暗黒騎士物語

根崎タケル

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第13章 白鳥の騎士団

第17話 蛇の暗殺者

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 クロキは映像で白鳥の騎士達を見る。
 一番顔の良い少年がアルフォスの子だ。
 彼は騎士達の中央に座っている。
 騎士達の中で上位の存在である事を伺わせる。
 クロキが聞いたところによるとまだ従騎士のはずだが、神の子であるためか特別扱いされているらしい。
 だったらコウキはと思うが、なぜかそうはなっていない。
 アルフォスの子と違い、秘密にしているからかもしれなかった。
 騎士達は振舞われた酒を飲んでいる。
 白鳥の騎士団はこの世界では珍しく任務中の飲酒は禁止されている。
 これは珍しい事で他には西方にある黄金の鷲騎士団ぐらいしか酒を禁じていないだろう。
 この世界では戦士は酒を嗜むのが普通だし、騎士の身分の者でも普通に酒を飲む。
 もちろん、飲みすぎて任務に支障が出たら問題だが、飲酒自体は問題にならないのだ。
 ちなみにトールズの戦士では常に飲んだくれている者の方が多かったりする。
 トールズの戦士以外も依頼中に酒を飲む戦士は多く、それに比べればここに来ている騎士達はつつましいと言えるだろう。

「普通にしているな。 こちらに気付いているのかどうかわからんな」

 蛇の王子ダハークは映像に移る騎士達を見て呟く。

「どうでしょうか? 件の神の子と隊長は気付いているでしょうね。後は怪しんでいる者が少しだと思います」

 1の首が言う。
 クロキもそう思う。
 アルフォスの子と隊長はおそらく気付いている。
 これが罠である事に。
 酒もあまり飲んでいないようだ。

「ほう、そうか。そうでなければ面白くない。件の凶獣の子が敗れたなら、俺がアルフォスの子を八つ裂きにしても問題はあるまい。気付こうが気付くまいが奴らの運命は決まっている」

 ダハークはそう言って笑う。
 
「あら、それはもったいないわ。出来ればアルフォスの子は貰えないかしら。最近神の血を引く優秀な騎士を失ったの、代わりが欲しいわ。それに美男子ですもの、色々と楽しめそうだわ」

 横にいるザファラーダがダハークにお願いする。
 優秀な騎士というのはジュシオの事だろうとか考える。 

「ザファラーダ。お前はあんなのが好みなのか? ふん」

 ダハークは呆れた顔をする。

「当たり前よ、顔の良い男は全員私に跪くべきだわ。ブサイクは死んでもよいわ」
「なるほどな、それならナルゴルの奴らはほぼ死亡だな」
「そうでもないわよ。デイモンでも良いのはいるし、件の暗黒騎士も譲歩に譲歩を重ねてギリギリ私の足下になら置いても良いと思っているわ」

 そう言ってザファラーダはクロキを見る。
 その件の暗黒騎士とはいうのはクロキの事のようだ。

(何だろう。別にザファラーダに良い男とは思われたいとは思わないが……。くやしく感じる……)

 クロキは拳を握りしめて怒りを抑制する。
 そんな時だった。
 頭の中で声がする。
 通信の魔法。
 クーナが連絡して来たようだ。

(クロキ……。コウキがこちらに来ているようだ……。どうする? 結界があるから入れないぞ)

 クーナの声が聞こえる。
 クロキは不振に思われないように部屋の隅に移動する。
 その間映像から目を離す。
 クーナの言う通り、この王国は現在結界が張られている。
 ここで起きる事をエリオスの神々に見つからないようにするためだ。
 また、ある程度の大きさの生物が通れないようになっており、無理に通ろうとすればすぐに気付かれるだろう。
 どうすべきかクロキは迷う。
 
(そう、どうしようか……。ん?)

