暗黒騎士物語

根崎タケル

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第12章 勇者の王国

第23話 暗黒騎士と手合わせ

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 チユキとシロネは砦の中を進む。
 
「全く見えないわね……。魔法を阻害する何かがあるわね。でも、これだけ阻害する魔法を使っているのなら、あの子だってこの中で起きていることがわからないはず……」

 チユキは先程から透視の魔法を使っているが、何の変哲もないはずの壁の向こう側が見えない。
 細かい所まで阻害する魔法を使われているようだ。
 しかし、これだけ阻害する魔法を使っているのなら、当の使い手も見る事が難しくなるはずだ。
 だが、あのクーナがそんなミスをするようには見えない

「多分、虫を使っているよ。あの子。この中に配置した虫があの子に情報を伝えているんだと思う」

 シロネが冷静に分析する。
 確かにその可能性が高いだろう。
 クーナは虫を使う。
 その虫を使ってこの砦の中で起きている事を見ているのだろう。

「なるほど……。虫を使う能力ならリノさんの方が適しているけど、リノさんは虫が好きじゃないしね」

 チユキはここにいない仲間を思い浮かべる。
 精霊と会話できるリノは虫とだって会話でき使役もできる。
 しかし、虫が嫌いなので使ったりはしない。
 だけど、ここにいたら情報を飛ばしている虫を見つける事が出来たかもしれない。
 
「待って! 何かいる!」

 先を歩くシロネがチユキを止める。
 チユキは黙り、シロネと共に警戒しながら前に進む。
 
「これは……」

 チユキは愕然とする。
 そこには複数の人間が倒れている。
 斬られた跡があり、ここで戦闘があったようだ。
 全員死んでいるようだ。
 何と戦ったのかはわからない。なぜなら、戦ったであろう相手の死骸がないからだ。
 もしかすると一方的にやられたのかもしれない。
 だとすると危険な相手がいるようだ。

「隠れていないで出て来なさい!」

 シロネは剣を向ける。
 どうやら隠れた何者かがいるようだ。

「グルルル」

 鳴き声と共に出て来たのは大きな体のリザードマン。
 一般的な種ではない。
 明らかに戦闘を生業としている様子だ。

戦士型ウォーリアタイプ……。でもおかしいわね」

 チユキは出て来たリザードマンを見て呟く。
 リザードマンの中でも体格が大きく戦闘を主にしている。
 普通の戦士では太刀打ち出来ないだろう。
 しかし、この砦に入った者は熟練である。
 戦士型がいかに強いとはいえど一方的にやられたりはしないはずだ。

「チユキさん。まだいるよ」

 シロネは戦士型のリザードマンの後ろからさらに一回り大きい何かが出てくる。
 身長は2メートルを超える羽の生えたトカゲ人。

竜人ドラゴニュート……。まさか、これが来ていたとはね」

 チユキは納得する。
 竜人ドラゴニュートはリザードマンの上位種だ。
 下位レッサードラゴン並みの彼らは熟練した戦士達が束になっても敵わない。
 なすすべもなくやられるわけだ。

「ふん、レイジのメスだな。お前達を捕らえて生贄に捧げてやるぞ」

 竜人ドラゴニュート長柄刀グレイブを構える。
 刃から魔力を感じる。
 おそらく竜の牙から作られた竜牙刀だろう。
 それがチユキ達に向けられている。

「どうする、チユキさん?」
「敵対する気はないんだけどね……。やるしかないわよね」

 チユキは覚悟を決める。
 そして、コウキ達は大丈夫だろうかと思うのだった。



 オズとボームは砦の中をゆっくりと歩く。
 飛ばされたのは2人だけで周りには誰もいない。
 
「うう、みんなどこだろう?」

 ボームは震えながら言う。
 これまではシロネやチユキがいたから不安ではなかった。
 何が出てもシロネの剣やチユキの魔法が倒してくれるだろう。
 また、大人の戦士達もたくさんいた。
 しかし今は子どもが二人だけだ。

「そうだな、早く合流しないとな」

 オズも頷く。
 ボームよりも冷静を装っているが、オズも不安なのである。

「コウはどこかな……」
「ああ、どこだろうな。1人じゃなければ良いんだけどな」

 オズとボームは仲間の安否を考える。
 オズとボームは1人じゃないからまだ大丈夫であった。
 1人だったら泣いていたかもしれない。
 オズとボームははぐれた人を探して先へと進む。
 そんな時だった。
 進む先から誰かが出てくる。
 オズとボームは一瞬だけ警戒する。
 魔物かもしれないと思ったのだ。
 だけど、現れたのは魔物ではない。
 人間であった。

「おや、こんなところにいたのですか? 探しましたよ」

 進む先から現れたのはブイルであった。
 ブイルはオズとボームを見つけると笑う。
 オズとボームは息を吐いて警戒を解く。
 正直に言うと好きになれない相手である。
 しかし、今この状況ではそんな事を言っていられない。
 
