暗黒騎士物語

根崎タケル

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第14章 草原の風

第5話 アマゾネスの国

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 キソニア平原の東にあるスーファ湖にはその名と同じ水竜スーファが住んでいる。

 水竜スーファは非常に大人しい竜であり、人間を襲う事はない。

 その眷属である大型爬虫類のスーファシーも草食であり、性格も穏やかだ。

 湖は豊かであり、沿岸にある人間の国に恩恵を与えている。

 そんな湖沿岸の国でもっとも有名な国がペンテレア女王国である。

 人口1万人程のペンテレア女王国は女神アマゾナを信仰する者のみで作られた国で、女王はアマゾナの司祭を兼ねており、祭政一致の国だ。

 また、正式なアマゾナ信徒は女性のみなので、当然市民は女性しかいない。

 ただ、男性を完全に否定しているわけでない。

 出生の問題等もあり、女性の移民だけでは国が維持できないからだ。

 また、産業があまり発達しておらず、男性が多い行商人の立ち入りを禁止していたら、国が衰退するので男性の立ち入りを全て禁止する事はできなかった。

 そのため、ペンテレア女王国は国の一部を開放して男性を受け入れている。

 多くは行商人だが、中には美しいペンテレア女王国の女性目当てで来る好色な男もいる。

 だが、ペンテレアの女戦士達は基本的に弱い男は相手にしない。

 強くて美しい女戦士の国、それがペンテレア女王国なのであった。

 コウキ達はそんなペンテレア女王国へと来ていた。

 







(あいかわらず、すごい恰好ね……)



 チユキは王宮の廊下を歩きながらそんな事を考える。

 ペンテレア女王国の女戦士アマゾネスは基本的にビキニアーマーを身に着けている。

 ビキニアーマーを身に着けていない者も露出が多い服装だ。

 女神アマゾナを信仰する女戦士は皆こういう露出が多い恰好するよう決められている。

 これは女神アマゾナの教義であり、仕方がない事なのだろう。

 露出は多いが彼女達は戦神トールズの信徒と同じように肉体を強化できる技を持っているので、質の悪い皮鎧を着ている者よりも防御力が高かったりする。

 また、トールズ信徒と同じように獣の霊感を使う事ができるので戦闘力は非常に高い。

 まともな鎧を付けていなくても十分に強いのである。

 ちなみに戦士でない者はビキニアーマーを見に付ける事はなく、普通の格好だ。

 すれ違う侍女の服装は露出が多くない。

 それに対して先導してくれる女戦士を見るとお尻がほとんど丸出しだ。

 コウキを連れて来なくて良かったとチユキは思う。

 チユキと一緒に来ているのはレイジとシロネだけで、後の仲間達は来ていない。



「どうぞ光の勇者様。女王陛下がお待ちです」



 女戦士が女王の間の扉を開ける。

 グリフォンやヒポグリフを捕まえるために過去に何度かこの国に来た事があり、その時にこの国の女王と謁見した。

 そこでこの国に自由に滞在する許可を貰ったのである。

 今回女王に用はないが、一応挨拶をしておこうと思いここに来たのである。



「よく来たな。レイジにシロネ、それにチユキか。歓迎するぞ」



 チユキ達が中に入ると意外な者が待っていた。

 赤い髪に大きな胸、だが腰は細い、大きな瞳は宝石のようであり、かなりの美少女だ。

 その美少女は女王の椅子に座り、横には本来の女王であるヒュポリアが立っている。

 まるで女王が少女に仕えているようであった。

 そして、それは正しい事なのである。



「アマゾナか? まさか降りて来ていたのか」



 レイジがアマゾナを見て驚く。

 美少女の名はアマゾナ。

 レーナと同じエリオスの神々の女神である。

 そして彼女もまた戦女神であった。

 以前ここに来た時に彼女に出会って顔見知りになっている。



「ふふ、上はフェリア様がいて窮屈だから。出来るだけこちらに来ているんだ。ここならうるさく言われないからな。あはははは」



 アマゾナは大きな胸を揺らして言う。

 まあ、確かに彼女には上は窮屈だろう。

 それは彼女の姿をみたらわかる。



「そりゃうるさく言われるよ、アマゾナ……。レイジ君もいるんだからせめて下着ぐらいはつけてよ」



 シロネは顔を押さえて言う。

 アマゾナは全裸ですごすのが好きなのだ。

 神話では父であるトールズに倣って鎧どころ服を着なくなった事になっているが、彼女の様子を見る限りそうではないような気がしてくる。

 

「おいおい、シロネ。堅い事言うなよ。私とお前の仲だろ。あれほど激しくやり合った仲なのに」



 アマゾナはそう言うとシロネに近づく。



「ええと、どういう仲、なのかな……。前に手合わせをしたことはあったけど……」



 シロネは冷や汗を流しながらチユキの後ろに逃れようとする。

 前に会った時にシロネはアマゾナと手合わせをした。

 結果は引き分けであり、その時の戦いでアマゾナはシロネを気に入ったようだ。

 また、レイジに目もくれない所をみるとどうも女の子の方が好きなようである。



「アマゾナ。シロネが困っているんだが……」



 レイジはやんわりとアマゾナを止める。

 アマゾナの裸体を見ても動じる様子がない。 

 さすがに女性に慣れている。

 チユキは少し複雑な気持ちになる。



「うん、そうか。まあ、良いか。そのうちな……。それにしてもどうしたんだ? 急に来て?」



 アマゾナは少し残念そうにして言う。



「目的は2つあります。その1つが黄金馬で、それを探しに来たの、女神アマゾナ。そして、折角来たのだから、この国の女王に挨拶に来たというわけです」



 実はここに来た理由だが、別にもう1つあるのだ。

 この後レイジとシロネは別行動を取る事になっている。



「まあ、そういうわけだ。何かしらないか。アマゾナ? まあ俺としてはあいつが馬に乗れなくても良いんだがな」



 レイジは仕方ないとばかりに両手を上げて言う。

 レイジとしてはコウキがどうなろうが知った事ではないのだろう。

 それでもここに来たのはサホコに頼まれたからである。

 