 クーナに連絡しようとした時だった。
 クロキはどこからか、嫌な視線を感じる。
 するとダハークの後ろにいる侍女が振り返ってこちらを見ている。
 侍女は1の首に仕えている。
 仮面を被って顔は見えないがただならぬ何かを感じる。

(どうした? クロキ?)
(いや、何でもない……、ちょっと嫌な視線を感じただけ)
(そうか、また連絡するぞ。クロキ)

 クーナの声が聞こえなくなる。
 クロキはゆっくりと2の首の後ろに戻る。
 戻ると侍女は顔を戻し、映像を見る。

(何だ? 今の感覚は……? 前にもどこかで……)

 クロキは嫌な予感がする。
 そもそも、あの侍女は最初ここにいなかった。
 後から来たのである。
 ザファラーダ以外にも厄介な何者かが来ているかもしれない。
 そんな時だった。
 誰かが入って来る。
 
「我らが王子よ。凶獣の子が到着したようです」

 入って来た者は跪いて言う。
 幻惑の王国で戦いが始まろうとしていた。



「おお、同胞の匂いがするでしゅ。近くにいるでしゅ」

 コウキと一緒にいるハヤが目を輝かせて言う。
 場所は隠された道をかなり進んだ場所だ。
 狼少女のハヤが言う同胞は狼人達だろう。
 その中にハヤの探す獣神子もいるのかもしれない。
  
「そうなの? ハヤ……。道は一本道だし、同じ所に向かっているのかな……」

 コウキは首を傾げる。
 時刻はもう夜であり、辺りは暗い。
 だがコウキもハヤも暗視能力があるので問題なく周囲を見る事ができる。
 道の先には城壁が見え、白鳥の騎士と狼達はあの中にいるみたいだ。
 コウキとハヤは城壁に向かう。

「ぬっ、これは? 止まるでしゅ」

 ハヤが急に止まる。
 止まった理由はコウキにもわかる。

「なんだろう? 見えない壁があるね……。結界って奴かな……。チユキ様が過去に似たようなものを作っていたな」

 コウキは目の前の空間を見る。
 前に魔力で作られた透明の壁がある。
 黒髪の賢者チユキが前に見せてくれたので、コウキは結界だと確信する。
 そして、魔力の流れからしてこの城壁全体に張られているようだ。

「何かすごい強い魔力を感じるでしゅね……。これは通れそうにないでしゅ」

 ハヤが困った顔をする。
 ハヤの言う通り結界から強い魔力を感じる。
 これを張った者はかなりの力がありそうであった。

「何とか破れそうな気もするけど、どうしよう……。とりあえず結界の周囲を回って通れるところを探そうか」

 コウキはそう言って歩こうとする。

(その必要はないぞ、コウキ。中に入れてやるぞ)

 そんな時だった。
 コウキの頭の中で声がする。

「何でしゅか? 急に光る蝶が現れたでしゅ」

 ハヤが驚きの声を出す。
 突然周囲に光る蝶が大量に現れたのだ。

「これは? 前にも見た事が!?」

 コウキは光る蝶を見て言う。
 過去にこの光る蝶を見た事があった。
 その時、光る蝶は何者かによって操られていたことを思い出す。
 光る蝶はコウキ達を包み込む。
 そして、光る蝶が消えた時だった。
 コウキ達は結界の中へと入っている事に気付く。
 
「い、今のは!? 何でしゅか!?」

 一緒に飛ばされたハヤが驚いた顔をして言う。
 驚いたのはコウキも一緒だ。
 一瞬の事であり、危険も感じなかったので対応が遅れてしまった。
 しかし、中に入れたので良かったのかもしれない。

「わからない……。戻るのは無理みたいだね……、行くしかないな」

 コウキは後ろを見る。
 移動したのは先程いた場所からたった数歩の距離だ。
 だが、その間には結界があり、今度は外に出られなくなってしまった。
 先に進むしかない。

(あの光る蝶がいるという事はあの暗黒騎士がいるのかもしれない……)

 コウキはそう思うと顔を戻し正面を見る。
 城壁の中に何が待ち構えているのかわからなかった。

「そうでしゅね……。行くしかないでしゅね」

 ハヤはそう言うとコウキの後ろに隠れるようにする。
 どうやら、コウキが先に行ってもらいたいようだ。
 彼女も何か危険な気配を感じたのかしれない。

「うん、行こう。出来るだけ見つからないように進もう……」

 コウキは城壁の上を見る。
 普通に考えて見張りがいるはずだ。
 普通の人間の国とは思えない。
 此処は慎重に進むべきだろう。
 幸い夜であり、木陰も多い。
 城壁に近づくまでは気付かれないかもしれない。
 コウキとハヤはゆっくり移動する。
 だが、気付かれないように進むのは無理であった。
 何かが飛んでくる気配を感じコウキは背中の剣を抜く。

