コウキは驚き地面を見ると自身の影に何かが突き刺さっている。
 
「ふっ、影縫いの術よ。これで貴公の動きは封じた」

 黒い狼人ウルフマンはそう言って笑う。

「子どもと思うて侮った。だが、頭領の術式を食らっては動けまい」

 影縫いの術を使った者以外も追いついて来てそう言う。
 再び取り囲まれるコウキ。
 コウキは自身の影に突き刺さっている物を見る。
 黒い両刃の剣。
 苦無と呼ばれる武器である。
 それがコウキの影を地面に縫い付けているようであった。

(ようはこれを影から抜けば良いのかな?)

 とりあえず剣で苦無を除ける事にする。

「無駄だ! 魔力を込めた苦無は抜けぬって……。何い~!」

 頭領である狼人ウルフマンが驚きの声を出す。
 なぜならコウキが剣で苦無を弾くと簡単に抜けたからだ。

「えっと、簡単に抜けたんですけど……。それじゃあ行きますね」

 コウキは再び駆け出す。

「待て! 追ええ!!」

 頭領は部下に掛け声をしてコウキを追う。

(待ってられないよ……。急いでここを通り抜けよう)

 コウキはさらに加速する。
 しかし、それ無理な事だった。
 コウキの前に巨大な何者かが立ちふさがる。
 強力な圧を感じ、コウキは止まる。
 
「かつて嗅いだ匂いだ。ケンタウロスの姿をしているが間違いねえ。まさか、こんなところで会うとはな……。なかなか面白い運命だぜ!」

 巨大な何者は手に持った何かをコウキに向ける。
 それは巨大な蛮刀であった。
 
「お前は……」

 コウキは蛮刀を向けてきた相手を見る。
 首狩りヤサブと呼ばれる赤い狼人ウルフマンである。
 まさか、ここで出会うとは思わなかった。
 彼の後ろには赤い狼人ウルフマンの戦士達がいる。
 かなりの数だ。

「ヤサブ殿! 良くぞ止めて下さった!」

 追いついた黒い狼人ウルフマンが後ろを固める
 完全に囲まれてしまった。

「赤目か? さすがだな、まさか影走りシャドウランナーを振り切るとはな。ますます気に入ったぜ! 貴様はこのヤサブの獲物だ! 勝負だ! 他の者は手を出すな!」

 ヤサブは楽しそうに言う。
 
「ヤサブ殿。この者は只者ではございませぬ。単独での勝負はすべきではありませんぞ」

 赤目と呼ばれた狼人ウルフマンの姿が分裂していく。
 七つ身分身と呼ばれる技である。
 コウキは知らないが赤目の特技は幻術であり、七つ身分身は全力を出した証であった。
 赤目の配下の狼人ウルフマン達も油断なく構えている。
 
(どうしよう……。戦うしかないのかな?)

 コウキは焦る。
 前にも後ろにも、戦わずに済ませる事はできなさそうであった。
 ヤサブや赤目という狼はかなり強そうである。
 もちろん、レイジやチユキ達に比べれば弱いだろうが、簡単に倒せるとは限らない。
 
「待ちな! お前ら!」

 コウキがどうしようか考えている時だった。
 頭上から声がする。
 コウキが上を見ると岩の上に誰かが立っている。
 前に見たとこある顔だ。

「テリオン!?」
「久しぶりだな! コウキ!」

 岩の上にいるのは前に出会った事があるテリオンである。

「とおっ!!」

 テリオンが掛け声と共に降りてくる。
 
「若か?」
「若様? この者と知り合いなのですか?」

 ヤサブと赤目が驚く声を出す。
 
「ああ、以前に世話になった事がある。まさか、ここに来るとはな」

 テリオンは不敵に笑う。
 敵意を感じない。

「若様。この者はかつて偉大なる方の復活を邪魔した者でございますぞ。それに小さいとはいえ竜を連れております。成長すれば必ずや強敵となりましょう」

 岩影から白い老婆が出てくる。
 老婆の髪の間から狼の耳が見えているので、この老婆の正体も狼なのだろう。
 その老婆の傍には小さい女の子。
 前にあった事があるハヤと名乗った狼の少女である。
 老婆の視線の先にはラシャがいる。

「竜? ラシャが?」

 コウキは剣を持っていない左手でラシャを頭から降ろすと見る。
 ラシャは様子もわからずコウキを見つめている。

「そうじゃ、竜の子を連れる者なぞ。只者ではないな、お主。この者は仇となるかもなりませぬ。帰してはなりませぬぞ! 若様!」

 白い老婆はコウキを見て叫ぶ。

「あの~。お婆様。ハヤは大人しく返した方が良いと思うですよう。それに遠くから嫌~な気配を感じるですう」

 ハヤがそう言うと白い老婆はハヤを睨む。
 睨まれるとハヤは黙る。

「カジーカ。俺もこいつを見逃してやりてえ。理由は違うがな。こいつは面白い。強くなったこいつとやりあってみてえ。それに前に世話になった。だから、今回はこいつを襲うのはなしだ。今は見逃してやる。それにしてもどうしてそんな姿なんだ?」

 テリオンはコウキの姿を見て疑問に思う。
 
「ええと、これには色々と事情があって……」

 コウキはテリオンに事情を説明するのだった。
 

 

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