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第13章 白鳥の騎士団
第19話 ヒュロスの悩み
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完全に日が落ち、スノビヘ王国の夜の帳が降ろされる。
だが、そんなスノビヘ王国の大広間には篝火が焚かれ、昼のように明るかった。
踊り子の舞と酒が振舞われ、白鳥の騎士達を歓待する。
そんな中で白鳥の騎士達の隊長のヒュロスは浮かない顔をする。
先程まで側にはこの国の女王ビヘンナがいたが用事があるとかで今はいない。
動くべきかもしれなかった。
「さて、どうするかな……」
ヒュロスは部下達を見る。
全員が歓待を受けている。
酒を飲んでいる者もいるようだ。
酒を飲む事自体は問題ではない。
いつ死ぬかわからない身だ。
楽しめる時に楽しむ。それが任務中であってもだ。
それがヒュロスの考え方だ。
それは白鳥の騎士としてあるまじき考え方であった。
むしろトールズの信徒に近い考え方である。
もちろん、恩義のあるルクルスから注意される。
しかし、真面目な同僚が魔物に無惨に殺される姿を見てしまったら、律儀に規律を守る気が起きなくなる。
騎士を辞める事も出来るが、魔物が蔓延る世において戦いから無縁でいられる職にありつくのは難しい。
結局騎士を辞めても、同じように危険な自由戦士になるだけなので騎士を続けているのだ。
そして、適度に肩の力を抜いて任務を続けている。
ヒュロスは酒杯を眺める。
飲む気にはなれなかった。
明らかに罠である。
このスノビヘ王国の者達は何らかの意図を持ってヒュロス達を誘い込んだ。
油断をしていたつもりはない。
ヒュロスの目をもってしても見抜けない魔術か何かを使われたに違いなかった。
(この状況で逃げるのは難しいな。だが、突破できるとすればギルフォスだろうな……)
ヒュロスは横にいるギルフォスを見る。
この中で一番頼りになるのはギルフォスだけであった。
ギルフォスはいつも通りの態度である。
だが、気付いていないとは思えなかった。
ヒュロスの視線に気づいたギルフォスがこちらを見る。
「隊長殿。どうします? 動きますか?」
そう言ってギルフォスは笑う。
ヒュロスはそれを聞いて頼もしく思う。
どうやら気付いていたようだ。
そんな時だった。
部屋の外が騒がしくなる。
突然誰かが入って来る。
「巫女様!!? おお、もう大丈夫なのですか?」
ホプロンが入って来た者を見て驚きの声を出す。
入って来たのは巫女メリエナとその御付きの女性達である。
彼女は力を使いすぎたので倒れていた。
その彼女が部屋に入って来たのだ。
踊り子達が驚いた顔をしている。
巫女が来た事が意外のようだ。
「ええ大丈夫です。私も一緒にいても良いかしら?」
メリエナはそう言うとヒュロスとギルフォスを見る。
「は、はあ。はい、もちろんですよ。巫女様がお望みなら我々が反対するはずはありません」
ヒュロスは答える。
だが、少し奇妙であった。
(しかし、変だな……。巫女様はこんな喋り方だったか?)
ヒュロスはメリエナの変化が気になる。
起きる前はもっと気が弱そうであったからだ。
「あ、あの。レ……。いえ、巫女様。ここから脱出しないとまずいのでは……」
後ろにいるルクレツィアが不安そうに言う。
「逃げるのは難しいでしょうね。覚悟を決めなさい」
そう言ってメリエナは首を振る。
御付きの者達は不安そうにメリエナの後ろに集まる。
何かに怯えている様子であった。
「おや、巫女様が部屋から出られたと聞いて席を外しましたが、ここにおられたのですね」
女王のビヘンナが戻って来る。
だが、メリエナは女王を見てつまらなそうな顔をする。
「貴方と話をするつもりはないわ。貴方の主を連れて来なさい」
「!?」
メリエナがそう言った時だったビヘンナの顔が急に変わる。
「そ……、それはどういう意味でしょうか?」
ビヘンナは動揺している様子であった。
そんな時だった。
新たに何者かが入って来る。
その者達を見た瞬間、騎士達は武器を持って立ち上がる。
入って来たのは武装をした集団だったからだ。
その先頭にいるのは仮面を被った者だ。
体型からして女だろう。
だが、それよりも問題は後ろにいる男達だ。
全員が武装している。
明らかに暴力の気配がする。
「ビヘンナ。もう良いですよ。下がりなさい」
「は、はい。1の首様」
仮面を付けた女がそう言うと女王であるはずのビヘンナは頭を下げて、踊り子達と共に部屋から出て行く。
この仮面を付けた女はあきらかに女王よりも上の立場にいるみたいであった。
「ようやく、黒幕の登場か? 遅かったな」
ギルフォスはゆっくりと立ち上がり前に出る。
その顔には不敵な笑みを浮かべている。
