暗黒騎士物語

根崎タケル

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第11章 魔術の学院

第26話 万死の女王ラーサ

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 チユキとキョウカは書庫の中を下へと降りる。
 ダンタリアスの情報ではもうすぐ目的地にたどり着くはずだ。

「もうすぐよ、キョウカさん! 油断しないで!」
「わかっていますわ、チユキさん! わたくしの魔法で塵に変えてあげますわ!」

  先走り気味のキョウカにチユキは頭を抱えそうになった。 
 この先にいる敵も正面から戦って勝てる相手とは限らない。 
 チユキが立てたのは相手の妨害をして時間を稼ぎ、クロキが来るのを待つ作戦だ。
 しかし、キョウカの様子では正面から突撃しかねない。

「あのねえ! キョウカさん! 私たちは時間かせ……!」

 チユキが時間稼ぎと言いかけた時だった。
 先行させていた自身の幻影が攻撃を受けて消える。
 
「なんですの!?」

 慌ててチユキとキョウカは止まる。
 通路の出口、奥に見えるのは円形の広い空間である。
 その空間、その部屋の中央には巨大な水晶球があり、光輝いている。
 その側にいるのはダンタリアスが映像で見せた2名の女性らしき者。
 水晶球に手を置いている者と髑髏を持ちチユキ達の方を向いて者。

「不意をついたつもりだったが、さすがに上手くいきませんねえ。どうします母上」

 こちらを向いている者の髑髏が喋る。
 先ほど攻撃してきたのはこの髑髏を持つ者らしい。
 髑髏を持つ者はフードを被った女性だ。
 その女性に表情はなく、喋っているのも手に持つ髑髏である。

(おそらく、髑髏が本体ね……。手に持つ女性の方に意思はなさそう)

 チユキは髑髏を持つ女性の正体を看破する。
 女性は何者かわからない。
 かなりの魔力を持った者のようだ。
 しかし、そのために髑髏に狙われたのかもしれない。

「ええい! どうもこうもないわい! ザース! あともうちょっとじゃったというのに! ザガートを倒して来た者じゃ! どうしようもあるまい!」

 水晶に手を置いておいた者が振り返りこちらを見る。
 髑髏を持つ女性よりも若い。外見だけならチユキ達と同年代に見えるが、おそらくかなり長い年月を生きていそうであった。
 振り返ったその少女の腕は黒い鳥の翼になっていて広げると羽が飛び散る。
 ハーピーに似ているが雰囲気が少し違う。
 どちらかといえば梟の翼をもつストリゲスに似ていた。

「母上。ザガートの気配は消えていません。おそらく、何らかの方法ですり抜けてきたのでしょう」

 髑髏が喋る。
 
「そうか、ザガートは敗れておらぬか、ふむ……」

 腕が翼の少女がチユキ達を見る。
 その金色の瞳が光る。
 睨まれてチユキ達は身震いする。
 何らかの魔眼を持っているのかもしれない。

「違うな……。お主達は強いが、妾の感じた不安ではない。ザガートにここに来るように伝えよ。小娘2匹ごとき怖れるにたらぬ! 万死の母たるこのラーサが暗黒の大母の元に送ってやろうぞ!」

