335 / 431
第11章 魔術の学院
第24話 死の刃
しおりを挟む
前方にいるザガートが剣を構える。
チユキは杖を構える。
(正面からは戦えないわね……。距離を取らないと)
チユキとザガートの距離はかなり離れている。
近づかなければ大丈夫のはずであった。
チユキは魔法を唱える。
すると周囲に拳ほどの大きさの赤い光球が10個現れる。
「行くぞ!」
ザガートが剣を掲げてこちらに向かってくる。
その動きは早く、チユキの後ろにいるサビーナが悲鳴を上げる。
(うっ、かなり、速い)
ザガートの動きは早く、チユキは慌てて光球を前方に押し出し、後ろに下がる。
浮遊する爆裂球。
触れると爆発する魔法球である。
威力は抑えているが、それでもかなりの威力のはずであった。
ザガートは爆裂球に突っ込む。
小さな爆発が複数起こる。
「嘘!?」
チユキは驚きの声を出す。
ザガートは若干遅くなっただけで動きが止まらなかったのだ。
フードは焼け落ち、顔は半分なくなり、左肩はえぐれ、右の脇腹に大きな穴が開いているのに構わず向かってくる。
慌ててチユキは魔法の盾を作る。
次の瞬間ザガートは剣をチユキに向けて横に振る。
ザガートの剣はチユキの魔法の盾を斬り裂き、チユキが慌てて突き出した杖に当たる。
剣は杖を斬り落とす事はできず、チユキを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたチユキは後ろにいたサビーナにぶつかり、一緒に飛ばされる。
「きゃあああ!」
「いやああああ!」
チユキとサビーナは共に悲鳴を上げて転がる。
(まずいわ! 追撃が来る!)
チユキは何とか体を起こす。
さすがに爆発の影響があったのかザガートの次の行動は遅い。
しかし、体が急速に再生しているところを見ると追撃はするに来るだろう。
急ぎチユキは魔法を唱える。
「見えざる灰色の精霊よ!! 呼び声に応えて!! 敵を防ぐ壁となりなさい!! 真影霊壁!!」
チユキが魔法を唱えた時だった。
再生を終えたザガートが再び向かってくる。
ザガートは再び剣を振るう。
だが、先程とは違い、見えない壁に当たり剣はチユキまで届かない。
「何!?」
ザガートの驚く声。
必殺の剣が届かなかったので当然だろう。
その後何度も剣を振るうが、全てチユキまで届かない。
高い魔力を持つチユキが作った霊壁は神族でも壊す事は難しい。
ザガートの剣でも例外ではない。
(良かった。さすがにこれは斬れないみたいね)
チユキは手に持つ杖を見る。
オリハルコン製である魔法の杖が半ばまで斬られている。
咄嗟に防げたのも、奇跡であり、もう少しで死ぬところであった。
チユキの背に冷たい汗が流れる。
「やったじゃない。この壁はどれぐらい持つの?」
「しばらくは持つわよ。でも、これでこちらからも何もできないわ……」
真影霊壁はその場に透明な硬い壁を作り出すだけの魔法だ。
そして、その壁は作り出した術者であっても遮断する。
もちろん、消す事はできるが、それではこの壁を作り出した意味がない。
広い空間なら迂回する事もできるが、書庫の通路を塞ぐほどの大きさを作ったのでザガートはこちらに来る事が出来ないだろう。
そして、当然チユキもザガートに攻撃が出来ない。
つまり、膠着状態に陥った事になる。
「つまらぬ。来ないのなら我が母が力を取り戻すだけだ」
ザガートはつまらなそうに言う。
ザガートの言う通りであった。
チユキ達は侵入者を止めに来たのだ。膠着状態では意味がない。
「確かにそうね……。どうしようかしら」
チユキは溜息を吐き、ザガートを見る。
フードは爆発で消えて、顔が見える。
その顔は複数の種族を集めてつなぎ合わせたような顔だ。
顔には表情がなく、先程の言葉もその口から発せられたものではない。
どこから喋っているのかわからない。
体も顔を同じように複数の種族を集めたような体で鱗があったり棘のような突起物が合ったりしている。
チユキの爆裂球で破損した箇所は既に再生して、傷跡はない。
強力な魔法で全身を消滅させれば、さすがに再生しないかもしれないが、使えば書庫の本にも被害が出るだろう。
(さすがに手加減はできないわね……)
チユキはいざとなったら強力な魔法を使う事を決意する。
「ねえ、この間に逃げないの?」
サビーナが聞く。