他の騎士が戸惑っているのとは違い落ち着いている。
「お前がアルフォスとかいう神の子か……。そして、後ろにいるのが巫女か……。なるほど確かにすごい力の匂いがするな」
答えたのは武装した男達の先頭にいる少年。
姿だけ見ればギルフォスと同年代の人間の子に見える。
背中には巨大な大剣。
重そうであり、こんな少年が扱えるとは思えない。
だが、ヒュロスの目にはこの少年も後ろの武装した集団も人間とは違うとわかる。
「はい、そうでございます。そして、巫女を手に入れるにはそれを守る騎士達を倒す必要があります。私達には手に負えません」
仮面を付けた女が少年に頭を下げて言う。
「嘘が下手だな。だけど、そこにいる奴は少し興味ある」
少年は真っすぐにギルフォスを見て言う。
「へえ、そう。興味持ってくれるんだ。だけど悪いね。美人にしか興味ないんだ。残念だよ」
ギルフォスは軽口を言う。
「お前の好みは知らねえよ。ところでお前はコウキって奴よりも強いんだろ。だったらやろうじゃねえか」
少年はそう言うと背中の大剣を抜く。
「コウキ? なぜその名を? まあ良いか。仕方がない。相手をしてあげるよ」
ギルフォスも剣を抜く。
父親から与えられた剣は魔力を帯びており、抜くと青く輝く。
「そうこなくちゃな。おいイカヅチ。お前は周りにいる奴らの相手を適当にしていろ。邪魔だからな」
「はい、若」
大男が返事をすると少年の後ろにいる男達が姿を変える。
顔が伸び、口が大きくなり牙が生える。
「人狼だと!?」
騎士の1人が叫ぶ。
武装した男達は人狼のようである。
「まさか、人狼だとはな……。狙いは巫女様かよ」
ヒュロスも剣を抜き構える。
頭が痛くなりそうだった。
仲間達を見る。
従騎士達は慌てているが、騎士達は落ち着きを取り戻しているようだ。
さすがは白鳥の騎士に選ばれるだけはある。
人狼は強い。
力も人間よりはるかに強く、早い。
普通の戦士では太刀打ち出来ないだろう。
だが、こちらも戦女神に仕える騎士だ。
遅れを取るつもりはない。
夜の中、戦いが始まろうとしていた。
だが、そんなスノビヘ王国の大広間には篝火が焚かれ、昼のように明るかった。
踊り子の舞と酒が振舞われ、白鳥の騎士達を歓待する。
そんな中で白鳥の騎士達の隊長のヒュロスは浮かない顔をする。
先程まで側にはこの国の女王ビヘンナがいたが用事があるとかで今はいない。
動くべきかもしれなかった。
「さて、どうするかな……」
ヒュロスは部下達を見る。
全員が歓待を受けている。
酒を飲んでいる者もいるようだ。
酒を飲む事自体は問題ではない。
いつ死ぬかわからない身だ。
楽しめる時に楽しむ。それが任務中であってもだ。
それがヒュロスの考え方だ。
それは白鳥の騎士としてあるまじき考え方であった。
むしろトールズの信徒に近い考え方である。
もちろん、恩義のあるルクルスから注意される。
しかし、真面目な同僚が魔物に無惨に殺される姿を見てしまったら、律儀に規律を守る気が起きなくなる。
騎士を辞める事も出来るが、魔物が蔓延る世において戦いから無縁でいられる職にありつくのは難しい。
結局騎士を辞めても、同じように危険な自由戦士になるだけなので騎士を続けているのだ。
そして、適度に肩の力を抜いて任務を続けている。
ヒュロスは酒杯を眺める。
飲む気にはなれなかった。
明らかに罠である。
このスノビヘ王国の者達は何らかの意図を持ってヒュロス達を誘い込んだ。
油断をしていたつもりはない。
ヒュロスの目をもってしても見抜けない魔術か何かを使われたに違いなかった。
(この状況で逃げるのは難しいな。だが、突破できるとすればギルフォスだろうな……)
ヒュロスは横にいるギルフォスを見る。
この中で一番頼りになるのはギルフォスだけであった。
ギルフォスはいつも通りの態度である。
だが、気付いていないとは思えなかった。
ヒュロスの視線に気づいたギルフォスがこちらを見る。
「隊長殿。どうします? 動きますか?」
そう言ってギルフォスは笑う。
ヒュロスはそれを聞いて頼もしく思う。
どうやら気付いていたようだ。
そんな時だった。
部屋の外が騒がしくなる。
突然誰かが入って来る。
「巫女様!!? おお、もう大丈夫なのですか?」
ホプロンが入って来た者を見て驚きの声を出す。
入って来たのは巫女メリエナとその御付きの女性達である。
彼女は力を使いすぎたので倒れていた。
その彼女が部屋に入って来たのだ。
踊り子達が驚いた顔をしている。
巫女が来た事が意外のようだ。
「ええ大丈夫です。私も一緒にいても良いかしら?」
メリエナはそう言うとヒュロスとギルフォスを見る。
「は、はあ。はい、もちろんですよ。巫女様がお望みなら我々が反対するはずはありません」
ヒュロスは答える。
だが、少し奇妙であった。
(しかし、変だな……。巫女様はこんな喋り方だったか?)
