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第12章 勇者の王国
第16話 虫博士
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コウキ達は耕作地の真ん中にある小屋の中で探していたピュグマイオイのファブルと出会う。
「あ、貴方がファブルさんなんですね! タッキュさんから手紙を預かっています!」
ボームは預かっていたタッキュの手紙を渡す。
「なんと! タッキュから手紙を預かっているのか! 読ませてくれぬか!」
ボームから手紙を受け取ったファブルは早速読み始める。
「うむ、何をしているのか連絡が欲しいか……。まあ、仕方がないのこれだけ留守にしていたのだからな。しかし、ここから出られぬ状態だったのだよ」
ファブルは首を振る。
「出られない理由は外の虫ですか?」
コウキが聞くとファブルは頷く
「そうじゃ、あの忌々しい虫のせいでここから動く事ができなかった……。携帯食もなくなり、空腹じゃよ」
ファブルは地面に座り込む。
「あの、携帯食なら、持ってます。どうです?」
「おお、ありがたい! お主名前は!?」
ボームから小型の携帯パンを受け取るとファブルは食べ始める。
携帯食は木の実と干果を練りこんだパンを2度焼きして堅くしたものだ。
大変堅い食べ物だが、ピュグマイオイは人間と違い歯が丈夫なのか普通に食べている。
さらにボームから水をもらうと飲み始め、あっという間に食べつくしてしまう。
よほど、お腹が空いていたようである。
「僕はボーム。そして、こちらにいる綺麗な顔をしたのがコウで恰好良いのがオズです。ええとエルフのお姉さん達は僕達の付き添いです」
ボームが説明するとファブルは怪訝そうな顔をする。
「エルフに付き添われくるとはの。う~む、お主ら只者ではないな。じゃが、どうでも良い。折角の助けなのじゃから、ここから出よう。儂の可愛い虫達もそろそろ限界だからな」
ファブルはそう言って笑う。
「虫? 限界? どういう意味?」
オズが首を傾げる。
「気が付かないかな。この小屋の全ての隙間に儂の虫達を配置して外の虫が入って来んようにしとるんじゃよ」
ファブルはそう言うと口笛を吹く。
すると銀色に輝く虫がファブルの元へとやってくる。
「虫使い? なるほど、ピュグマイオイの中には虫を使う者がいると聞いていたけど、貴方がそうなのね」
ルウシエンは虫を見て言う。
「そのとおり、儂こそがピュグマイオイで一番の虫使いにして虫博士のファブルじゃよ。どうじゃな」
ファブルは胸を張り、やって来た虫を撫でる。
虫はかなり大きくファブルの体の半分以上ある。
「うわ~。綺麗な虫だな~」
ボームはファブルが呼び出した虫に手を伸ばす。
虫は銀色で、光が当たると虹色の輝いている。
「待て! 触ってはならん!」
ファブルは突然大声を出す。
ボームは驚き手を引っ込める。
突然大声出したのでコウキ達は驚きファブルを見る。
「いや……。すまんなそいつは下手に触ると強烈な臭気を放つんじゃ。だから、手を触れてはいかん」
ファブルは説明する。
「確かにこの虫、カメムシに似てるよ。それの仲間かな?」
ピアラはファブルの虫を見て言う。
確かにピアラの言う通り甲殻の部分の美しさはかなり違っているがカメムシに似ている。
この虫も同じように臭気を放つようである。
「その通りじゃ、この小屋の隙間全てに儂の虫を配置しておる。もっとも入口に配置していたのは吹き飛ばされたようじゃがな」
ファブルは入口を見る。
小屋の入口は布が垂れ下がっているだけだ。
その外側にはピアラの作った風の守りがあり、虫は入ってこない。
当然、ファブルの虫も入口に近づけない。
「なるほど、それでこの中に虫がいないのか」
オレオラはそう言って小屋の入口を見る。
「うむ、そうじゃ。この虫は外敵から身を守るために臭気を発する。近くで吸うと麻痺してしまうかもしれん」
「そ、そうなんだ。こんなに綺麗なのに……」
青ざめた表情となったボームが言う。
「ははは、まあ怒らせなければ無害じゃよ。ナルゴルに生息している宝石虫は猛毒を発するらしいが、それに比べたら可愛いものじゃよ」
「宝石虫ですか?」
コウキは宝石虫という単語が気になり聞く。
