暗黒騎士物語

根崎タケル

文字の大きさ
上 下
370 / 431
第12章 勇者の王国

第29話 真なる竜

しおりを挟む
 コウキ達は残骸となった砦の上に降り立った巨大な漆黒の竜を見る。
 竜羽虫ドラゴンフライのような紛い物の竜とは違う真なる竜であった。
 その竜の上に乗っているのは暗黒騎士と白銀の魔女。
 暗黒騎士は真っすぐに光の勇者を見ている。
 その様子はすぐにも戦いが始まりそうであった。
 
「何だよ、あれ……。見ているだけで震えが止まらなくなるよ……」
「ああ、さっきから、ふ、震えが止まらない……」

 ボームの言葉にオズは頷く。
 コウキが2人を見ると顔が青ざめて足が震えている。

「し、仕方がないぞ……。人間の子どもよ。あの暗黒騎士は恐怖の波動を放っている。私達エルフであっても震えてくるほどのな」

 オレオラもまた震えている。
 オレオラだけでなく、ルウシエンもピアラも顔が強張っている。

「多分あれでも本気じゃないんだろうね……。正面から睨まれたら漏らしちゃうわあ」

 ピアラが震えながら言う。

「漏らすなら。誰もいない所でお願いね、ピアラ。それにしても、コウキ様は大丈夫のようですね……。やはり……」

 ルウシエンはコウキを見て笑うと何を言おうとする。
 確かにルウシエンの言う通り、コウキは暗黒騎士を見てもオズやボームのように震えたりはしない。
 怖いとは全く思わないのだ。

「ふふ、それはちょっと早いね~。それ以上はいけないよ~」

 突然声がしてルウシエンの言葉を遮る。
 コウキは振り返るそこには抜け道を案内した道化師が立っている。

「ばっ、馬鹿な!? この私が気付かないだと」

 オレオラが信じられないという表情で道化師を見る。
 この道化師には気配がないのだ。
 いつも唐突に現れる、何とも怪しい奴であった。

「ぬふふふ。僕の事なんか気にしなくても良いよ。それよりもあの御方を見るべきだね~。あの御方はこの世界で最強の剣士なんだからさ~」

 道化師が笑いながら言う。

「さ、最強の剣士。で、でも勇者は負けないよ! ゆ、勇者様は強いんだから!」

 ボームは震えながら反論する。
 勇者レイジはエルドの、いや全世界の子どもの憧れの存在である。
 そのレイジの勝利を願うのは当然である。
 それはオズもそうだろう。
 震えながら頷いている。
 ただ、そんな中でコウキだけは複雑な心境であった。
 なぜか知らないが、暗黒騎士を嫌えないのだ。
 
「ふふふ、まあそうかもね~。でも、ここから少し離れた方が良いかも~。激しくなるかもしれないからさ~」

 道化師はエルフを見る。
 ルウシエンは頷くとコウキ達を後ろへと下げるのだった。




「やっぱり、来てたわね。クロキ」

 チユキの隣にいるシロネが呟く。
 あの白銀の子がいる時点で彼が来ているだろう事は想像がついた。
 
「うん。やっぱり出て来た。ねえ、どうなるのかな……」

 リノはそう言ってチユキとシロネを見る。

「私じゃちょっと……。あんまり武道には詳しくないし……。ねえカヤさんはどう思う」

 チユキはそう言ってカヤに聞く。
 こういった事はカヤに聞くのが一番であった。
 もちろん、彼の幼馴染のシロネに聞けないという事情もある。

「ええと、わかりません。レイジ様は修行をしてかなり強くなられたようですが。剣に関してはシロネ様の方が……」

 カヤは首を振る。
 剣に関してはシロネの方が詳しい。
 カヤもレイジの修行に付き合ったが、より長い時間を過ごしたのはシロネである。
 だから、シロネに聞くのが一番である。
 カヤはチユキがあえて避けていた事をシロネに聞く。

「うん。レイジ君は本当に強くなったよ。前からすごかったけど。今はもっと凄くなった……。だけど、勝負がどうなるかなんて私からは言えないよ……」

 そう言うシロネの視線は先程から暗黒騎士の彼から動かない。
 彼の行動を見極めようとしているようだ。
 幼馴染としては複雑な心境だろう。
 レイジが修行をしたのは暗黒騎士の彼に勝つためだ。
 その修行に付き合ったのはシロネである。
 このような状況になるのは想定できていたに違いない。
 どちらの勝利も願えない。
 そんな感じであった。

