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第13章 白鳥の騎士団
第23話 獣神子と共闘
しおりを挟む「ぐは!!」
コウキは激しく背中を柱にぶつける。
(追撃が来る! 避けろ!)
コウキは何とか足を動かし、横に飛ぶ。
次の瞬間コウキのいた場所に槍が飛んでくる。
槍を避けたコウキは剣を構え、目の前の男を見る。
蛇の王子ダハーク。
コウキの目の前にいる赤い肌の男の名だ。
コウキとテリオンは同時にダハークに向かった。
最初の槍の一撃を躱し懐に入り込めたと思ったが、ありえない方向から槍が飛んで来たのである。
何とか剣で受けたが踏ん張れず、飛ばされてしまった。
(何だ……。どういう動きだよ……)
コウキはダハークの動きに驚く。
ダハークの身体と槍がぐにゃりと曲がり、コウキとテリオンの剣を躱しながら鞭のように槍を繰り出してきたのである。
「くそ、何だ!? その動きはよう!」
テリオンが牙をむき出しにして唸る。
ダハークは持っている槍を鞭のようにしならせ、コウキとテリオンに対し同時に攻撃してきた。
人間のような姿をしているが、同じと考えない方が良さそうであった。
「ふん、避けたか、少しはやるようだな」
ダハークは長い槍をしならせながら、コウキとテリオンを見る。
槍が床に触れると石畳が溶けて煙をあげている。
身に着けていた金具が溶けている所から見てもあの槍に直接触れるのは危険であった。
暗黒騎士からもらった剣がなければ戦う事も難しかったに違いない。
「ふん、ぬかせ! さっきの一撃で仕留められなかったのがおめえの限界だ! コウキ! 手を貸せ! 行くぞ!」
「ああ、わかっている!」
コウキはテリオンに答えると剣を構える。
ダハークは強い。
しかし、戦わなくては生き残れない。
やるしかない状況であった。
「ふん、チビ共が吠えるな。しかし、思った以上に毒が効かないようだな。凶獣の子はともかく、そこの奴も只者じゃなさそうだな……。まあ、良い。本気で行かせてもらうぞ! ムシュマッヘの蛇頭よ!」
ダハークが叫ぶとその両肩から蛇の頭が生える。
ダハークの肩から生えた蛇は首を伸ばし、コウキとテリオンを威嚇する。
次からは槍だけでなく蛇の頭も気にしなくてはいけないようだ。
「だったら、こっちも本気だ! 雪狼スノーウルフよ! 行くぜ」
テリオンが叫ぶとその周囲から氷の精霊雪狼スノーウルフが数体現れる。
コウキは剣を構えながらすり足で移動する。
正直に言って怖い。
だけど騎士になると誓った以上は恐怖を乗り越えなければならない。
(母様。天上から見ていて下さい……)
コウキは天上にいる母の事を考えながら、ダハークに向かうのだった。
◆
「くそ、どうすりゃ良いんだ?」
ヒュロスはコウキの戦いぶりを見る。
コウキはあのダハークと戦っている。
ダハークと言う名は聞いた事があった。
蛇の王子と呼ばれる邪神の名だ。
それがあの紅い肌の男と同一なのかまでは判断がつかない。
だが、ヒュロス程度ではどうにもならない状況のようであった。
「隊長、結界から出てはいけません。死にたいなら別ですが」
後ろにいる巫女メリニアから声を掛けられる。
「は、はい。巫女様」
ヒュロスは頭を下げて後ろに下がる。
今ヒュロス達は巫女が作った結界の中にいる。
ダハークの息には毒があり、弱い者は簡単に死んでしまうそうだ。
ダハークが入って来た時にメリニアは魔法の結界を張り、騎士達を中に入れたのである。
ヒュロスは魔術に詳しくないが、張られた結界はかなり強力なようであった。
ダハークの槍から放たれる衝撃波を完全に防いでいる。
メリニアにこれ程の力があったとは驚きである。
また、驚いたのは従騎士コウキである。
結界の外の毒が平気であるらしい。
直接槍や蛇の牙にあたらなければ大丈夫のようだ。
