暗黒騎士物語

根崎タケル

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第13章 白鳥の騎士団

第5話 遠くからの視線

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 コウキは白鳥の騎士団の仲間達と共に馬車で街道を行く。
 それぞれの事件の現場を検証し、真相を突き止める予定である。
 馬車が街道を進む。
 聖レナリア共和国の周辺は街道の整備が進んでいるので、かなり乗り心地は快適である。
 バンドール平野は平地が多く街道でなくても馬車で進める所は多い。
 しかし、それでも地面に凹凸が多いので整備されていなければ快適とはいえない。
 コウキが以前にいたエルドの周辺は街道の整備が進んでいないのでかなり馬車の乗り心地は悪いようであった。
 街道を進んでいると隊商とすれ違う。
 バンドール平野で一番大きい国である聖レナリア共和国には多くの商人が集まる。
 すれ違った隊商もそうであろう。
 コウキは馬車の幌の隙間から商人の仲間が物珍しそうに見ていたのを思い出す。
 それもそうだろう。
 有名な白鳥の騎士と馬車が2台の大所帯であり、通り過ぎる者が何事かと思うのは当然だ。 
 コウキ達はヒュロスを含む騎士3名を先頭にその次に巫女とその護衛が乗った馬車、その周りを残りの騎士が守り、コウキ達が乗る従騎士と物資が乗る馬車が最後である。

「はあ、俺も早く馬に乗りたいな……」

 先を行く騎士達を見たネッケスが溜息を吐く。
 騎士とは馬に乗る戦士と言う意味だ。
 馬は高価であり、裕福な貴族等の出身か王や貴族から馬を与えられる程優秀な戦士でなければ乗る事は出来ない。
 裕福な生まれではないネッケスが馬を得るには誰かから支援してもらうか、優秀さを証明して騎士に叙勲して馬をもらわなければならないだろう。
 ただ、裕福な白鳥の騎士団であっても志望者であれば誰にでも馬を与えられるわけではない。
 また、馬以外にも騎士団の維持にはお金がかかり、馬を自力で用意できる者の方が騎士団としてはありがたかったりする。 
 そのため貴族出身者の方が正騎士になりやすく、平民出身の従騎士が騎士になれないまま、年齢を重ねるのは珍しくなかったりする。

「そうだね、馬に乗れるようになりたいな……」

 コウキは溜息を吐く。

「そういや、コウキは馬に乗れないんだっけか?」

 ネッケが以外そうな顔をして聞く。

「そうなんだ。何故か馬に嫌われて……。触らせてもくれないんだ」

 コウキは首を振って言う。
 実はコウキは馬に乗る事が出来ない。
 触ろうとすると馬が嫌がるのだ。
 そのため馬に乗る事ができない。
 何故かはわからない。
 馬に好かれる方法を見つけるか、コウキを嫌がらない馬を見つけるしかない。
 ネッケと違う意味で騎士になるのが難しいのがコウキの状況であった。

「おい、お前らうるさいぞ! 静かにしろ!」

 コウキとネッケスが喋っているとデイブスが注意する。
 注意されてコウキとネッケスは黙る。
 この馬車に乗っているのは6名の従騎士だ。
 コウキとネッケスとデイブスの他は御者をしているノッポスと静かにしている少し年上の2名の先輩従騎士のモブオンとパンピスだ。
 彼らは剣を側に持ち、静かにしている。
 今は任務中であり、警戒を怠らないようにした方が良さそうであった。
 ちなみにこの馬車にギルフォスはいない。
 彼は先を進む巫女の乗る馬車に他3名の従騎士と一緒にいる。
 モブオンやパンピスは平民、ギルフォスと一緒にいるのは貴族出身であり、隊長のヒュロスは恣意的に組み分けをしたようであった。
 馬車は進む。
 行き先は聖レナリア共和国の従属する都市サレリアだ。
 サレリアは独立した国ではなく、住んでいる者も聖レナリア共和国の市民である。
 そこには白鳥の騎士団の支部があり、今夜はそこに宿泊する予定だ。
 ただ、サレリアまではまる一日かかるので途中馬車の中で携帯食を食べる。
 携帯食は干果と松の実を練り込んだパンを2度焼きしたものと山羊のチーズである。
 パンはかなり日持ちがするので白鳥の騎士が遠征する時に必ず携帯する。
 料理の神ネクトルの加護を受けた信徒が作ったパンは市販のパンよりも柔らかく食べやすくおいしかった。
 聖レナリア共和国に近い場所では事件は起きていない。
 そのため、遠くに行かねばならいのだった。



「まずいな……」

 馬に乗り先頭を行くヒュロスは呟く。
 
「どうしたんですか? 隊長?」

 側にいる騎士フリョンが聞いて来る。
 長年ヒュロスを支えてくれて部下で、また悪友でもある。

「嫌な予感がするんだよ……。あの時に感じたのと同じだ」

 ヒュロスはフリョンを見て言う。

「あの時って、ロクス王国の時の事ですか……」
「ああ、そうだ……」

 ヒュロスは頷く。
 かつてヒュロスはロクス王国で酷い目にあった。
 その時の感覚は今でも覚えている。
 幸いな事にあの日以来似たような事を感じる事はなかった。
 それが、今日に限って同じ感覚がする。

