暗黒騎士物語

根崎タケル

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第14章 草原の風

第9話 二柱の戦女神

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 女神レーナは空船に乗りキソニア平原の端にあるペンテレア女王国へと来る。

(はあ、気分が重いわね。正直行きたくないわ……)

 レーナは溜息を吐く。
 この地に入るのは久しぶりで会った。
 神王オーディスがサジュタリスに遠慮しているためか、この地にはエリオスの神々が立ち寄らない。
 一応アマゾナがいるが、キソニアの端だったりする。
 そんなキソニアにレーナが来たのはオーディスの指令だからである。
 このキソニアを超えた先にあるワルキアの地で異変が起きたからである。
 すでにアルフォス率いる聖騎士団とトールズ率いる聖戦士団は動いている。
 その補助のためにレーナにも動いて欲しいとオーディスがレーナに要請したのだ。
 また、今回はアマゾナにも動いてもらおうというになり、拾いに来たのである。

「レーナ姉様あ~! いらっしゃいませ~!」

 ペンテレアの王宮に入ると早速アマゾナが出迎えてくれる。

「久しぶりね。アマゾナ。元気にしてた」

 レーナは抱き着いて来たアマゾナの頭を撫でる。

「ふふ、レーナ姉様。船旅で疲れたでしょう。湯殿を用意しております。一緒に入りましょう。そして、一緒に洗いっこを、ぐふふふ」

 アマゾナはレーナの胸に頭を当てて言う。

「それは、遠慮しておくわ。アマゾナ」

 レーナはアマゾナを引きはがす。
 
「そんな~。姉さま~」

 アマゾナは悲しそうな顔をするが、レーナは気にせず、中へと入る。

「レイジは来ているんでしょ。今どこにいるの?」

 レーナはレイジ達を探す。
 今回の件はレイジ達も動かして欲しいと要請があった。
 オーディスと同等の光の魔法を使うレイジは死の軍勢に有効だからだ。
 中に進むとレイジとシロネの姿が見える。
 レイジはこの国の歓待を受けていて、側には半裸の女性が見える。
 シロネも同じように歓待を受けている。
 むしろ、レイジよりも歓迎を受けているようであった。
 まあ、この国は強い女性を讃える風潮にある。
 優秀な女戦士であるシロネは崇拝の対象になるのも当然であった。
 チユキでなくシロネがこの場に残っているのもアマゾナとこの国の女王達の意向なのだろうとレーナは推測する。
 
「レーナ。久しぶりだな。会いたかったぜ」

 レーナを見るとレイジは立ち上がり、出迎える。

「ええ、久しぶりだわ。私も会いたかったわ、レイジ」

 レーナは最上級の笑顔を作るとレイジの側に行く。
 作られたものだが、天上の美姫と称されるレーナの笑顔は同性であっても魅了する。
 レイジとシロネの側にいた女性達がレーナを見て見惚れる。
 これでほったらかしにしていた事も許されるはずだ。

「それにしても、今度はどうしたんだ? レーナ? 何があった?」

 レイジはレーナに聞く。
 久しぶりのレーナのお願いであり、何があったのか聞くのは当然であった。

「その通りよ、レイジ。ワルキアという土地の事は知っているかしら?」
「名前だけは聞いた事があるが、詳しくしらないな……」
「そう。ワルキアは死神ザルキシスが支配する地よ。ザルキシスとは会った事があるわね」
「ああ……」

 レイジは眉を顰める。
 レイジはジプシールでザルキシスと戦い痛い目にあっている。
 その事を思い出したようだ。
 あの時クロキがいなければレイジは危ないところであった。

「そのワルキアの地で瘴気が突然あふれ出し、周辺の地域に影響が出ているのよ」

 レーナは困った顔をして説明する。
 ザルキシスが支配するワルキアの地、最近になってその地から瘴気があふれ出して、周辺の人間の国に影響が出ているのだ。
 瘴気は作物を腐らせ、人を病気にさせる。
 それだけでなく、瘴気を浴びすぎた生物は死んだ後にアンデッドになる事もある。
 放置するのは危険であった。

「そんな事が……。一体何が起こっているの?」

 レーナが来てくれた事で女性達から解放されたシロネが聞く。

「天使達も調べているけど、はっきりした事はわからないわ。でも事態は深刻かもしれないから、エリオスの軍勢も動いているわ。そして、私にも動いて欲しいと要請が来たの、おかげで忙しかったわ」

 レーナは首を振って答える。
 おかげでコウキの様子を見る事ができなくなってしまった。
 一応このキソニアに来ている事は聞いているが、詳しい様子はわからない。

(真面目なチユキがついているから大丈夫だろうとは思うけど……。大丈夫かしら?)