「勝負は避けるべきよね……。止めるべきかしら?」

 チユキは考え込む。
 もしかするとどちらかが大けがをするかもしれない。
 場合によっては死ぬだろう。
 それが心配であった。
 しかし、シロネは止めるつもりはない。
 どこか苦しそうであった。

「その必要はないですわよ」

 そんなチユキの言葉を側で聞いていた。キョウカは否定する。
 
「お嬢様」
「大人しく見ていなさい、カヤ。きっと大丈夫ですわ」

 キョウカはそう言って笑う。
 シロネに比べて苦しそうではない。
 まるで結果わかっているかのようであった。
  
(見ているしかないか……)

 チユキは溜息を吐くと、暗黒騎士の後ろにいる銀髪の少女を見る。
 彼女の顔は笑っている。
 おそらく暗黒騎士の勝利を確信しているのだろう。
 見ているしかない。
 チユキは覚悟を決めるのだった。





 クロキはグロリアスから降りると竜羽虫ドラゴンフライの横にいる竜人の側へと行く。
 竜人は驚いた表情でクロキを見る。

「竜人殿。光の勇者の相手は自分がしたい。譲ってはもらえないでしょうか?」

 クロキは頭を下げて言う。
 その時に体の中にいる竜の力も同時に発動させる。

「うっ、あの高名な暗黒騎士殿がそう言うのならば、しっ、仕方がない! ここは譲る事にいたしましょう! 者共! 下がるのだ! 暗黒騎士殿の邪魔をするな!」

 竜人は立ち上がるとまだ生きているリザードマン達に命令する。
 自身が明らかに敗北した状態であり、さらに真なる竜の力を持つ者にお願いされたら聞かざるを得ない。
 竜人としてはクロキのお願いを聞かない理由がないのである。
 すぐに移動をし始める。
 竜人が去ると、クロキはレイジを見る。
 レイジは竜人が去った事を確認すると前に出てくる。

「来たか……。ずっと上空で見てたんだろ? いつ降りてくるのか待っていた」

 レイジは剣を両手に持ち、構える。
 不敵な笑みだ。
 その構えから、彼がかなり剣の研鑽を積んだ事を感じさせた。
 レイジと戦う時はいつも震えが止まらない。
 楽に勝てるような相手ではない。
 死ぬかもしれない。
 しかし、それでもクロキは逃げる事はできない。
 逃げる事を覚えたら戦う事ができなさそうであった。
 それにレイジは敗れてなお戦おうとしている。
 この世界に来た時にクロキはレイジと戦うのが怖かった。 
 また負けるかもしれないと思ったのだ。
 だが、レイジは不敵な笑みを浮かべている。
 なんて奴だろうとクロキは思う。
 そんな奴を相手に背を向けられるだろうか?
 
「どうしようか迷ったのだけどね……」

 クロキは介入しようかどうか迷った。
 しかし、竜人が見捨てておけず出て来た。
 クロキも剣を構える。
 2人の間に緊張が走る。
 周囲の人間が固唾を飲んで見守っている。
 
(何かを仕掛けてくる……)

 クロキはレイジを見てそう判断する。
 レイジの剣は正当な剣の動きではない。
 正攻法で来ないのだ。
 しかし、何を仕掛けてくるのかまで読み取る事はできない。
 クロキとしては相手の出方を待つしかない。
 速さではレイジの方が上であり、これまで勝てて来たのは、過去に戦った経験から予想が当たってきたからだ。
 そのレイジがこれまでとは違う動きをしようとしている。
 クロキとしては警戒するのも当然であった。

(ならば、こうするしかないな……)

 クロキは魔剣を逆さに構え、体に寄せると防御の姿勢を取る。
 相手に先手を取らせるしかない以上、そうするしかない。
 レイジは2本の剣を構えてクロキににじりよる。

「守ってばかりかい? それじゃあ、俺を倒せないぜ」
「……」

 レイジは挑発するが、クロキは何も答えない。
 出来る事をする。
 全力を出す。
 剣を持ちクロキは精神を研ぎ澄ます。
 そして、ひそかに足を動かす。
 長い修行によって得た動き。
 正面から見ると何も動いていないように見えるだろう。

「いくぜ!」
 
 レイジは剣を振る。
 その瞬間クロキの視界は光りに包まれるのだった。
 

  
 

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...