「うむ、世界でもっとも美しいとされる虫じゃ。手足を引っ込めていると普通の宝石と間違う程にな。儂の可愛い虫と同じで普段は無害じゃが、怒らせると怖い。間違っても虫除け香が充満している部屋に入れてはならんぞ。怒って猛毒を出すじゃろうからな」
ファブルはそう言って笑う。
「宝石虫……。猛毒……」
オズは何か思い出したのか呟く。
「どうしたの、オズ?」
「ああ、ちょっと気になる事を思い出したんだ。最近お爺様が珍しい宝石が付いた首飾りをしているのをね……」
コウキが聞くとオズが答える。
「もしかして、その宝石が虫かもしれないって事?」
ボームは驚いて聞く。
「いや、ただの推測だよ……。でも、今の話を聞いてなぜかあの首飾りが気になったんだ」
オズはそう言って首を振る。
「一応、チユキ様に報告してみようよ、オズ。チユキ様なら調べられるはずだよ」
毒されたとき、大畑が身に着けていた衣服や装飾品は証拠品としてオーディス神殿が預かっている。
勇者達が預かっていないのは基本的に捜査をするのは配下の者達であり、勇者達ではないからだ。
ただ、勇者達の配下も重要すぎる証拠品を保管する事になれていない。
そこで、仕方なくオーディス神殿が預かっているのである。
オーディス神殿は有料で遺言書等を保管するための倉庫を持っている。そこに首飾りがあるはずであった。
「そうだね、まずは戻ろうか、ファブルさんにも会えた事だしね」
オズがそう言うとコウキとボームは頷く。
「そうですね、いい加減、ここから出ましょう。ここには花がないですから。ピアラ。出来ますね」
「はいな。姫様。あれぐらいの虫なら何匹来ても防げるよ」
ピアラは笑って言う。
「それにしても、あの虫は何だ? 見たことがない。明らかにこちらを狙って来ていたようだが」
「見たことがないのはその通りじゃろう。この辺りにはいない虫じゃ。儂と同じように虫使いが連れて来たんじゃろうな」
オレオラが言うとファブルが答える。
「虫使い。誰かに操られているの?」
「うむ、おそらくそうじゃろう。しかし、姿を見せず虫だけに対処させる。何とも用心深い奴じゃ。まあ、おかげで助かったがな。さて行くとしよう」
ファブルはそう言ってコウキの肩に乗る。
ルウシエンが抗議をしようとしたが、コウキは静かにそれを止める。
「早く行こう。ルウ姉さん」
コウキ達は外に出る。
そして、外に出た時、異変に気付く。
「えっ、なんで? なぜ?」
オズが驚く声を出す。
コウキ達が出ると耕作をしていた人達が小屋を取り囲んでいる。
その人達の目は虚ろである。
「誰かに操られているみたいね。ここに精神魔法が得意なテスがいれば良かったのだけど……」
ルウシエンは溜息を吐く。
テスはウッドエルフあり、精神魔法が得意だ。
ここにいたのなら、操られている者達を元に戻す事も簡単かもしれなかった。
「いや、精神魔法じゃ無理じゃろう。この者達は虫に操られておる。通常の精神操作を解く魔法では元に戻らんよ。エルフの嬢ちゃん達、虫が儂らに近づかんようにしてくれ」
ファブルはそう言うと何か念じる仕草をする。
すると銀色の虫達が取り囲んでいる人へと飛んでいく。
そして、次の瞬間、次々と倒れていく。
先ほどの虫達が麻痺させたようである。
「命に別状はない。しばらく麻痺していてもらおう。行こう」
ファブルの声と共にコウキ達は動き出す。
急ぎ逃げるように耕作地を後にする。
◆
コウキ達は戻るとチユキの所へと報告に行く。
もちろんオズにボーム、ルウシエン達にファブルも一緒だ。
コウキが会いたいと言うと執事はあっさりと通してくれる。
「まさか……。そんな事になっているなんてね。私達の目を欺いてそんな事するなんて只者じゃないわね。農夫達の事はこちらで何とかしてみるわ」
チユキは驚いた表情で報告を聞く。
傍目から見たら普通に農作業をしているように見えるので気付かなかったようだ。
「はい、お願いします」
コウキは頭を下げる。
「虫に操られている……。カヤさんから聞いたオーガの魔女が使った手法と似ているわね」
チユキは溜息を吐く。
「間違いなく虫使いの仕業じゃろうな。そして、虫の大量発生は何者かが裏で手を引いておるに間違いない。虫の出どころを調べれば、犯人がわかるじゃろう」
コウキの肩に乗っているファブルが補足する。