「ほう、黄金馬か。悪いが何も知らないなあ。だけど、ケンタウロスかフウイヌムなら何か知っているかもしれない。もうすぐ祭が始まるみたいだから、ケンタウロスがこの近くに集まっている。聞いてみたらどうだ?」



 アマゾナは首を振って言う。

 ケンタウロスは半人半馬の種族で馬の首から上が人間の上半身になっている。

 フウイヌムは知恵があり言葉を話せる馬だ。

 非常に物知りでこのキソニアの事ならフウイヌムに聞くのが一番だと言われている。

 ただし、あまり人間が好きではないらしく、聞いても答えてくれるとは限らない。



「祭? お祭りがあるのですか?」

「ああ、そうだ。シロネ。まあケンタウロス達の祭だがな。気になるのなら見に行ってみたらどうだ」



 アマゾナはそう言って笑う。

 キソニアのケンタウロスはいくつかの部族に別れて遊牧をしながら暮らしている。

 その部族の中には人間に敵対する者もいれば友好的なのもいる。

 そんな友好的なケンタウロスの部族は人間と交易を行うためにこの国を近くを訪れる事もあるのだ。



「なるほどな。どんなお祭りかは知らないが、行ってもみるのも良いかもしれないな」

 

 レイジは笑って言う。

 レイジがそう言うとシロネも頷く。

 

「う~ん、お祭りか、ケンタウロスはちょっとね」



 チユキはどうすべきか迷う。

 ケンタウロスはほとんどの者が好色だ。

 前に会った時は結構大変だったのである。

 そのため躊躇してしまう。

 

(でも、レイジ君もシロネさんも行くみたいだし、行くしかないよね)



 レイジとシロネはお祭り好きであり、行く気満々だ。

 こうなれば行くしかない。

 チユキは覚悟を決めるのだった。

 



 





 ペンテレア女王国の南側に作られたこの区画は男性も入る事ができ、住んでいるのも、ほとんどが男性だ。

 女性しか正式な市民にはなれないので彼らはこの国の市民ではない。

 多くは商人であり、良馬を求めてやって来るのである。

 この馬がペンテレア女王国の主な収入源である。

 そもそも、このキソニアでは産業が育ちにくく、馬以外の他の産業は放牧と漁業ぐらいしかない。

 だが、キソニアは良馬の産地であり、それだけで

 馬を手に入れた商人はバンドール平原か、もしくは南への街道を通り、アリアディア共和国まで連れ行って売るのである。

 そんな、馬市にコウキ達は来ていた。

 コウキは馬市を見る。

 馬市はペンテレア女王国の城壁外にある、ここには多くの馬が集まっている。

 そして馬だけでなく、ケンタウロスの姿も見かける。

 そもそも、この馬市で売られている馬はケンタウロスが人間の商人に売るために連れて来ているのだ。

 ケンタウロスは部族間で争い、敵対する部族の馬を捕らえて人間に売るのである。

 その売った代金で、ケンタウロスは自分達で生産できない鉄器等を手に入れる。

 人間の商人と利害が一致した事で、馬市が成立しているのである。

 城壁の外での出来事なのでペンテレア女王国の人間もこの馬市に干渉する事はなく、市場は活気にあふれている。

 横では商人達がケンタウロスと馬の値段の交渉を行っている。

 かなりの激しい交渉で今にも喧嘩が始まりそうであった。

 

「どう? コウキ君。良い馬はいるかしら」



 一緒にいるサホコがコウキに聞く。

 今コウキと一緒にいるのはサーナとサホコだけだ。

 キョウカとカヤは馬の取引等について商人と会談に行き。

 リノとナオは湖を見に行った。

 湖に生息している水竜の眷属スーファシーと遊ぶようだ。

 スーファシーは知恵がある大人しい翼のない竜の姿をしている。

 つぶらな瞳が可愛く、コウキとも仲良くしてくれる。



「皆良い馬だと思います。ですが、自分を嫌がっているようです……」



 コウキは残念そうに言う。

 馬たちはクロキが近づくのを明らかに嫌がっていた。

 スーファシーとは大違いである。

 スーファシーを乗騎にしたくなるが、陸の上では鈍重すぎるので騎士の任務に使うのは無理であった。

 

「むう、コウはこんなに素敵なのに……。どうして」

 

 サーナが頬を膨らませて言う。

 

「ありがとう、サーナ様。でも、仕方がないです」



 コウキはサーナの頭を撫でて言う。

 そんな時だった。

 コウキの目の前に何かが立ちはだかる。

 コウキが見上げるとそこには黒い毛並みのケンタウロスが立っている。

 巨大で筋肉質な体、一目で強者とわかる雰囲気を出している。

 黒いケンタウロスはコウキとサーナを見ておらず、視線はその後ろにいるサホコに注がれている。



「ふっ、まさかこれほど美しい女がいるとはな……。気に入ったぞ。我の妻となれ」



 黒いケンタウロスはそう言って笑うのだった。



 





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