暗黒騎士物語

根崎タケル

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第12章 勇者の王国

第1話 エルドからの訪問者

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 魔王の支配するナルゴルの地、その境界であるアケロン山脈の南にその森は広がっている。
 通称蒼の森と呼ばれるその森は木々が青々と茂り、多くの生き物が住んでいる。
 その生き物の中には凶悪な魔物も含まれていて、森の近くにある国々の脅威となっていた。
 特に脅威となっていたのは蒼の森に住むクジグというオーガの魔女である。
 蒼の森の女王とも呼ばれる魔女クジグは御菓子の城に住み、甘い匂いで人間を誘い入れては喰っていた。
 しかし、最近になって蒼の森の様子は変わった。
 クジグという魔女が消え、白銀の魔女が現れたのだ。
 白銀の魔女は蒼の森の1部を作り替えてより危険な魔の森へと変えた。
 蒼の森に隣接する周辺の諸国の中でもっとも大きな国であるヴェロス王国は危機感を感じ、調査隊を送った。
 もっとも、その調査は失敗に終わり、調査隊は何もできずその多くの者達は撤退するしかなかった。
 ただし、その中の1部の者は踏みとどまり魔の森の近くで監視を続けている。
 監視している場所は何名かの人が出入りするうちに小さな集落となり、そして集落はさらに大きくなり、小さな国のようになった。
 国の名はクロキア。
 クロキアはまだ国としては未熟であり、はっきりとした市民はいないので人口は不明である。
 まだ、発展途上であるが、これまで森を迂回しなければならなかったが、クロキアが出来た事で中継地ができて、森の中を突っ切って進む事が可能になったので、魔物に滅ぼされなければしっかりとした国となるだろう。
 クロキアと名付けたのは元商人エチゴスであり、この国の王とも呼べる者である。
 エチゴスはクロキアの中心部に大きな館を構え、王のごとく振舞っている。
 ただし、それは表向きの話だ。
 真の統治者は別にいて、影に隠れている。



 クロキアの中心部にあるエチゴスの館の地下、そこは数多くの人形が置かれている部屋がある。
 人形の多くは可愛らしいものが多いが、中には不気味なものもある。
 そんな人形達の中心の大きな椅子に一名の少女が座っている。
 少女の肌は白く、銀色の髪を持ちとても美しく、見る者を魅了する。
 少女の名はクーナ。
 白銀の魔女と呼ばれ、このクロキアの真の支配者であった。
 そのクーナの目の前にある人物が平伏している。
 平伏している者はクロキアのはるか南、光の勇者とその仲間達が統治するエルドと呼ばれる国か来たと言う。
 ここに来たのはフェルトンの紹介だ。
 だとしてもクーナが相手にする必要はない。
 無視をしても良かった。
 しかし、クロキはポレンと共にセアードの内海に行って不在であり、退屈だったので暇つぶしに相手をしてやることにしたのだ。 
 
「それで、その者に復讐したいというのか?」
「はい……」

 クーナが問うと平伏している者は顔を上げずに返事をする。
 
「なるほど。しかし、その者は貴族であり、勇者の保護下にあるので手が出せない……。それでクロキの助けを得たいという事か?」
「はい、あの勇者に勝った暗黒騎士様の御力をどうか!」

 そう言って平伏していた者が顔を上げ、すがるような目をクーナに向ける。

「ふん、残念だが今クロキはいないぞ。セアードの内海とかいう所に行っている。だが、いたとしても、なぜお前ごときの復讐なんぞにクロキが手を貸すのだ? 身の程を知れ」

 しかし、それに対してクーナは冷ややかに言う。
 クーナは知っている。
 クロキは他者の復讐に手を貸したりなぞしない。
 基本的に今ある者を守るために剣を取るのだ。
 だから、この者の頼みを聞く事はない。
 平伏していた者は項垂れる。