 ラーサと名乗った少女が翼を広げる。

「何を言ってますの! そちらの方がわたくし達よりも背が低いし胸も小さいですわ! 小娘はそちらですわよ!」

 キョウカはそう言って鞭を構える。

「ちょっと、キョウカさん……。何を言っているのよ」

 チユキは頭が痛くなる。

「うるさいわい! 今はこんなちんちくりんじゃが! 本来の妾は豊満な肉体じゃぞ! 力を取り戻したら、お主なんかに負けはせんわい!」

 ラーサは眉を吊り上げて怒る。
 自身の体型を案外気にしているようだ。
 
「あの、母上……。そろそろ、そこの者達を排除しませんか」

 あまりにも低俗な争いが始まりそうだったためかザースと呼ばれた髑髏がラーサに進言する。

「たっ、確かにそうじゃな。ふん、かかって来るが良いぞ! こ! む! す! め! ど! も!」

 ラーサがこちらを挑発する。

「そう。なら行かせてもらうわ! 爆裂弾よ!」

 チユキはラーサに向けて複数の爆裂弾を放つ。
 この場には本はない。
 ある程度の威力なら、魔法を使っても良いだろう。

「ふん、効かぬわ!」

 ラーサの瞳は怪しく光る。
 するとチユキが放った爆裂弾が一瞬で消える。

「嘘! 魔法消去マジックイレイズ! 一瞬で!?」

 チユキは驚愕する。
 ラーサは何の詠唱もなくチユキの魔法を打ち消したのである。

「チユキさん! 私も行きますわ!」

 キョウカも魔法を唱える。
 威力を抑えるのは苦手だが、手加減できる相手ではなさそうだ。
 チユキは頷く。

「わかったわ! 一斉に行くわよ!」
「ええ、よろしくってよ!」

 チユキとキョウカはそろって魔法を放つ。
 しかし、どちらもラーサの瞳が光るとすぐに消えてしまう。

「妾の視界内で魔法を使える者はほとんどおらぬ。小娘には破れぬわ! さあ、これでも喰らうが良いぞ!」

 ラーサはそう言って笑うと腕の翼を羽ばたいて羽矢フェザーアローを放つ。
 慌ててチユキは魔法の盾マジックシールドを作ろうとするが発動しない。
 ラーサの視界に入っている状態では魔法は使えないようだ。

「「きゃああ!」」

 悲鳴を上げてチユキとキョウカは慌てて通路に戻る。

「まずいわ! こちらの攻撃は全て消されるのに相手は攻撃できる! キョウカさん! 一旦引くわよ!」

 チユキは叫ぶ。

「ダメですわ! チユキさん! 私達は時間稼ぎをするのですから! 引けませんわ!」

 キョウカはそう言って鞭を振るう。

「ぬわっ!」

 ラーサは慌てて鞭を避ける。
 どうやら、物理攻撃には対応してないようだ。

「鞭は防げないみたいね。キョウカさんお願い」
「わかりましたわ!」

 キョウカは遠くから鞭を振るう。
 
「痛い! 痛い!」

 ラーサは魔法の盾で鞭を防ごうとするが、上手くいかないようだ。
 明らかに反射神経が鈍い。

「これなら、何とかなりそうですわね」
「ええ、そうね」

 最初は不安だったが、相手は魔法を打ち消せるだけでそこまで強くはないようだ。
 羽矢は脅威だが、接近して杖で殴れば案外いけそうだ。

「ザースよ! 黙ってないでお主も戦え!」
「あの、私、あまり戦いは得意ではないのですが……。えっ、あ。わかりましたよ……。仕方がないですね、凍れる髑髏フロストスカル達よ、出てきなさい!」

 ザースは嫌そうに言うと冷気をまとった髑髏が周囲に現れる。

「少々の傷は覚悟しないといけなさそうね……」

 チユキは杖を構える。
 チユキもキョウカも肉弾戦が得意なわけではない。
 そして、それは向こうも同じのようだ。

(速く、来てよね。武器を使った戦いなんて苦手なんだから)

 泥沼の戦いが始まりそうであった。



 クロキとチユキが書庫で戦っている頃、地上では夜が訪れようとしていた。
 賢者の塔にチユキとサビーナを除く賢者達が集まっている。
 先程の会議の続きではない。
 新たに問題が発生したからだ。

「ペントスよ。外の様子はどうなっている?」

 マギウスは渋い顔で聞く。
 先程、郊外でアンデッドが大量に発生していると報告を受けたのだ。
 理由は何となく察している。
 万死の女王の影響のようであった。

「はい、城壁外にいる魔物の大半はゾンビです。どのようなゾンビかは、まだわかりません。また、ストリゲスの姿がいくつか見えます。少しやっかいかもしれません」

 ペントスは汗を書きながら報告する。
 城壁の外、外街に隣接する森から魔物が姿を現したという報告を受けたのはつい先程である。
 報告を受けたペントスは雇っている戦士を派遣した。
 そして、ゾンビとその他のアンデッドの姿を確認したのである。
 ゾンビは最下級のアンデッドだが、種類によっては病気や毒を撒き散らかすのもいるので、油断はできない。
 そして、ストリゲスは梟の翼を持つ人型の魔物で、魔力も高く死霊術を使うので、並みの戦士では歯が立たない。

