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第12章 勇者の王国
第4話 エルドの闇
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夕方になり、チユキはエルドへと帰って来る。
シロネは黄金の夜明け団の戦士達に呼び止められたので、一緒ではない。
夕飯まで時間があるので広間でくつろぐ事にする。
そこにはサホコガ先にいてくつろいでいて、2人は仲間が戻ってくるまで少し話す事にする。
「へえ、コウキ君が大畑の家に招待されたの……」
「うん、そうなのチユキさん。お友達の家に招待されて、断るのは悪いでしょ。だから、行って良いよって言ってあげたの」
サホコはそう言って笑う。
本心から言っているなとチユキは思う。
レイジが関わらない場合、サホコは人の悪意に気付かない。
ここは日本ではないのだ。
魔物も多く、人間の住める場所も限られている。
人々は協力する事もあれば、住める場所を巡って争う事もある。
大人の争いに子ども達も無関係ではいられず、無邪気に遊べる環境ではないのである。
チユキはオズロスという子が他の氏族に属する子を何の裏もなく誘うとは思えなかった。
基本的に氏族に属する子が集まる事があっても、他氏族の子を誘う事はまずないのである。
おそらく、当主である大畑の意向があるはずだ。
チユキはそのため、不安になる。
(やっぱりコウキ君かな? それとも他に理由が?)
チユキは考えるが、わかるわけがなかった。
「やっぱり、コウキ君が心配?」
サホコが首を傾げて聞いてくる。
どうやら顔に出ていたようだ。
「うん、まあ。一応私が預かっている子だしね。色々と将来有望そうだし」
チユキはコウキの事を考える。
サホコが1人でいるところを見ると、コウキは今サーナの相手をしてあげているのだろう。
嫌な顔をせず遊んであげる良い子である。
サーナもかなり懐いているようだ。
それに他にも色々と成長が楽しみなところがあった。
「へえ、将来有望すか?」
突然横から声を掛けられる。
「えっ、ナオさん? いつの間に?」
「嘘? 全然気づかなかった」
チユキとサホコは驚く。
いつの間にか広間にナオがいてくつろいでいる。
気配を消して入って来たようだ。
「来たのはついさっきっすよ。コウキ君の話になっていたから聞いていたっすよ。確かに将来有望そうっすねえ」
ナオは含みがある口調で言う。
すでに自身の御茶を用意して飲んでいる。
先程来たばかりではないだろう。
「もう、何よ、ナオさん。その言い方は特に普通に接しているわよ……。勉強とか見てあげてるし」
チユキとしては普通にコウキに接しているつもりだ。
しかし、ナオはそう見ていないようなのでチユキは納得がいかなかったりする。
「それより、どうだったの? 虫の発生原因はわかった?」
チユキは話題を変えるように言う。
実は定期的に身体検査をしているのを問われたくはなかったりする。
「う~ん、あんまり収穫はなかったっすね……」
ナオは困ったように言う。
ナオは虫の大量発生に疑問を感じ、独自に調査をしていたのである。
「ナオさんでもわからないなんて、しばらく虫除け香が必要ね。カヤさんに頼んでおかないと」
サホコは困ったように言う。
「そうね。民衆でも、必要になっているわ。魔術師達や薬師達に頼んでいるけど、原材料が足りないわね。商人達には頑張ってもらわないと」
原材料は特に珍しいものではない。
交易商人達はすでに動いているはずであった。
「そういえば、さっきの貴族の話で思い出したっすけど、虫の発生場所は開拓地みたいっすよ」
「干拓地で? 意外じゃないわね……。元々虫が発生しやすそうだし」
少し驚いた後、チユキは訂正する。
元々開拓地は湿地を干拓した場所だ。
虫が発生しやすい環境にあったと考えるべきだ。
「干拓地って事はさっき話をしてた、大畑さんの所かな? 収穫は大丈夫かしら?」
サホコは心配そうに言う。
干拓地の6割が大畑の耕作地である。
本当は大畑の影響を排除したかったのだが、うまくいかなかった。
実は裏で大畑は自身の氏族の勢力を拡大するために他の氏族に圧力をかけていた疑いがある。
チユキとしては今後どうしたら良いか悩みどころである。
「発生場所は全体っすから、大畑の所だけじゃないっすね」
「そう、大畑の所以外が発生源だったら、彼を疑うところなのだけど……」
チユキはそう言って眉を顰める。
大畑の配下には魔術師もいる。虫を発生させるのは不可能ではない。
「はあ、チユキさん。それはさすがに考えすぎっすよ。カヤさんも言っていたっすけど、大畑とか気にする必要はないっすよ」
ナオは笑いながら言う。
実は大畑の勢力拡大を気にしているのはチユキだけだ。
レイジやサホコにリノ、シロネは全く気にしていない。
キョウカもカヤの言う事を信じるから気にしないだろう。
そして、ナオも同じのようだ。
「そうだと良いのだけど……」
チユキは溜息を吐く。
「戻ったぞ。みんな」
「ただいま~。みんな~」
そんな時だったレイジとリノが戻ってくる。
「おかえりなさい。レイ君」