「逃げないわよ。あれが来たら勝てるのだから……。貴方も知っているはずよ」
「……」
チユキの言葉にサビーナは沈黙する。
「ねえ、私も知っているって……」
「チユキさん!」
サビーナが言いかけた時だった。
チユキを呼ぶ声がする。
チユキが振り返るとキョウカがいる。
他にもはぐれた者全員がいる。
ようやくたどり着いたようだ。
「この壁は? そして、あれは?」
キョウカと一緒に来たクロキが霊壁とその向こうにいるザガートを見る。
「遅いわよ! 死ぬところだったんだから!」
チユキはクロキとキョウカを見て怒る。
「もう、チユキさん。そうは言っても、道がわからないですから、すぐには無理でしたわ」
キョウカが抗議をした時だった。
クロキ達のすぐ近くに何者かが現れる。
「ダンタリアス!?」
クロキは驚きの声を出す。
現れたのは書庫の管理者であるダンタリアスであった。
ただ、その姿はぼやけていて、透けて見える。
「皆様が揃いましたね。情報を伝えます。今奥ではこのような状態です」
そう言うとダンタリアスは空間に何かの映像を映し出す。
そこには小さな女の子と髑髏を持った女性がいる。
小さな女の子は部屋の中央にある水晶に手を当てていて、その体から淡い光を放っている。
髑髏を持った女性はそれを見守っているという状況だ。
「この先はこの者達しかいないようです。時間がありません……。後はお願いします……。私はこれ以上姿を……」
ダンタリアスはそう言って消える。
情報を伝えるために力を振り絞ったのだろう。
かなり無理をしていたのが伺えた。
「奥にいるのは2名。時間がないみたいだけど……」
「行くしかないですわ。そのためにはあそこにいる方を突破しないといけないみたいですけど……」
キョウカの言う通り、ザガートを何とかしなければならない。
しかし、相手の再生能力が高い。
時間がかかるかもしれなかった。
「まともに相手にしたら時間がかかりそうね。後いい加減彼らを地上に戻さないといけないでしょうし。サビーナ殿、彼らを連れて戻ってくれないかしら? 首飾りを上げるから」
チユキはサビーナとクロキの後ろにいたカタカケとミツアミとチヂレゲを見る。
彼らは自分たちがどうすれば良いのか不安そうだ。
「あら、私を解放してくれるの? この子達を連れて行けば良いのね。わかったわ」
サビーナは嬉しそうに言う。
もちろん、このまま行かせるわけにはいかない。
下手をするとカタカケ達を置いていくかもしれないからだ。
「貴方からもお願いしてくれないかしら? 貴方のいう事なら聞いてくれるでしょうからね」
チユキが言うとクロキとサビーナは不思議そうな顔をする。
「あら、なぜ私が彼の言う事を聞かなければいけないのかしら?」
「それは彼が貴方の言う暗黒騎士様だからよ」
「えっ!?」
サビーナは驚き、クロキの顔を眺める。
「あの? どういう事?」
「説明は面倒だから、早く暗黒騎士の姿になって命令しなさい! 時間がないんでしょ! もう正体を隠すより、見せた方が良いわよ!」
「はあ……」
クロキはカタカケ達を見て、躊躇するが、時間がないと思ったのか暗黒騎士の姿になる。
漆黒の鎧に込められた魔法の圧力が周囲に広がる。
その姿を見たサビーナとカタカケとミツアミとチヂレゲが驚きの声を出す。
「な、何だよ……。これは?」
腰を抜かしたチヂレゲが震えながら言う。
暗黒騎士の鎧には魔法が掛けられているのか見る者に恐怖を与えるようであった。
(何度も見ているのに、この姿を見ると圧倒されるわね)
普段は何の変哲もない男なのに、暗黒騎士となり剣を取ると途端に変わる。
普段の姿ばかりを見ていると騙されたような気持ちになる。
「ど、どういう事なんですか? チユキ様?」
カタカケの後ろに隠れたミツアミが説明を求める。
ちなみにカタカケは腰を抜かしてこそいないが、恐怖で動けなさそうだ。
「彼が、かつてアリアディア共和国を襲ってレイジ君に勝った暗黒騎士よ」
チユキは説明する。
アリアディア共和国を襲ったとされる暗黒騎士の噂はサリアまで届いている。
詳細は違うみたいだが、チユキはあえてそう説明する。
「まさか、貴方様が暗黒騎士様だったとは……。凡庸な男に擬態。騙されましたわ」
「えっ……。擬態? えっ?」
サビーナが頭を下げるとクロキは戸惑う声を出す。
さすがに暗黒騎士じゃない時の方が素だとは思わないようだ。