「伏せて! ハヤ!」

 コウキは叫ぶと剣を振るう。
 次の瞬間金属音がして何かが地面に落ちる。
 コウキは落ちたものを見る。
 刃が黒く塗られた細長い手投剣だ。
 それが3方向から飛んで来たのである。

「ほう、防ぐか……。大人しく今ので倒れておれば良かったものを」

 正面、右、左から何者かが出てくる。
 出て来たのは3名、全員が仮面を被り、大きな邪眼の紋章が入った首飾りを身に着けている。
 コウキは油断なく構える。
 
「……」

 コウキは答えない。
 出て来た3名とは別に隠れているのが2名いる。
 出て来た3名は囮だ。
 出て来て気を引き、隠れている2名が後ろに回り込もうとしている。
 
「最初は誘い込んだ騎士の仲間が勝手に抜け出したかと思ったが、違うな。お前のような奴はいなかった。何者だ? どこから入った?」

 姿を見せている者は喋りながら距離をつめてくる。
 コウキは注意深く相手を見る。
 相手の服にある小さな邪眼の紋章。
 それは蛇の女王を信仰する者の証しだ。
 
 蛇の暗殺者。

 取り囲んでいる者の正体はそれに間違いない。

「答えるつもりはないよ! ハヤ! 後ろに逃げて!」

 コウキはそう叫び横へと飛ぶ。
 そこには姿を消して後ろに回ろうとしていた者がいる。
 囲まれるのは危険である。
 だから、積極的に動く必要があった。
 見破られているとは思わなかったのか後ろに回ろうとしていた者は慌てて短刀を前に突き出す。
 蛇の牙を模した短刀。
 蛇の暗殺者が使う武器の1つで猛毒が刃に塗られているはずであった。
 コウキは短刀を避けるとその持つ手を斬り落とす。
 斬られた者は血を流しながら、後ろに逃げる。
 これで、1名の戦力は削いだ。
 コウキは顔についた返り血を拭うと振り返り残りの者を見る。
 前に2名の後ろに腕を斬った者が1名。
 合計3名。
 残り2名の姿が見えない。

(まずい、ハヤの方に向かったのか……)

 コウキは少し焦る。
 助ける義理はない。
 だけど、少し気になる。
 
「馬鹿な……。速攻性の毒の血を浴びているのになぜ動ける」

 後ろから蛇の暗殺者が驚きの声を出す。
 蛇の信徒は自らの血を毒に変える事ができる。
 そして、返り血を浴びた者を殺すのだ。
 だが、コウキは問題なく動ける。
 そんな事を聞かれてもわかるわけがない。
 これはコウキも気付いていない事だが、神族と同等の力を持つクロキの血を引いているので、蛇の信徒ごときの毒の血程度では効かないだけだったりする。
 突然、蛇の暗殺者達がコウキから逃げるように離れる。
 コウキが只者ではないと思った蛇の暗殺者達は撤退を決断したのである。

(まずい! 逃げられる!)

 コウキは慌てて追いかける。
 バラバラに逃げているので全員を追うのは難しそうであった。

「えっ!?」

 だが、コウキが追いかけようとした時だった。
 前にいた蛇の暗殺者の首が突然吹き飛ぶ。
 振り向くと後ろにいた蛇の暗殺者も首がなくなった状態で倒れている。

「どうしたんでしゅか? 何が起こったでしゅか?」

 ハヤがこちらに来るのが見える。

「ハヤ、無事だったんだ……」

 コウキは安心する。
 
「あの程度じゃ、ハヤの敵じゃないでしゅよ。まあ、でも1匹逃がしそうになったでしゅが……」

 ハヤはそう言って頬を掻く。

(見た目は弱そうだけど……。実はかなり強いのかもしれない)

 コウキはハヤを見てそう思う。
 言っている事に嘘を感じられなかった。
 逃げたと思ったのに、実際はすぐ近くにいたのが証拠だろう。

「でも、逃げた奴が急に倒れたでしゅ。良くわからないでしゅが。助けてくれる奴がいるみたいでしゅね」

 ハヤはそう言って頷く。

「確かにそうみたいだね……」

 コウキは城壁の方を見る。

(あの中にいるのかもしれない……)

 夜の闇の中で光る蝶が見えた気がするのであった。


 






 
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