暗黒騎士物語

根崎タケル

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第12章 勇者の王国

第31話 突然の報せ

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 クロキとレイジは剣を交える。
 剣がぶつかる度に衝撃波が周囲に広がる。
 それだけ激しい戦いであった。
 レイジはもはや剣を投げる事はしない。
 攻めには良くても、防御には向かない技である。
 クロキが攻撃に出た以上、剣はしっかりと握っておく必要があった。
 2人は剣をさらに交える。
 優勢なのはクロキ。
 レイジは持ち前の身体能力で何とか対抗しているが、クロキの剣を防ぐのがやっとである。
 また、レイジの攻撃はクロキの影を斬るのがやっとで届かない。
 意味のない攻撃をレイジは続ける。
 それは影の牢獄に囚われているようであった。

「ぐっ!」

 レイジは呻き声を出す。
 防ぎきれず、左手と右足を斬られたのだ。
 落とされてはいないが、これでは動きに支障が出る。
 回復にはほんの少しだが時間がかかる。
 その本の少しの時間はレイジにとって致命的であった。
 クロキがその気になればレイジの首はすぐにも胴体から切り離す事も簡単だった。
 もちろん、クロキはそこまでするつもりはない。
 レイジが片膝を地面に付けると剣を下げる。
 戦いは終わりであった。
 クロキは膝を付くレイジを見下ろす。

「やっぱり強いな……、ああ」

 そう言ってレイジは不敵な笑みをクロキに向ける。
 その笑みは剣を交える前と同じだ。
 クロキはその笑みに相変わらずだなと思う。

「勝負は終わりだよ……」

 そう言ってクロキはレイジに背を向ける。
 これ以上ここにいるつもりはない。
 クーナとグロリアスの所へと戻り、この場から離れるつもりだ。
 背を向けているがレイジは襲ってくる様子はない。
 だから、安心してクーナの所へと戻る。

「もう良いのか、クロキ?」
  
 グロリアスの背に乗るクーナがそう言って出迎える。

「ああ、もう良いよ。まさか会えて話せるとは思わなかったよ……。ありがとう、クーナ」

 クロキは少し首を横に向け、遠くを見る。
 そこにはコウキがいて、こちら真っすぐに見ている。
 コウキが成長している事を確認出来て良かった。
 クロキは心からそう思う。

「そうか、ならば帰ろう」

 クーナがそう言うとクロキは頷く。
 リザードマン達もこの場にいない。
 やるべき事はもうなかった。
 クロキはグロリアスに乗るとその場を離れるのであった。



 暗黒騎士は去り、チユキはレイジの元へと近づく。
 怪我をしているようだが、治療をする必要はない。
 チユキ達はよほどの怪我でない限り、すぐに再生する。
 現にレイジはすぐに立ち上がる。
 負けたようだが、余裕の表情だ。 

「やっぱり強いな。バケモンだ。ありゃ」

 レイジは近づいて来たチユキの方を見ずに言う。
 その視線は暗黒騎士が乗る竜が飛んだ方に向けられている。
 チユキはレイジがかなり練習した事を知っている。
 しかし、それでも全く敵わなかった。
 チユキはレイジが心配になる。

「そう……。じゃあもう諦める?」

 チユキがそう聞くとレイジは首を振る。

「いや。この程度でへこたれる俺じゃないぜ。また挑むさ」

 レイジはそう言ってチユキの方を見る。
 全く懲りない奴だとチユキは思う。
 そして、振り返る仲間達の所に戻ろうとした時だった。
 チユキはカヤに羽交い絞めにされているシロネを見る。

「なにやってんだ? どうしたんだ、シロネは」

 レイジは不思議そうな声を出す。
 
「いやね、あの白銀の髪の子が去る時、シロネさんを見て意地悪そうに笑ったらしいの。それでシロネさんが怒って飛び出そうとするのを抑えているわけ」

 リノが説明する。
 チユキは見ていなかったが、白銀の魔女クーナは去り際にシロネにだけわかるように挑発行為をしたようだ。
 それに怒ったシロネは飛び出そうとして、寸前でカヤに抑えられたみたいだ。

「ちょっと離して~!! 離してよ~!! ムキー!!」
「ダメです。シロネ様。ここで行っても話がややこしくなるだけですよ。行くべきではありません」
「そうですわ、シロネさん。ここは機会を待つべきですわよ。きっと来ますわ」 

 興奮するシロネをキョウカとカヤは冷静に諭す。
 それを見たチユキは何をやっているんだと思う。
 そして、キョウカは何か機会を待つように言う。
 機会がある事を信じているみたいだ。