「ええと、それなんだけど……。実は犯人は捕まえているのよね」
「「「「えっ!?」」」
チユキがそう言うと全員が驚きの声を出す。
「チ、チユキ様!? 犯人が捕まったとはどういう事なのですか!?」
オズが慌てて聞く。
「大畑殿の甥であるハムレからリノさんが聞きだしたのよ。暗殺者を雇ったってね……。暗殺者は蛇の教団よ。今はナオさんがその行方を調査中。そのうち実行犯も捕まるはずよ」
チユキは説明する。
ハムレの様子がおかしいのでリノの魔法で聞き出したところ、暗殺者に依頼したことが判明したのである。
ハムレはリノの能力を知らなかったので、バレるとは思わなかったようだ。
「確かに蛇の教団も毒を使うらしいからな……。うむ、虫の毒ではないようじゃな」
ファブルは頷く。
虫の毒ではないのなら、宝石虫が原因ではない事になる。
どうやらオズの推理は外れたようだ。
「あちゃ~。僕達がやった事は無駄だったかもしれないね。でも、犯人が見つかってよかったよ。これでオズの疑いも晴れるはずだ」
ボームはそう言ってオズの肩を叩く。
ボームの言う通り、犯人が見つかったのだから、これで良かった。
「まあ、そういうわけよ。これ以上の捜査はやめなさい。後は私達がやるわ。私達の目を欺ける程の者達よ。危険すぎるわ」
チユキはそう言ってコウキ達を止める。
確かに危険であり、犯人が捕まった以上捜査を続ける理由がない。
オズの妹の疑いもなくなり、帰る事もできるだろう。
後はチユキ達に任せるべきであった。
しかし、コウキは腑に落ちなかった。
(本当に犯人が見つかったのだろうか?)
まだまだ、気になる事は沢山ある。
コウキは嫌な予感がする。
しかし、今は黙っていようと思う。
◆
チユキに報告を終え、コウキ達は事件が終わったという事で一旦解散する事にする。
オズは妹の所に行き。
ボームは自身の当主の所へと行く。
そんな中でコウキは1人、別行動を取る。
宮殿の中なので、安心しているのか今はルウシエン達も付いて来ていない。
コウキが向かっているのはゴシションの私室である。
(ゴシション先生がなぜ嘘を吐いたのか気になるんだ)
コウキはゴシションが嘘を吐いたのか気になったのだ。
単純に犯人捜しに非協力だっただけとも考えられるが、別の理由があるのかもしれない。
チユキは犯人が見つかったので、ゴシションの事をこれ以上調べるつもりはないようだ。
コウキはゴシションの部屋の前へと立つ。
ゴシションは中に入られるのを嫌がっているのか侍女達も掃除のために入る事ができない。
コウキは外からゴシションの名を呼ぶ。
返事がない。
思ったとおり留守にしているようだ。
(ごめんなさいゴシション先生)
コウキは扉に手を掛ける。
その時扉の取ってが小さく光、消えていく。
(今のは魔法の光? 扉に魔法がかかっていた?)
コウキは一瞬だけ慌てる。
扉には何かの魔法が掛けられていたようなのだ。
ゴシションは魔術師なのだから当然だろう。
(もしかして気付かれた? どうしよう……)
コウキは迷う。
だけど、ここで入らなければゴシションは今後警戒するだろう。
だから、コウキは踏み込む。
扉には鍵がかかっていない。
もしくは先程感じた魔法が鍵の代わりだったのかもしれない。
コウキは部屋の中に足を踏み入れる。
部屋の中は紙と本がいっぱいであり、いかにも魔術師の部屋という感じであった。
コウキはそのうちのいくつかを見る。
虫の挿絵が描かれているところから、虫に関する本だと推測できる。
ゴシションは独自で虫の事を調べると言っていたから、あってもおかしくはない。
(やっぱり、手掛かりなんてすぐに見つかるわけないよね……。戻ろう、そして後でゴシション先生に謝ろう)
そして、コウキが戻ろうとした時だった。
何か懐かしい感じがして部屋の中のある部分を見る。
(何だろう。この感じは……)
コウキは誘われるようにそこに近づく。
本棚の隅、その目立たない場所にそれはあった。
雑多に置かれたいくつもの物品。
その1つがどうしても気になったのだ。
それは漆黒の鎧をまとった騎士の像。
あまりにも小さくて普通にしていたら気付かなかっただろう。
「何だろうこれ……」
コウキはその像に手を伸ばす。
「それは暗黒騎士様の像だよ~。ぬふふふふ~」
突然コウキの後ろから声がする。
コウキは慌てて振り向く。