 レーナはコウキの様子を考える。
 この件が終わるまでコウキの事に構うのは難しいだろう。

「なるほど。それで俺達にもワルキアに行って欲しいというわけか……」

 レイジがそう言うとレーナは頷く。
 
「ええ、そういう事よ。レイジ。チユキ達と話し合って来てくれると助かるわ……」

 レーナはそう言うと瞳を潤ませ上目でレイジを見る。
 
「なるほど、わかったよ。レーナ。だけど、俺だけじゃ決められない。一応仲間達と相談しないとな」

 レイジはそう言ってレーナの手を取る。
 
「そうね。話し合いは大事ものね。それに私が預けた子の用事もあるようだから、それが終わってからで良いわ。待っているわよ、レイジ」

 レーナはそう言ってレイジの手を離すと背を向ける。
 後ろには一緒に入浴できず残念がっているアマゾナがいる。
 アマゾナはあまり強くはないがそれでも他の女神に比べてマシである。
 少しは役に立つだろう。

(正直に言うと私もコウキの様子を見ておきたいのだけどね……)

 レーナは溜息を吐く。
 今回の件、はっきりしない事がある。
 それを調べてから動くべきであった。
 だから、レイジ達を急がせる必要はない。
 こうして、二柱の戦女神はワルキアへと向かうのだった。


 
 その頃チユキ達はレースの準備をしている最中であった。
 天幕を用意して、その中でコウキを着替えさせる。

「あの、この姿は……」

 コウキは自身の下半身を見る。
 ケンタウロスと同じように胴から下が馬になっている。

「変身の魔法よ。1週間は元に戻らないから覚悟してね、コウキ君」

 チユキはコウキを見てそう言う。
 コウキの足ならケンタウロスの姿にならなくても、かなり速い。
 しかし、それでも念には念を入れて変身の魔法をかけたのである。
 これで通常よりも速く走れるだろう。

「これなら2本の脚よりも、早く走れそうね」
「うん、コウ。似合っている」

 横で見ているサホコとサーナがコウキを眺めて言う。
 上半身も裸なので、実質全裸であり、見つめられてコウキは恥ずかしそうにする。
 
「ところでさあ、そのレースなんだけど。どんな感じなの? コースは決まっているの?」

 リノがチユキの顔を見て言う。

「コースは決まっていないっすよ、リノちゃん。ここから走って、西の端に用意されている証明する物を取って帰ってくればそれで良し。つまり、そこまで行って戻るための道筋は自由っすね」

 代わりに答えたのはナオだ。

「ナオさんの言う通りよ。まあ、普通ならまっすぐ行って戻るのが一番早いのでしょうけど……。かなり危険な場所もあるというし。まっすぐ行くのが正解ともいえないわね」

 チユキは心配そうに言う。
 キソニアはとても広い地域だ。
 その中にはかなり危険な場所もあるらしい。
 ケンタウロス達なら知っているかもしれないが、この地域に疎いチユキ達はその安全な道筋をしらない。

「そうなの、じゃあコウキ君が危険かもしれないわね。チユキさん、何か作戦はないの」
 
 サホコが心配そうに言う。

「ごめんなさい。さすがにこの地域の事を知らな過ぎて、作戦を立てようがないわ。ねえ、ナオさん。貴方ならどう? ナオさんならどう行くの?」

 チユキはナオを見て言う。
 この中でもっとも速く動く事ができるのはナオだ。
 探知能力も高く、ナオがレースに出たなら一番になるだろう。

「それは走ってみないとわからないっすね。まあ、ナオならどんな道でも一番になれるっすよ」

 ナオは当然のように言う。
 参加するケンタウロス達を見てナオの敵になりそうなのはいないようであった。

「まあ、ナオさんならそうでしょうね。でも走るのはコウキ君だし……」
「そうっすね。むしろ、こういった事はリノちゃんに聞いた方が良いっすよ。リノちゃんはどう思うっすか?」
「えっ、私!?」

 突然話を振られてリノが戸惑う。
 チユキもナオの意図がわからない。
 精霊の力を借りれるリノならば何かできるのだろうか?

「えっと、良くわからないけど、コウキ君なら大丈夫じゃないかな……。多分勝てると思うよ」

 リノは首を傾げて答える。

「そういう事っすよ。特に情報がないのなら、リノちゃんの直感が一番頼りになるっすよ。コウキ君。君には勝利の女神が沢山ついているっすよ。だから大丈夫っす」

 ナオは笑ってそう言うとコウキの肩を叩く。
 言われてみて確かにそうかもしれないとチユキも思う。
 リノの直感は当たるのだ。
 だから、コウキも大丈夫だろうとチユキも思う。

「はい、ありがとうございます。ナオ様。精一杯頑張ります」

 コウキは頷いて笑う。

「コウキ君、頑張ってね、サーナも応援しているわよ」
「うん、コウ。頑張って」

 サホコとサーナが応援する。

「コウキ君。このレースに勝てばケンタウロス達から黄金馬の情報を集められるかもしれない。だから頑張って」

 チユキもそう言って応援する。

「はい、皆様ありがとうございます。頑張ります。それでは行ってきますね」

 コウキはそう言って天幕を出る。
 若いケンタウロスの出陣であった。

(成長したわね、コウキ君……)

 チユキはコウキのお尻の部分を見ながらそっと鼻を押さえるのであった。
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