「隊長殿。巫女様がお呼びです」

 フリョンと話していると騎士ホプロンが呼びに来る。
 ホプロンはヒュロスやフリョンと違い真面目な騎士だ。
 おそらく副団長のルクルスからお目付け役として行軍しているのだろう。
 もともと気が合う相手でもなく、ヒュロスとしては目障りな相手であった。

「わかった。今行く」

 ヒュロスは巫女に呼ばれて馬車へと向かう。
 馬車の窓から中が見える。
 馬車の中には巫女と護衛、そしてギルフォス達従騎士がいる。
 ギルフォスの傍らには竪琴が置いてある。
 巫女達に歌を聞かせていたのである。
 ギルフォスは楽神アルフォスの子だ。
 強さだけでなく音楽の才もある。
 本来なら、音楽は魔物を避ける効果があり、魔物を退治する任務中でもある今はできるだけ奏でるべきではない。
 だが、まだ先の事であり、そもそも神の子ギルフォスに注意できるような胆力はヒュロスにはない。
 だから、何も言わない。

「巫女様。お呼びでしょうか?」

 ヒュロスは馬車に横付けしながら馬を進めて聞く。
 
「隊長殿。実は先程から黒い影が付きまとっているのを感じるのです。おそらく何者かが私達の動きを見ています……。気を付けて下さい」

 巫女メリニアはそう言って空を見上げる。
 おそらくヒュロスには見えない何かが見えているのだろう。
 だが、これでヒュロスが嫌な予感をしているのは気のせいではない事になる。

(はあ、くそっ! 何が起きるんだよ!? この先!)

 ヒュロスは旅の行き先に不安なものを感じるのだった。



 コウキ達からかなり離れた丘の上。
 その丘の上からクロキはコウキの乗った馬車を見る。
 かなり遠いがクロキの目なら馬車小さな模様までも見る事が出来る。

「コウキは初任務のようね……。どうなっているのかしら?」

 横にいるレーナが同じようにコウキの乗る馬車を見ている。
 コウキの乗る馬車は前を行く馬車より装飾が少なく実用的である。 
 それがレーナには不満なようだ。

「まあ、前に乗っているのは何か身分の高い人なんだろう……。そもそも、コウキが何をしているのか知らないの?」

 クロキはレーナに聞く。
 聖レナリア共和国はレーナの地上での活動拠点である。
 コウキの様子は簡単にわかるはずであった。
 
「わからないわよ。地上の騎士が普段何をしているかなんて」

 レーナはさも当然のように言う。
 よほどの事がない限り興味はないようだ。
 まあ、わかっていた事とはいえ騎士達が可哀想に思う。
 皆レーナのために頑張っているのにだ。

「それにしても何であんな粗末な馬車に乗っているのかしら? はあ……。騎士団長にできたら良いのだけど……。目立ちすぎるのもねえ」

 レーナは溜息を吐く。
 白鳥の騎士団はあくまで人間達の騎士団だ。
 コウキが誰かの下に付くのも嫌だが、レーナが贔屓して団長にしたらコウキの出自がバレかねない。
 コウキの出自を隠したいレーナとしては悩ましい事だった。
 いくらレーナの本拠地とはいえ隠ぺいするのも限界がある。
 そのためコウキの待遇が良くない事になっているのであった。

「まあ、任務中だし、実用的な馬車に乗るのも仕方がないんじゃないかな。これも修行だと思うし……」

 クロキはレーナを宥める。
 レーナならコウキの待遇を悪くした騎士達を誅殺しかねない。
 さすがにそれは止めた方が良いだろう。

「そういうものかしら? まあ、コウキが強くなるなら良いのだけど気になるわね」

 レーナは興味深そうにコウキ達を見る。
 コウキが聖レナリア共和国に入ってから初めて出た事が気になるようだ。

「全く何を話しているのだ。気になるなら直接会いに行けばよいだろうに」

 後ろで聞いていたクーナがつまらなそうに言う。
 クーナとしてはここで見ているだけなのはつまらないみたいだった。

「それもそうね。身分を隠して近づいてみようかしら? どう思うクロキ?」
「いや、それは……」

 クロキは難色を示す。
 レーナは隠密が苦手だ。
 顔隠していても何故か存在感がある。
 近づけば正体がバレなくても目立つだろう。
 そして、いつか気付かれる。
 
「ええとね……。レーナ」

 クロキが何かを言おうとした時だった。
 クロキは異変に気付く。
 それはレーナも一緒であった。

「クロキ……。気付いた」
「ああ、自分達以外にも誰かがコウキ達を監視しているね」

 クロキの目が鋭くなる。
 コウキ達を見ている視線は敵対的だ。
 何者かがコウキ達に危害を加えようとしている。
 それが何者かがわからない。
 だけど、何か強大な力を感じる。
 
(何者だろう?)

 クロキは視線の主を探すのであった。




 

 

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