そこには仮面を被った道化師風の者が立っているのだった。
「あ、貴方がファブルさんなんですね! タッキュさんから手紙を預かっています!」
ボームは預かっていたタッキュの手紙を渡す。
「なんと! タッキュから手紙を預かっているのか! 読ませてくれぬか!」
ボームから手紙を受け取ったファブルは早速読み始める。
「うむ、何をしているのか連絡が欲しいか……。まあ、仕方がないのこれだけ留守にしていたのだからな。しかし、ここから出られぬ状態だったのだよ」
ファブルは首を振る。
「出られない理由は外の虫ですか?」
コウキが聞くとファブルは頷く
「そうじゃ、あの忌々しい虫のせいでここから動く事ができなかった……。携帯食もなくなり、空腹じゃよ」
ファブルは地面に座り込む。
「あの、携帯食なら、持ってます。どうです?」
「おお、ありがたい! お主名前は!?」
ボームから小型の携帯パンを受け取るとファブルは食べ始める。
携帯食は木の実と干果を練りこんだパンを2度焼きして堅くしたものだ。
大変堅い食べ物だが、ピュグマイオイは人間と違い歯が丈夫なのか普通に食べている。
さらにボームから水をもらうと飲み始め、あっという間に食べつくしてしまう。
よほど、お腹が空いていたようである。
「僕はボーム。そして、こちらにいる綺麗な顔をしたのがコウで恰好良いのがオズです。ええとエルフのお姉さん達は僕達の付き添いです」
ボームが説明するとファブルは怪訝そうな顔をする。
「エルフに付き添われくるとはの。う~む、お主ら只者ではないな。じゃが、どうでも良い。折角の助けなのじゃから、ここから出よう。儂の可愛い虫達もそろそろ限界だからな」
ファブルはそう言って笑う。
「虫? 限界? どういう意味?」
オズが首を傾げる。
「気が付かないかな。この小屋の全ての隙間に儂の虫達を配置して外の虫が入って来んようにしとるんじゃよ」
ファブルはそう言うと口笛を吹く。
すると銀色に輝く虫がファブルの元へとやってくる。
「虫使い? なるほど、ピュグマイオイの中には虫を使う者がいると聞いていたけど、貴方がそうなのね」
ルウシエンは虫を見て言う。
「そのとおり、儂こそがピュグマイオイで一番の虫使いにして虫博士のファブルじゃよ。どうじゃな」
ファブルは胸を張り、やって来た虫を撫でる。
虫はかなり大きくファブルの体の半分以上ある。
「うわ~。綺麗な虫だな~」
ボームはファブルが呼び出した虫に手を伸ばす。
虫は銀色で、光が当たると虹色の輝いている。
「待て! 触ってはならん!」
ファブルは突然大声を出す。
ボームは驚き手を引っ込める。
突然大声出したのでコウキ達は驚きファブルを見る。
「いや……。すまんなそいつは下手に触ると強烈な臭気を放つんじゃ。だから、手を触れてはいかん」
ファブルは説明する。
「確かにこの虫、カメムシに似てるよ。それの仲間かな?」
ピアラはファブルの虫を見て言う。
確かにピアラの言う通り甲殻の部分の美しさはかなり違っているがカメムシに似ている。
この虫も同じように臭気を放つようである。
「その通りじゃ、この小屋の隙間全てに儂の虫を配置しておる。もっとも入口に配置していたのは吹き飛ばされたようじゃがな」
ファブルは入口を見る。
小屋の入口は布が垂れ下がっているだけだ。
その外側にはピアラの作った風の守りがあり、虫は入ってこない。
当然、ファブルの虫も入口に近づけない。
「なるほど、それでこの中に虫がいないのか」
オレオラはそう言って小屋の入口を見る。
「うむ、そうじゃ。この虫は外敵から身を守るために臭気を発する。近くで吸うと麻痺してしまうかもしれん」
「そ、そうなんだ。こんなに綺麗なのに……」
青ざめた表情となったボームが言う。
「ははは、まあ怒らせなければ無害じゃよ。ナルゴルに生息している宝石虫は猛毒を発するらしいが、それに比べたら可愛いものじゃよ」
「宝石虫ですか?」
コウキは宝石虫という単語が気になり聞く。
「うむ、世界でもっとも美しいとされる虫じゃ。手足を引っ込めていると普通の宝石と間違う程にな。儂の可愛い虫と同じで普段は無害じゃが、怒らせると怖い。間違っても虫除け香が充満している部屋に入れてはならんぞ。怒って猛毒を出すじゃろうからな」
ファブルはそう言って笑う。
「宝石虫……。猛毒……」