「良かった~。誰かと合流できて」

 ボームは安心して笑みを浮かべる。
 この状況下で大人と合流できたのは良かった。 

「ええ、丁度良かったですよ。出会えて、今なら誰もいません。子ども2人と私だけ、始末するのうってつけですよ、キキキキ」

 ブイルは変な笑い声を上げる。

「え、あのどういう意味」

 ここにはオズとボームとブイルだけだ。
 しかし、それが丁度良いとはどういう事だろうとオズは疑問に思う。

「あの男の血は全てケケケケ消す……。フフフ復讐ウウウウウウ」

 そう言うとブイルの首がぐるりと回る。
 それは人間の動きではなかった。

「ひいいいいいいい!」

 ボームは悲鳴を上げて倒れそうになる。

「に、逃げるんだ!!! ボーム! 急げ!」

 倒れそうになるボームを支え、起こすとオズは手を引っ張り、急ぎ来た道を戻るのだった。




「暗黒騎士……」

 コウキは光る蝶に誘われて花園へと来た。
 その中心に一人立っている漆黒の鎧を着た者。
 それは話に聞く暗黒騎士であった。
 コウキと暗黒騎士は向き合ったまま動けない。
 コウキは道化の言葉を思い出す。

 いずれ暗黒騎士が目の前に現れる。

 コウキは目の前の暗黒騎士に不思議な思いを感じる。
 この感覚は以前にも感じたものであった。
 暗黒騎士はコウキを見て動かない。
 暗黒騎士もまた何か感じているようであった。

「まさか、ここで……。クーナ、狙ってやったの?」

 暗黒騎士はこちらに近づく。
 コウキは剣を抜いて構える。
 剣は先程の戦いでボロボロである。

「ボロボロの剣? 様子から手入れを怠ったわけではないな……」

 暗黒騎士は剣を見て呟く。
 立派な騎士を目指すコウキは剣の手入れを欠かした事はない。
 だけど、戦っていればどんなに手入れをしても剣が折れる事もある。
 これは仕方のないことだ。

「そんな剣じゃ何も斬れないよ。この剣を使いなさい」

 暗黒騎士は腰に持っていた剣を抜くとコウキの方に投げる。
 剣はそのままコウキの足元へと突き刺さる。
 なぜ、暗黒騎士が剣をくれるのかわからない。
 しかし、剣がないのは事実であり、何も武器を持っていないのでは戦う事は難しかった。
 コウキはボロボロの剣を捨てると暗黒騎士が投げた剣を取る。
 剣は軽く、コウキの手に何故か馴染んだ。
 コウキは剣を見る。
 簡素な作りだが、逆にそれが扱いやすく感じる。
 鉄製ではなく、不思議な光沢を持った黒い剣身。
 何か特別な材料で作られているようであった。

「構えなさい」
「えっ!? はい……」

 コウキは言われて構えてしまう。
 師であるクロキから学んだ構えだ。
 別れた後も何百回も練習した剣。
 それを見せる。

「基本を欠かさず、やっていたようだね……」

 暗黒騎士はそう言うと自身も剣を呼び出して構える。
 血のような赤い紋様が入った漆黒の大剣。
 それを構える暗黒騎士の構えはコウキの構えと同じであった。
 怖ろしい暗黒騎士から剣を向けられているというのにコウキは何故か怖くなかった。
 暗黒騎士をじっと見る。
 何故か嬉しそうであった。

(おかしい、なぜだろう……。自分が剣を練習したことが嬉しいのだろうか? それに何か前にもこんなことがあったような気がする)

 何故か感じる既視感。
 コウキはそれに少しだけ戸惑う。

「かかってきなさい」

 コウキは暗黒騎士に言われるままに剣を掲げ向かう。
 渾身の一撃。
 暗黒騎士はその一撃を簡単に受け流す。
 力任せではなく、流れるような動作。
 それだけで暗黒騎士がかなりの剣士である事がコウキにはわかる。
 コウキは再び剣を構えると暗黒騎士に向かう。
 これまで練習してものの全てを吐き出すように剣を振る。
 暗黒騎士はその全てを受けきってしまう。

(全く敵わない……。遊ばれている? )

 暗黒騎士の動きはコウキの遥か上を行っている。
 それでもコウキが死んでいないのは暗黒騎士が手を抜いているからだ。
 本気だったら既に勝負はついている。
 遊ばれているかとも思うが、暗黒騎士はコウキの動きを修正し、また良く出来ているところを褒める。
 それは剣の修行に近い。

(この剣の動き……。言動……。自分は暗黒騎士を知っている?)

 コウキは剣を合わせているうちに暗黒騎士の正体に思い当たる。
 だが、それは信じられない事であった。
 コウキと暗黒騎士の手合わせは続く。
 それは永遠に感じられた。

 




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