正妻ともいえるサホコがレイジのマントを受け取りにいく。
この2人は相変わらずだ。
「どうしたのチユキさん? また、怖い顔。もっと、楽しまないとダメだよ~」
リノは笑うとチユキに側に行く。
リノは何だかんだとチユキの事を心配してくれているようだ。
「もう、リノさん。まあ、それもそうね。楽しまないといけないわね。今日の夕食は何かしら?」
チユキは大畑や虫の事を頭から消す。
今は考えても仕方がない。
楽しい事を考える事にするのだった。
◆
夜の闇がエルドを包む。
多くの者は城壁の中へと戻り、寝る時間である。
灯りは貴重であり、節約するためにも、人々は早く眠るのが鉄則だ。
以前は城壁がなかったが、防衛のため、エルドの街にも城壁が作られる事になった。
だが、全ての人が城壁の中に住む事はできない。
勇者達は2つ目の城壁を作る事を計画しているが、それが出来るのはまだ先だろう。
そのため、城壁外にいる人々は安心して眠る事が出来る者はいない。
この城壁外に住む人々は当然どこの国の市民権も持っていない人々であり、勇者の名声を頼り、エルドならば市民権を得られるのではないかと期待して来たのである。
彼らは市民権が得られる日を期待して今日を生きるのであった。
夜の城壁外は魔物だけでなく、人間も警戒しなければならない。
治安は悪く、それぞれの住処で朝が来るのを待つのだった。
そんな城壁外を1人の人影が歩く。
背が高い男だ。高級そうな衣服を着ている所からかなりの身なりのようである。
「この感じは久しぶりですね。さて、いい加減出てきたらどうです」
男が言うと、複数の人影が物陰から出てくる。
物陰から出て来た者達は全員覆面をしていて、男を取り囲むと武器を取り出す。
「気付いていたのか? だが、逃げるつもりもないようだな? どういうつもりだ?」
取り囲んでいる者の1人が首を傾げる。
この者が指揮者だと男は判断する。
「どういうつもりだ? それはこちらが言いたい事ですよ。勝手に後を付けて来て。取り囲まれているのですから」
男は不敵に笑う。
「ふん、貴族が共も連れず。城壁外に出てきたら不思議に思うのは当然だろう。何をしているのか気になるじゃねえか? 岩中様よお」
取り囲む指揮者が言うと男、岩中はやっぱりかと思う。
取り囲んでいる者達はたまたま岩中を見つけて襲いかかろうとしているのではない。
最初から狙って来ていたのだ。
「私を岩中だと知っている? まあ、当然でしょうね。ずっと私の屋敷を見張っていたのですから。大畑の手の者よ」
岩中はそう言って取り囲む男達を見る。
彼らはずっと岩中を探っていた者達だ。
それを命じたのは大貴族である大畑はずである。
(私がそんなに目障りですか? まあ、奴の不利益になるように動いて来ましたからね。それにしてもこんな直接的な方法を選ぶとはわかりやすい)
岩中はわざと襲われやすいように城壁外に出て来たのだ。
ここなら、誰に襲われても不思議に思われない。
貴族を殺せば大きな罪だが、遠くに逃げれば追ってはこないだろうし、高い報酬がもらえるのならば、危ない橋を渡るぐらいはするだろう。
「大畑? 誰だ、それは? 俺はお前達を見張り、機会があれば殺せと依頼されただけだぜ」
指揮者の男は言う。
(なるほど、用心深い事だ。しかし、それでも、お粗末だな。喋りすぎだぞ)
岩中は剣を抜く。
愚かな事だ。
この程度の相手なら怖くはない。
(偉大なる方よ。貴方の下僕が戦います。どうか力を)
岩中は剣を掲げ、取り囲む者達に挑む。
数秒後、数名の死体が城壁外へと横たわる。
朝になれば発見されるだろう。
しかし、誰も気にしないに違いない。
いかに勇者とて、エルドに住む全ての人の生き死にを見張る事は出来ない。
光の勇者の都であっても、影は必ずある。
影で誰かが泣き、勇者の知らない所で死んでいく。
◆
翌朝になり、大畑は岩中を見張らせていた者達が行方不明になった事を知り、歯噛みする。
勇者達の知らぬ所で争いが起きているのであった。
シロネは黄金の夜明け団の戦士達に呼び止められたので、一緒ではない。
夕飯まで時間があるので広間でくつろぐ事にする。
そこにはサホコガ先にいてくつろいでいて、2人は仲間が戻ってくるまで少し話す事にする。
「へえ、コウキ君が大畑の家に招待されたの……」
「うん、そうなのチユキさん。お友達の家に招待されて、断るのは悪いでしょ。だから、行って良いよって言ってあげたの」
サホコはそう言って笑う。
本心から言っているなとチユキは思う。
レイジが関わらない場合、サホコは人の悪意に気付かない。
ここは日本ではないのだ。
魔物も多く、人間の住める場所も限られている。
人々は協力する事もあれば、住める場所を巡って争う事もある。
大人の争いに子ども達も無関係ではいられず、無邪気に遊べる環境ではないのである。
チユキはオズロスという子が他の氏族に属する子を何の裏もなく誘うとは思えなかった。
基本的に氏族に属する子が集まる事があっても、他氏族の子を誘う事はまずないのである。
おそらく、当主である大畑の意向があるはずだ。
チユキはそのため、不安になる。
(やっぱりコウキ君かな? それとも他に理由が?)