オズは何か思い出したのか呟く。
「どうしたの、オズ?」
「ああ、ちょっと気になる事を思い出したんだ。最近お爺様が珍しい宝石が付いた首飾りをしているのをね……」
コウキが聞くとオズが答える。
「もしかして、その宝石が虫かもしれないって事?」
ボームは驚いて聞く。
「いや、ただの推測だよ……。でも、今の話を聞いてなぜかあの首飾りが気になったんだ」
オズはそう言って首を振る。
「一応、チユキ様に報告してみようよ、オズ。チユキ様なら調べられるはずだよ」
毒されたとき、大畑が身に着けていた衣服や装飾品は証拠品としてオーディス神殿が預かっている。
勇者達が預かっていないのは基本的に捜査をするのは配下の者達であり、勇者達ではないからだ。
ただ、勇者達の配下も重要すぎる証拠品を保管する事になれていない。
そこで、仕方なくオーディス神殿が預かっているのである。
オーディス神殿は有料で遺言書等を保管するための倉庫を持っている。そこに首飾りがあるはずであった。
「そうだね、まずは戻ろうか、ファブルさんにも会えた事だしね」
オズがそう言うとコウキとボームは頷く。
「そうですね、いい加減、ここから出ましょう。ここには花がないですから。ピアラ。出来ますね」
「はいな。姫様。あれぐらいの虫なら何匹来ても防げるよ」
ピアラは笑って言う。
「それにしても、あの虫は何だ? 見たことがない。明らかにこちらを狙って来ていたようだが」
「見たことがないのはその通りじゃろう。この辺りにはいない虫じゃ。儂と同じように虫使いが連れて来たんじゃろうな」
オレオラが言うとファブルが答える。
「虫使い。誰かに操られているの?」
「うむ、おそらくそうじゃろう。しかし、姿を見せず虫だけに対処させる。何とも用心深い奴じゃ。まあ、おかげで助かったがな。さて行くとしよう」
ファブルはそう言ってコウキの肩に乗る。
ルウシエンが抗議をしようとしたが、コウキは静かにそれを止める。
「早く行こう。ルウ姉さん」
コウキ達は外に出る。
そして、外に出た時、異変に気付く。
「えっ、なんで? なぜ?」
オズが驚く声を出す。
コウキ達が出ると耕作をしていた人達が小屋を取り囲んでいる。
その人達の目は虚ろである。
「誰かに操られているみたいね。ここに精神魔法が得意なテスがいれば良かったのだけど……」
ルウシエンは溜息を吐く。
テスはウッドエルフあり、精神魔法が得意だ。
ここにいたのなら、操られている者達を元に戻す事も簡単かもしれなかった。
「いや、精神魔法じゃ無理じゃろう。この者達は虫に操られておる。通常の精神操作を解く魔法では元に戻らんよ。エルフの嬢ちゃん達、虫が儂らに近づかんようにしてくれ」
ファブルはそう言うと何か念じる仕草をする。
すると銀色の虫達が取り囲んでいる人へと飛んでいく。
そして、次の瞬間、次々と倒れていく。
先ほどの虫達が麻痺させたようである。
「命に別状はない。しばらく麻痺していてもらおう。行こう」
ファブルの声と共にコウキ達は動き出す。
急ぎ逃げるように耕作地を後にする。
◆
コウキ達は戻るとチユキの所へと報告に行く。
もちろんオズにボーム、ルウシエン達にファブルも一緒だ。
コウキが会いたいと言うと執事はあっさりと通してくれる。
「まさか……。そんな事になっているなんてね。私達の目を欺いてそんな事するなんて只者じゃないわね。農夫達の事はこちらで何とかしてみるわ」
チユキは驚いた表情で報告を聞く。
傍目から見たら普通に農作業をしているように見えるので気付かなかったようだ。
「はい、お願いします」
コウキは頭を下げる。
「虫に操られている……。カヤさんから聞いたオーガの魔女が使った手法と似ているわね」
チユキは溜息を吐く。
「間違いなく虫使いの仕業じゃろうな。そして、虫の大量発生は何者かが裏で手を引いておるに間違いない。虫の出どころを調べれば、犯人がわかるじゃろう」
コウキの肩に乗っているファブルが補足する。
「ええと、それなんだけど……。実は犯人は捕まえているのよね」
「「「「えっ!?」」」
チユキがそう言うと全員が驚きの声を出す。
「チ、チユキ様!? 犯人が捕まったとはどういう事なのですか!?」
オズが慌てて聞く。