「早く、時間がないんでしょ。彼女に命令して?」
チユキは何か言おうとするクロキを遮ると命令するように促す。
「う~ん。よくわかんないんだけど。サビーナ殿。カタカケ殿達を地上まで運んでくれる」
「はい! お任せ下さい! さあ、貴方達! 行くわよ!」
サビーナは魔法でチヂレゲを持ち上げ、カタカケ達に動くように言う。
「これを持って行きなさい。私は大丈夫だから」
チユキはマギウスから預かった首飾りを投げて渡す。
これで彼らは安全に地上まで戻れるだろう。
また、何かあってもサビーナがいる。
サビーナが去るとクロキとチユキとキョウカが残される。
「さて、始めましょうか? 先の方にいる奴で大きな剣を持っている奴はザガート。その他は知らないわ。後ろから見ているだけ。特に強い力を感じないから、気を付けるのはザガートだけで良いと思うわ」
チユキはザガートを見て言う。
ザガートは霊壁の破壊を諦め元の場所まで戻っている。
フードを被った者達からは特に強い力を感じない。
無視しても良いだろうとチユキは判断する。
「それから、ザガートの再生能力はすごいわ。顔や腕を吹き飛ばしても、すぐに再生してしまうの。危うく死にそうなって壁を作ったってわけ」
「えっと、再生? 大丈夫かな……?」
クロキは漆黒の剣を呼び出すと不安そうな声を出す。
「何、不安そうにしているのよ。貴方なら勝てるでしょうに……」
チユキは何で不安そうにするのか疑問に思う。
どう考えてもクロキの方が強いのだから。
これがレイジだったら、「俺に任せろ」とすぐに突っ込んでいくだろう。
「チユキさん。クロキさんは時間を気にしているのですわ。そこで、わたくし思うのですが、あの目の前にいる方達はクロキさんに任せてわたくし達だけで先行するのはいかがかしら?」
突然キョウカが突拍子もない事を言う。
「あのねえ、キョウカさん……」
「いいえ、チユキさん。この奥には女性が二人だけ。それに妨害するだけで良いのですわ。だから行きますわよ」
キョウカは先行する気でいるようだ。
ほっておくと勝手に1人で行きかねない。
(私としては怖いのだけどね……)
チユキは先程のザガートの剣を思い出して震える。
正直に言うとクロキの後ろで支援に徹したい。
しかし、キョウカだけを行かせるわけにはいかない。
一緒に行くしかないだろう。
チユキは覚悟を決める。
「え、えっと、あの大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫ですわ。クロキさん」
キョウカは笑う。
その自信はどこからくるのか問いたくなる。
「はあ、もう! 仕方ないわね! 霊壁を消すわよ! 準備は良い!?」
チユキは魔法を唱え、霊壁を消す事にする。
クロキがザガートを押さえている間に脇をすり抜け先へと進む。
作戦開始であった。
チユキは杖を構える。
(正面からは戦えないわね……。距離を取らないと)
チユキとザガートの距離はかなり離れている。
近づかなければ大丈夫のはずであった。
チユキは魔法を唱える。
すると周囲に拳ほどの大きさの赤い光球が10個現れる。
「行くぞ!」
ザガートが剣を掲げてこちらに向かってくる。
その動きは早く、チユキの後ろにいるサビーナが悲鳴を上げる。
(うっ、かなり、速い)
ザガートの動きは早く、チユキは慌てて光球を前方に押し出し、後ろに下がる。
浮遊する爆裂球。
触れると爆発する魔法球である。
威力は抑えているが、それでもかなりの威力のはずであった。
ザガートは爆裂球に突っ込む。
小さな爆発が複数起こる。
「嘘!?」
チユキは驚きの声を出す。
ザガートは若干遅くなっただけで動きが止まらなかったのだ。
フードは焼け落ち、顔は半分なくなり、左肩はえぐれ、右の脇腹に大きな穴が開いているのに構わず向かってくる。
慌ててチユキは魔法の盾を作る。
次の瞬間ザガートは剣をチユキに向けて横に振る。
ザガートの剣はチユキの魔法の盾を斬り裂き、チユキが慌てて突き出した杖に当たる。
剣は杖を斬り落とす事はできず、チユキを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたチユキは後ろにいたサビーナにぶつかり、一緒に飛ばされる。
「きゃあああ!」
「いやああああ!」
チユキとサビーナは共に悲鳴を上げて転がる。
(まずいわ! 追撃が来る!)