光の勇者レイジの推薦だから、入団できたとの話だがまさかこれ程の能力があったとは思わなかった。
「巫女様。我々はどうしたら良いのでしょうか?」
ホプロンが聞く。
何もしないでいる事がもどかしいようだ。
今にも飛び出していきそうだ。
「機会を待ちなさい。貴方達に出来るのはそれだけだわ」
そう言いながらもメリニアは目の前で繰り広げられる戦いを見守る。
彼女も機会があれば飛び出して行きそうであった。
◆
クロキは影からコウキ達の争いを見る。
相手のダハークの動きは人の動きではない。
腕や体があらぬ方向に曲がり、槍を繰り出している。
その不規則な攻撃に、コウキ達は苦戦をしている。
さらにダハークは肩から蛇を出して来たのでさらに厳しい戦いになるだろう。
だが、それでも良くやっている。
防戦一方だが、ダハーク相手に何とか戦えているようだ。
「ほう、あの者達。意外とやりますね」
3の首が鮮血の姫に言う。
3の首の正体は吸血鬼だ。
当然鮮血姫ザファラーダを信仰している。
態度も仕える姫を前にした騎士といった感じだ。
「そうね。あのダハ君相手にあそこまで戦えるなんてね。さすが獣の子と言うべきね」
そう言ってザファラーダは爪を鳴らす。
テリオンを警戒しているようだ。
そうだろうなとクロキは思う。
テリオンの動きが徐々に鋭くなってきている。
フェリオンもそうだったが、実戦で学ぶタイプのようであった。
成長すればさらに強くなるだろう。
ダハークも半ば本気になっている。
見定めるのが目的のはずなのに本気で凶獣の子を潰すつもりのようだ。
(いや、最初からどっちにしろ殺すつもりだったのかもしれないな……)
クロキはそう思う。
ダハークと付き合いが長いわけではないが、何となく性格はわかる。
ディアドナと違い、凶獣の子を仲間に引き入れたいとダハークは思っていなかった。
むしろ、将来の脅威を絶つべきと思っていたかもしれない。
その結果、無理やり理由を見つけ殺そうとしているのではないかと、クロキはそんな感じがしたのである。
「姫様。どうなさいますか?」
「もちろん、手を出すわよ。凶獣の子は消しておくべきだし、それにあの凶獣の子と共に戦っている子。なかなか可愛いじゃない。殺すのは惜しいわね。アルフォスの子と同じように手に入れたいわ。何者なのかしら?」
ザファラーダの言葉を聞いてクロキは複雑な気持ちになる。
殺されないみたいだが、ザファラーダに渡すつもりもない。
既に介入する準備は出来ている。
いつでもいけるだろう。
「全くダハークも……。言いつけを守れないとはね」
クロキの背後から声が聞こえる。
振り返ると、1の首の侍女が立っている。
仮面を付けていて素顔が見えないが、少し怒っているようであった。
侍女の後ろには1の首が控えている。
主が侍女に仕えている。
全く逆の光景がそこにあった。
「ねえ、暗黒騎士。止めてくれないかしら? 貴方ならダハークとザファラーダを同時に止める事が出来るでしょう」
1の首の侍女はクロキに向かって言う。
おそらく、彼女はクロキの正体に気付いている。
もちろんクロキも彼女の正体に気付いていた。
「もちろん、そのつもりだよ……」
クロキは視線を元に戻すと魔剣を呼び出す。
視線の先ではコウキ達とダハークが戦っている。
最初はぎこちなかった連携も上手く取れるようになっている。
ダハークは倒しきれずにいる。
コウキを狙えばテリオンが邪魔をして、テリオンを狙えばコウキが邪魔をする。
同時に狙っても、簡単には倒せない。
だが、それでも何時かは追い詰められる。
コウキもテリオンもまだまだダハークには敵わないとクロキは見ている。
ダハークもまた戦いの中で成長できる優秀な戦士なのだ。
ましてやザファラーダが介入したら、コウキ達に勝ち目はない。
クロキは武力介入する事を決めるのだった。
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