ヒュロスはメリエナの変化が気になる。
起きる前はもっと気が弱そうであったからだ。
「あ、あの。レ……。いえ、巫女様。ここから脱出しないとまずいのでは……」
後ろにいるルクレツィアが不安そうに言う。
「逃げるのは難しいでしょうね。覚悟を決めなさい」
そう言ってメリエナは首を振る。
御付きの者達は不安そうにメリエナの後ろに集まる。
何かに怯えている様子であった。
「おや、巫女様が部屋から出られたと聞いて席を外しましたが、ここにおられたのですね」
女王のビヘンナが戻って来る。
だが、メリエナは女王を見てつまらなそうな顔をする。
「貴方と話をするつもりはないわ。貴方の主を連れて来なさい」
「!?」
メリエナがそう言った時だったビヘンナの顔が急に変わる。
「そ……、それはどういう意味でしょうか?」
ビヘンナは動揺している様子であった。
そんな時だった。
新たに何者かが入って来る。
その者達を見た瞬間、騎士達は武器を持って立ち上がる。
入って来たのは武装をした集団だったからだ。
その先頭にいるのは仮面を被った者だ。
体型からして女だろう。
だが、それよりも問題は後ろにいる男達だ。
全員が武装している。
明らかに暴力の気配がする。
「ビヘンナ。もう良いですよ。下がりなさい」
「は、はい。1の首様」
仮面を付けた女がそう言うと女王であるはずのビヘンナは頭を下げて、踊り子達と共に部屋から出て行く。
この仮面を付けた女はあきらかに女王よりも上の立場にいるみたいであった。
「ようやく、黒幕の登場か? 遅かったな」
ギルフォスはゆっくりと立ち上がり前に出る。
その顔には不敵な笑みを浮かべている。
他の騎士が戸惑っているのとは違い落ち着いている。
「お前がアルフォスとかいう神の子か……。そして、後ろにいるのが巫女か……。なるほど確かにすごい力の匂いがするな」
答えたのは武装した男達の先頭にいる少年。
姿だけ見ればギルフォスと同年代の人間の子に見える。
背中には巨大な大剣。
重そうであり、こんな少年が扱えるとは思えない。
だが、ヒュロスの目にはこの少年も後ろの武装した集団も人間とは違うとわかる。
「はい、そうでございます。そして、巫女を手に入れるにはそれを守る騎士達を倒す必要があります。私達には手に負えません」
仮面を付けた女が少年に頭を下げて言う。
「嘘が下手だな。だけど、そこにいる奴は少し興味ある」
少年は真っすぐにギルフォスを見て言う。
「へえ、そう。興味持ってくれるんだ。だけど悪いね。美人にしか興味ないんだ。残念だよ」
ギルフォスは軽口を言う。
「お前の好みは知らねえよ。ところでお前はコウキって奴よりも強いんだろ。だったらやろうじゃねえか」
少年はそう言うと背中の大剣を抜く。
「コウキ? なぜその名を? まあ良いか。仕方がない。相手をしてあげるよ」
ギルフォスも剣を抜く。
父親から与えられた剣は魔力を帯びており、抜くと青く輝く。
「そうこなくちゃな。おいイカヅチ。お前は周りにいる奴らの相手を適当にしていろ。邪魔だからな」
「はい、若」
大男が返事をすると少年の後ろにいる男達が姿を変える。
顔が伸び、口が大きくなり牙が生える。
「人狼だと!?」
騎士の1人が叫ぶ。
武装した男達は人狼のようである。
「まさか、人狼だとはな……。狙いは巫女様かよ」
ヒュロスも剣を抜き構える。
頭が痛くなりそうだった。
仲間達を見る。
従騎士達は慌てているが、騎士達は落ち着きを取り戻しているようだ。
さすがは白鳥の騎士に選ばれるだけはある。
人狼は強い。
力も人間よりはるかに強く、早い。
普通の戦士では太刀打ち出来ないだろう。
だが、こちらも戦女神に仕える騎士だ。
遅れを取るつもりはない。
夜の中、戦いが始まろうとしていた。
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