「だが、あの勇者共に一泡吹かせるのは面白いぞ。そのお前の復讐、クーナが手伝ってやろう」

 クーナはそう言ってにんまりと笑う。
 
「ああ、それでは……」

 平伏していた者が再び顔を上げ、嬉しそうな声を出す。

「だが、お前に待っているのは破滅だぞ。勇者共を敵に回すのだからな。その時クーナはお前を助けない。それでも良いな?」
「はい、構いません。あの者に苦しみを与えられるのなら……」

 顔を上げていた者は床に額をこすりつける。

「そうか、良い返事だぞ。ならばあれをやろう。上手くやれ」

 クーナはそれを見て楽しそうに言うのだった。
 



 エルドからの来訪者が去り、部屋にはクーナとその側近が残される。
 クーナの側近は多いが今この場にいるのは3名である。
 仮面を被った道化師。
 悪戯者の闇小妖精ダークフェアリーティベル。
 人形の身体を与えられた少女の幽霊ゴースト、人形姫アンジュ。
 特にアンジュを除く2名は常にクーナの側にいる事が多い。

「良いのですかあ~? クーナ様あ~? えへへクロキ様に内緒で~」

 クーナの側いる道化が楽しそうに聞く。

「ふん、ちょっとした暇つぶしだぞ。クロキに言う事でもない」

 クーナは先程まで平伏していた者がいた場所を見て言う。
 ちょっとした戯れであり、大した事ではない。
 
「そうですう~。あんな下等な者の頼みを聞くなんて、クーナ様は優しい御方なのです~。知ったらクロキ様はますますクーナ様に愛されるですよう」

 道化と同じように側いる闇小妖精ダークフェアリーティベルは踊りながら飛ぶ。

「確かにそれもそうだねえ。いひひひ。でも上手く行きますかねえ。勇者の仲間には感の良いのがいますからねえ~」
「かまわんぞ。どうせ戯れだ。成功すれば面白く、失敗してもどうという事はないし、助ける事もしないぞ。まあ、誰かに様子を見に行かせるぐらいはするがな」

 クーナは首を振る。
 クーナにとってこの一件はただの戯れだ。
 失敗しても、別に良いと思っている。
 あの者がどうなろうとクーナにとっては痛くも痒くもないのだ。

「さて、そろそろ戻らねばならないぞ。この夢の身体では活動は長くできん」

 クーナは自身の身体を見る。
 今の身体はクーナの夢が固まってできた仮初のものだ。
 本当の身体は安静にしなければならないので御菓子の城で眠っている。
 夢の身体には慣れていないので、長時間活動ができないのだ。

「はあ……。良いのかなあ……。どうしよう、ジュシオ」

 クーナから少し離れた場所、部屋の隅で人形姫アンジュはここにはいない弟のジュシオに助けを求める。
 平然としているクーナと道化とティベルに対して、人形姫のアンジュは不安であった。
 元々この部屋はアンジュの部屋である。
 急な来訪者のためにクーナを迎え入れねばならなかった。
 しかし、アンジュはクーナに恩がある。
 幽霊の姿のままではその存在は消えやすい。 
 特殊な人形の身体を貰った事で、ある程度陽光の下でも活動できるようになったのである。
 クーナが何をしようと異を唱える事はできない。
 来訪者がここからエルドに戻るまでには数か月かかるだろう。
 そして、戻ったら行動をするに違いない。
 勇者が治める地で新たな事件が起ころうとしていた。

 
 
 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 今回はプロローグです。
 久しぶりのクーナの登場。
 時間軸で言うと第10章になります
 実はエルドからクロキアまでかなり遠く、普通の人間なら、移動も大変です。
 来訪者が辿り着き、クーナに出会えたのはかなり運が良かったりします。
 外伝では登場していますが、クロキアの街を出しました。
 人形の身体を貰ったアンジュも登場です。

 来訪者をぼかしたのは謎解き要素があるからだったりします。映像だったらコ〇ンに出てくる黒タイツみたいな描かれ方になるでしょう。
 でも、推理小説を書いた事がないのですぐにバレそうです。

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