チユキは考えるが、わかるわけがなかった。
「やっぱり、コウキ君が心配?」
サホコが首を傾げて聞いてくる。
どうやら顔に出ていたようだ。
「うん、まあ。一応私が預かっている子だしね。色々と将来有望そうだし」
チユキはコウキの事を考える。
サホコが1人でいるところを見ると、コウキは今サーナの相手をしてあげているのだろう。
嫌な顔をせず遊んであげる良い子である。
サーナもかなり懐いているようだ。
それに他にも色々と成長が楽しみなところがあった。
「へえ、将来有望すか?」
突然横から声を掛けられる。
「えっ、ナオさん? いつの間に?」
「嘘? 全然気づかなかった」
チユキとサホコは驚く。
いつの間にか広間にナオがいてくつろいでいる。
気配を消して入って来たようだ。
「来たのはついさっきっすよ。コウキ君の話になっていたから聞いていたっすよ。確かに将来有望そうっすねえ」
ナオは含みがある口調で言う。
すでに自身の御茶を用意して飲んでいる。
先程来たばかりではないだろう。
「もう、何よ、ナオさん。その言い方は特に普通に接しているわよ……。勉強とか見てあげてるし」
チユキとしては普通にコウキに接しているつもりだ。
しかし、ナオはそう見ていないようなのでチユキは納得がいかなかったりする。
「それより、どうだったの? 虫の発生原因はわかった?」
チユキは話題を変えるように言う。
実は定期的に身体検査をしているのを問われたくはなかったりする。
「う~ん、あんまり収穫はなかったっすね……」
ナオは困ったように言う。
ナオは虫の大量発生に疑問を感じ、独自に調査をしていたのである。
「ナオさんでもわからないなんて、しばらく虫除け香が必要ね。カヤさんに頼んでおかないと」
サホコは困ったように言う。
「そうね。民衆でも、必要になっているわ。魔術師達や薬師達に頼んでいるけど、原材料が足りないわね。商人達には頑張ってもらわないと」
原材料は特に珍しいものではない。
交易商人達はすでに動いているはずであった。
「そういえば、さっきの貴族の話で思い出したっすけど、虫の発生場所は開拓地みたいっすよ」
「干拓地で? 意外じゃないわね……。元々虫が発生しやすそうだし」
少し驚いた後、チユキは訂正する。
元々開拓地は湿地を干拓した場所だ。
虫が発生しやすい環境にあったと考えるべきだ。
「干拓地って事はさっき話をしてた、大畑さんの所かな? 収穫は大丈夫かしら?」
サホコは心配そうに言う。
干拓地の6割が大畑の耕作地である。
本当は大畑の影響を排除したかったのだが、うまくいかなかった。
実は裏で大畑は自身の氏族の勢力を拡大するために他の氏族に圧力をかけていた疑いがある。
チユキとしては今後どうしたら良いか悩みどころである。
「発生場所は全体っすから、大畑の所だけじゃないっすね」
「そう、大畑の所以外が発生源だったら、彼を疑うところなのだけど……」
チユキはそう言って眉を顰める。
大畑の配下には魔術師もいる。虫を発生させるのは不可能ではない。
「はあ、チユキさん。それはさすがに考えすぎっすよ。カヤさんも言っていたっすけど、大畑とか気にする必要はないっすよ」
ナオは笑いながら言う。
実は大畑の勢力拡大を気にしているのはチユキだけだ。
レイジやサホコにリノ、シロネは全く気にしていない。
キョウカもカヤの言う事を信じるから気にしないだろう。
そして、ナオも同じのようだ。
「そうだと良いのだけど……」
チユキは溜息を吐く。
「戻ったぞ。みんな」
「ただいま~。みんな~」
そんな時だったレイジとリノが戻ってくる。
「おかえりなさい。レイ君」
正妻ともいえるサホコがレイジのマントを受け取りにいく。
この2人は相変わらずだ。
「どうしたのチユキさん? また、怖い顔。もっと、楽しまないとダメだよ~」
リノは笑うとチユキに側に行く。