「被害は出ておるのか?」
「また戦士もすぐに撤退させました。ただ周辺の住民の事は把握出来ていないので……、何とも……」

 ペントスは言葉を詰まらせる。
 外街に勝手に住み着いている者達の全てをペントス達は把握出来ていないのだ。
 そのため、被害がどれだけ出ているのかはわからない。
 アンデッドが相手である以上、勝手に住み着いた者達がどうなろうと関係ないとはいえなかった。
 なぜなら、そこに住んでいた者達が新たなアンデッドへと変わる可能性もある。

「取り合えず、城壁の門を閉じ。サリアにいる戦士達に召集をかけております。後、星護の戦士団に動いてくれるように要請をしようと思います」

 星護の戦士団は魔術師でもある戦士の一団の事だ。
 魔術を戦闘に使う事を研究しているサリアで最強の武闘派の集団で、その団員は魔法戦士と呼ばれている。
 今回のような事態には頼りになる存在である。
 ただ、協会はそもそも互助組織であり、協会の職員か、雇った者ならばともかく、ただの会員に命令する事はできない。
 そのため、要請という形を取る。
 
「ペントスよ。それならば、儂から要請しよう。その方が良かろう」

 練技の賢者ギムリンが頷く。
 星護の戦士団の持つ武器はギムリンが作った。
 また、ギムリンは戦士団の団員なので、ギムリンから要請した方が良さそうであった。

「ありがとうございます。ギムリン様、お願いします」
「うむ、それでは行ってくるぞ」

 そう言ってギムリンは部屋を出る。

「それにしても、急にストリゲスが動いたのはどういう事かの? 何が起こっているんじゃ?」

 深緑の賢者ラストスは不安そうに言う。
 ラストスはあまり争いごとが好きではない。

「おそらく、書庫に入った死の教団らしき者達が関係しているのでしょうな。そうでございましょう、ガドフェス殿」

 黄金の賢者ケプラーが自身の仮面を触りながら言う。
 書庫に侵入者が入り、呼応するようにストリゲス達が動いた。
 関係があると思うのが当然だろう。

「うむ、そうに違いあるまい。書庫に入った侵入者は死の教団に関係する者達。ストリゲスも死の神を崇める種族じゃからな。奴らが書庫で何かを企み、ストリゲス達が呼応しておるのじゃろうて」

 放浪の賢者ガドフェスは笑いながら言う。
 どこか楽しそうであった。

「ガドフェスよ。笑いごとではなかろう。サリアの危機かもしれぬのに」

 ラストスは眉を顰める。

「危機のう。果たして危機なのかな。どうじゃ、ヤーガ? お主ならばわかるのではないか?」

 ガドフェスは星見の賢者ヤーガを見る。
 ヤーガの占いの力なら、サリアの将来がある程度わかるはずであった。

「今の所、危険な予兆は感じぬな……。星は何も知らせてくれぬ」

 ヤーガは手に持つ水晶を見て言う。

「まあ、そうじゃろうな。あの者が書庫に入ったのだ。サリアは安泰じゃよ。にひひひ。そうは思わぬか、ケプラーよ?」

 ガドフェスはそう言って煙管を取り出す。
 吸う煙草には思考を冴えわたらせる効果があり、魔術師に人気の草である。
 
「そうですね。黒き嵐たるあの方が動いてくれているのです。心配はないでしょう」

 ケプラーそう言って図書館の方角を見る。
 ケプラーの考えでは真の戦いは地上ではなく、地下で行われる事になるはずであった。
 サリアの運命は黒い嵐と共にある。
 ケプラーはそう感じていた。







★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 更新です。
 ぶっちゃけ、賢人会議の後半の話はいらなかったりします。
 書籍化された小説と違い、一話事に話を切らないといけず、そこが悩ましいところだったりします。
 前半部分だけだと短すぎるので急遽、エピソードとして差し込みました。
 魔法戦士の設定等も作りたいですが、今後の話に絡んできそうもないですね……。
 文章が相変わらず酷いです。
 修正した方が良い箇所があったら教えてくださると嬉しいです。
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