「あの~、チユキ様……。我々はどうしたら良いでしょうか?」

 チユキがそんな事を考えてくるとソガスが指示を仰ぐ。

「ええと、そうね。瓦礫の中を捜索かしら? ゴシション先生も一緒に中に入った人達を探さないと……」

 チユキは瓦礫と化した砦を見る。
 一緒に砦に入った者達はまだ無事の可能性もある。急いで探す必要があるだろう。
 こうしてチユキ達は捜索を開始するのだった。





 完全に崩壊した砦の捜索が始まる。
 勇者レイジと、キョウカとカヤは戻る。
 特に探索に得意ではなく、リザードマンが去った以上、特にやる事もないからだ。
 そのためチユキとリノが残り指示を出す。
 シロネは特に探索が得意ではないが、何か出来る事はないかと残った。
 捜索するのは後から駆け付けた人ばかりだ。
 中に入った者で無事だった者は少ない。
 その無事だった者にコウキとオズとボームが含まれ、3人も捜索を手伝う事になる。
 子どもであるコウキ達は手伝わなくても良いと言われたが、ゴシションの事が気になったので手伝う事にしたのである。
 もっとも、チユキ達や一緒にいる大人達がほとんどやってしまうのであまりやる事がない。
 
(暗黒騎士か……。どうして、気になるんだろう)
 
 コウキは暗黒騎士の事を考える。
 暗黒騎士は去る時にコウキ達の事を見ていた。
 もちろん感じただけで気のせいかもしれない。
 オズとボームに聞いたが、少し遠かったので良くわからないそうだ。
 オズとボームもコウキ程に目が良くないので仕方がないだろう。
 それに怖かったので良く暗黒騎士の方を良く見る事が出来なかったという事もある。
 コウキとオズとボームはゴシションがいた場所へと向かっている。
 もし無事なら助け出したいと思う。

「う~ん。あの人大丈夫かな? 怪我をしていたけど……」
「ああ、心配だな。無事だと良いのだけど」

 ボームが心配そうな声を出すとオズが頷く。
 2人はゴシションに助けられたそのため気になるようだ。
 もちろんコウキだって気になる。
 彼はコウキの先生でもあったのだから。

「ルウ姉さん。精霊の力でゴシション先生を探せない?」

 コウキは後ろにいるルウシエンに聞く。
 ルウシエンもゴシションの事は見ているはずだ。
 エルフの探知魔法なら探せるかもしれない。

「えっ? 私が捜索ですか?」

 ルウシエンは意外そうな顔をする。
 コウキに付いて来てはいるが全く手伝う気はないみたいだ。

「まあ、出来ない事はないですが……。多分死んでますよ。怪しい者がいないかと思い生命感知をしていますが、大きなものはいません」

 ルウシエンは首を振る。
 
「そうだね~。警戒はしてるよ~。でも、隠れているのはいないみたい」
「ああ、そうだな。ピアラ殿の言う通りだ。それに人間ヤーフに化けた者もいるらしい。警戒は怠らないようにしないとな」

 ピアラとオレオラはそう言って頷く。
 砦に一緒に入ったブイルは化け物に変貌しオズとボームに襲いかかった。
 人間の姿をしているからといって油断はできない。
 エルフ達の言葉を聞いたオズとボームの顔が暗くなる。

「ふう、ようやくここに来れた。よかった貴方達。無事だったのね」

 コウキ達が話をしているとチユキがこちらへとやってくる。
 チユキはコウキ達が無事だったのは知っていたが、指示等を出さねばならず、こちらに来る事が出来なかったのだ。
 側にはソガス司祭もいる。
 ソガスはオーディス神殿の司祭でチユキの補佐を行っている。
 側にいるのも当然だった。 

「チユキ様。あのお知らせしたい事があります」

 オズはチユキの側に行く。

「えっ、どうしたの?」
「実は……」

 オズはブイルの事と助けてくれたゴシションの事を説明する。
 オズの話を聞いたチユキは目を開いて驚く。

「そんな事があったの……。確かブイル殿はソガス司祭、貴方が連れて来たのよね?」
「えっ、はい……。そうですが……。にわかには信じがたいですな。いくら何でもブイル殿が化け物に変わったなどと……」

 チユキが後ろを見るとソガスは信じられないと首を振る。
 それが普通の反応だろう。
 コウキも直に見ておらず、また友人であるオズとボームの言葉でなければ信じられないと思う。

「チユキさん! 大変だよ! 事件だよ!」

 そんな時だった。
 リノが慌てた表情でチユキの所へとやって来る。

「ちょっと、どうしたのよ? 落ち着いて、何があったの?」

 チユキはリノを落ち着かせる。

「ええっとね! オーディス神殿で大畑さんがまた殺されたの!」

 リノがそう言った時だった。
 その場にいた者達が全員驚く。

「ええ、大畑殿が? また殺された嘘でしょ?」

 チユキは信じられないと首を振る。
 大畑はオズの祖父の事だ。
 コウキはオズを見る。
 オズは報告を聞いて目を大きく開き驚いている。

「えっ……。お爺様が……。そんな……」

 オズは呟く。
 突然の急報にコウキ達はエルドに戻る事にするのだった。


 
 
 
 


 
 
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