リノは何だかんだとチユキの事を心配してくれているようだ。
「もう、リノさん。まあ、それもそうね。楽しまないといけないわね。今日の夕食は何かしら?」
チユキは大畑や虫の事を頭から消す。
今は考えても仕方がない。
楽しい事を考える事にするのだった。
◆
夜の闇がエルドを包む。
多くの者は城壁の中へと戻り、寝る時間である。
灯りは貴重であり、節約するためにも、人々は早く眠るのが鉄則だ。
以前は城壁がなかったが、防衛のため、エルドの街にも城壁が作られる事になった。
だが、全ての人が城壁の中に住む事はできない。
勇者達は2つ目の城壁を作る事を計画しているが、それが出来るのはまだ先だろう。
そのため、城壁外にいる人々は安心して眠る事が出来る者はいない。
この城壁外に住む人々は当然どこの国の市民権も持っていない人々であり、勇者の名声を頼り、エルドならば市民権を得られるのではないかと期待して来たのである。
彼らは市民権が得られる日を期待して今日を生きるのであった。
夜の城壁外は魔物だけでなく、人間も警戒しなければならない。
治安は悪く、それぞれの住処で朝が来るのを待つのだった。
そんな城壁外を1人の人影が歩く。
背が高い男だ。高級そうな衣服を着ている所からかなりの身なりのようである。
「この感じは久しぶりですね。さて、いい加減出てきたらどうです」
男が言うと、複数の人影が物陰から出てくる。
物陰から出て来た者達は全員覆面をしていて、男を取り囲むと武器を取り出す。
「気付いていたのか? だが、逃げるつもりもないようだな? どういうつもりだ?」
取り囲んでいる者の1人が首を傾げる。
この者が指揮者だと男は判断する。
「どういうつもりだ? それはこちらが言いたい事ですよ。勝手に後を付けて来て。取り囲まれているのですから」
男は不敵に笑う。
「ふん、貴族が共も連れず。城壁外に出てきたら不思議に思うのは当然だろう。何をしているのか気になるじゃねえか? 岩中様よお」
取り囲む指揮者が言うと男、岩中はやっぱりかと思う。
取り囲んでいる者達はたまたま岩中を見つけて襲いかかろうとしているのではない。
最初から狙って来ていたのだ。
「私を岩中だと知っている? まあ、当然でしょうね。ずっと私の屋敷を見張っていたのですから。大畑の手の者よ」
岩中はそう言って取り囲む男達を見る。
彼らはずっと岩中を探っていた者達だ。
それを命じたのは大貴族である大畑はずである。
(私がそんなに目障りですか? まあ、奴の不利益になるように動いて来ましたからね。それにしてもこんな直接的な方法を選ぶとはわかりやすい)
岩中はわざと襲われやすいように城壁外に出て来たのだ。
ここなら、誰に襲われても不思議に思われない。
貴族を殺せば大きな罪だが、遠くに逃げれば追ってはこないだろうし、高い報酬がもらえるのならば、危ない橋を渡るぐらいはするだろう。
「大畑? 誰だ、それは? 俺はお前達を見張り、機会があれば殺せと依頼されただけだぜ」
指揮者の男は言う。
(なるほど、用心深い事だ。しかし、それでも、お粗末だな。喋りすぎだぞ)
岩中は剣を抜く。
愚かな事だ。
この程度の相手なら怖くはない。
(偉大なる方よ。貴方の下僕が戦います。どうか力を)
岩中は剣を掲げ、取り囲む者達に挑む。
数秒後、数名の死体が城壁外へと横たわる。
朝になれば発見されるだろう。
しかし、誰も気にしないに違いない。
いかに勇者とて、エルドに住む全ての人の生き死にを見張る事は出来ない。
光の勇者の都であっても、影は必ずある。
影で誰かが泣き、勇者の知らない所で死んでいく。
◆
翌朝になり、大畑は岩中を見張らせていた者達が行方不明になった事を知り、歯噛みする。
勇者達の知らぬ所で争いが起きているのであった。
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