チユキは何とか体を起こす。
さすがに爆発の影響があったのかザガートの次の行動は遅い。
しかし、体が急速に再生しているところを見ると追撃はするに来るだろう。
急ぎチユキは魔法を唱える。
「見えざる灰色の精霊よ!! 呼び声に応えて!! 敵を防ぐ壁となりなさい!! 真影霊壁!!」
チユキが魔法を唱えた時だった。
再生を終えたザガートが再び向かってくる。
ザガートは再び剣を振るう。
だが、先程とは違い、見えない壁に当たり剣はチユキまで届かない。
「何!?」
ザガートの驚く声。
必殺の剣が届かなかったので当然だろう。
その後何度も剣を振るうが、全てチユキまで届かない。
高い魔力を持つチユキが作った霊壁は神族でも壊す事は難しい。
ザガートの剣でも例外ではない。
(良かった。さすがにこれは斬れないみたいね)
チユキは手に持つ杖を見る。
オリハルコン製である魔法の杖が半ばまで斬られている。
咄嗟に防げたのも、奇跡であり、もう少しで死ぬところであった。
チユキの背に冷たい汗が流れる。
「やったじゃない。この壁はどれぐらい持つの?」
「しばらくは持つわよ。でも、これでこちらからも何もできないわ……」
真影霊壁はその場に透明な硬い壁を作り出すだけの魔法だ。
そして、その壁は作り出した術者であっても遮断する。
もちろん、消す事はできるが、それではこの壁を作り出した意味がない。
広い空間なら迂回する事もできるが、書庫の通路を塞ぐほどの大きさを作ったのでザガートはこちらに来る事が出来ないだろう。
そして、当然チユキもザガートに攻撃が出来ない。
つまり、膠着状態に陥った事になる。
「つまらぬ。来ないのなら我が母が力を取り戻すだけだ」
ザガートはつまらなそうに言う。
ザガートの言う通りであった。
チユキ達は侵入者を止めに来たのだ。膠着状態では意味がない。
「確かにそうね……。どうしようかしら」
チユキは溜息を吐き、ザガートを見る。
フードは爆発で消えて、顔が見える。
その顔は複数の種族を集めてつなぎ合わせたような顔だ。
顔には表情がなく、先程の言葉もその口から発せられたものではない。
どこから喋っているのかわからない。
体も顔を同じように複数の種族を集めたような体で鱗があったり棘のような突起物が合ったりしている。
チユキの爆裂球で破損した箇所は既に再生して、傷跡はない。
強力な魔法で全身を消滅させれば、さすがに再生しないかもしれないが、使えば書庫の本にも被害が出るだろう。
(さすがに手加減はできないわね……)
チユキはいざとなったら強力な魔法を使う事を決意する。
「ねえ、この間に逃げないの?」
サビーナが聞く。
「逃げないわよ。あれが来たら勝てるのだから……。貴方も知っているはずよ」
「……」
チユキの言葉にサビーナは沈黙する。
「ねえ、私も知っているって……」
「チユキさん!」
サビーナが言いかけた時だった。
チユキを呼ぶ声がする。
チユキが振り返るとキョウカがいる。
他にもはぐれた者全員がいる。
ようやくたどり着いたようだ。
「この壁は? そして、あれは?」
キョウカと一緒に来たクロキが霊壁とその向こうにいるザガートを見る。
「遅いわよ! 死ぬところだったんだから!」
チユキはクロキとキョウカを見て怒る。
「もう、チユキさん。そうは言っても、道がわからないですから、すぐには無理でしたわ」
キョウカが抗議をした時だった。
クロキ達のすぐ近くに何者かが現れる。