「大畑殿の甥であるハムレからリノさんが聞きだしたのよ。暗殺者を雇ったってね……。暗殺者は蛇の教団よ。今はナオさんがその行方を調査中。そのうち実行犯も捕まるはずよ」
チユキは説明する。
ハムレの様子がおかしいのでリノの魔法で聞き出したところ、暗殺者に依頼したことが判明したのである。
ハムレはリノの能力を知らなかったので、バレるとは思わなかったようだ。
「確かに蛇の教団も毒を使うらしいからな……。うむ、虫の毒ではないようじゃな」
ファブルは頷く。
虫の毒ではないのなら、宝石虫が原因ではない事になる。
どうやらオズの推理は外れたようだ。
「あちゃ~。僕達がやった事は無駄だったかもしれないね。でも、犯人が見つかってよかったよ。これでオズの疑いも晴れるはずだ」
ボームはそう言ってオズの肩を叩く。
ボームの言う通り、犯人が見つかったのだから、これで良かった。
「まあ、そういうわけよ。これ以上の捜査はやめなさい。後は私達がやるわ。私達の目を欺ける程の者達よ。危険すぎるわ」
チユキはそう言ってコウキ達を止める。
確かに危険であり、犯人が捕まった以上捜査を続ける理由がない。
オズの妹の疑いもなくなり、帰る事もできるだろう。
後はチユキ達に任せるべきであった。
しかし、コウキは腑に落ちなかった。
(本当に犯人が見つかったのだろうか?)
まだまだ、気になる事は沢山ある。
コウキは嫌な予感がする。
しかし、今は黙っていようと思う。
◆
チユキに報告を終え、コウキ達は事件が終わったという事で一旦解散する事にする。
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そんな中でコウキは1人、別行動を取る。
宮殿の中なので、安心しているのか今はルウシエン達も付いて来ていない。
コウキが向かっているのはゴシションの私室である。
(ゴシション先生がなぜ嘘を吐いたのか気になるんだ)
コウキはゴシションが嘘を吐いたのか気になったのだ。
単純に犯人捜しに非協力だっただけとも考えられるが、別の理由があるのかもしれない。
チユキは犯人が見つかったので、ゴシションの事をこれ以上調べるつもりはないようだ。
コウキはゴシションの部屋の前へと立つ。
ゴシションは中に入られるのを嫌がっているのか侍女達も掃除のために入る事ができない。
コウキは外からゴシションの名を呼ぶ。
返事がない。
思ったとおり留守にしているようだ。
(ごめんなさいゴシション先生)
コウキは扉に手を掛ける。
その時扉の取ってが小さく光、消えていく。
(今のは魔法の光? 扉に魔法がかかっていた?)
コウキは一瞬だけ慌てる。
扉には何かの魔法が掛けられていたようなのだ。
ゴシションは魔術師なのだから当然だろう。
(もしかして気付かれた? どうしよう……)
コウキは迷う。
だけど、ここで入らなければゴシションは今後警戒するだろう。
だから、コウキは踏み込む。
扉には鍵がかかっていない。
もしくは先程感じた魔法が鍵の代わりだったのかもしれない。
コウキは部屋の中に足を踏み入れる。
部屋の中は紙と本がいっぱいであり、いかにも魔術師の部屋という感じであった。
コウキはそのうちのいくつかを見る。
虫の挿絵が描かれているところから、虫に関する本だと推測できる。
ゴシションは独自で虫の事を調べると言っていたから、あってもおかしくはない。
(やっぱり、手掛かりなんてすぐに見つかるわけないよね……。戻ろう、そして後でゴシション先生に謝ろう)
そして、コウキが戻ろうとした時だった。
何か懐かしい感じがして部屋の中のある部分を見る。
(何だろう。この感じは……)
コウキは誘われるようにそこに近づく。
本棚の隅、その目立たない場所にそれはあった。
雑多に置かれたいくつもの物品。
その1つがどうしても気になったのだ。
それは漆黒の鎧をまとった騎士の像。
あまりにも小さくて普通にしていたら気付かなかっただろう。
「何だろうこれ……」
コウキはその像に手を伸ばす。
「それは暗黒騎士様の像だよ~。ぬふふふふ~」
突然コウキの後ろから声がする。
コウキは慌てて振り向く。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
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