「ダンタリアス!?」
クロキは驚きの声を出す。
現れたのは書庫の管理者であるダンタリアスであった。
ただ、その姿はぼやけていて、透けて見える。
「皆様が揃いましたね。情報を伝えます。今奥ではこのような状態です」
そう言うとダンタリアスは空間に何かの映像を映し出す。
そこには小さな女の子と髑髏を持った女性がいる。
小さな女の子は部屋の中央にある水晶に手を当てていて、その体から淡い光を放っている。
髑髏を持った女性はそれを見守っているという状況だ。
「この先はこの者達しかいないようです。時間がありません……。後はお願いします……。私はこれ以上姿を……」
ダンタリアスはそう言って消える。
情報を伝えるために力を振り絞ったのだろう。
かなり無理をしていたのが伺えた。
「奥にいるのは2名。時間がないみたいだけど……」
「行くしかないですわ。そのためにはあそこにいる方を突破しないといけないみたいですけど……」
キョウカの言う通り、ザガートを何とかしなければならない。
しかし、相手の再生能力が高い。
時間がかかるかもしれなかった。
「まともに相手にしたら時間がかかりそうね。後いい加減彼らを地上に戻さないといけないでしょうし。サビーナ殿、彼らを連れて戻ってくれないかしら? 首飾りを上げるから」
チユキはサビーナとクロキの後ろにいたカタカケとミツアミとチヂレゲを見る。
彼らは自分たちがどうすれば良いのか不安そうだ。
「あら、私を解放してくれるの? この子達を連れて行けば良いのね。わかったわ」
サビーナは嬉しそうに言う。
もちろん、このまま行かせるわけにはいかない。
下手をするとカタカケ達を置いていくかもしれないからだ。
「貴方からもお願いしてくれないかしら? 貴方のいう事なら聞いてくれるでしょうからね」
チユキが言うとクロキとサビーナは不思議そうな顔をする。
「あら、なぜ私が彼の言う事を聞かなければいけないのかしら?」
「それは彼が貴方の言う暗黒騎士様だからよ」
「えっ!?」
サビーナは驚き、クロキの顔を眺める。
「あの? どういう事?」
「説明は面倒だから、早く暗黒騎士の姿になって命令しなさい! 時間がないんでしょ! もう正体を隠すより、見せた方が良いわよ!」
「はあ……」
クロキはカタカケ達を見て、躊躇するが、時間がないと思ったのか暗黒騎士の姿になる。
漆黒の鎧に込められた魔法の圧力が周囲に広がる。
その姿を見たサビーナとカタカケとミツアミとチヂレゲが驚きの声を出す。
「な、何だよ……。これは?」
腰を抜かしたチヂレゲが震えながら言う。
暗黒騎士の鎧には魔法が掛けられているのか見る者に恐怖を与えるようであった。
(何度も見ているのに、この姿を見ると圧倒されるわね)
普段は何の変哲もない男なのに、暗黒騎士となり剣を取ると途端に変わる。
普段の姿ばかりを見ていると騙されたような気持ちになる。
「ど、どういう事なんですか? チユキ様?」
カタカケの後ろに隠れたミツアミが説明を求める。
ちなみにカタカケは腰を抜かしてこそいないが、恐怖で動けなさそうだ。
「彼が、かつてアリアディア共和国を襲ってレイジ君に勝った暗黒騎士よ」
チユキは説明する。
アリアディア共和国を襲ったとされる暗黒騎士の噂はサリアまで届いている。
詳細は違うみたいだが、チユキはあえてそう説明する。
「まさか、貴方様が暗黒騎士様だったとは……。凡庸な男に擬態。騙されましたわ」
「えっ……。擬態? えっ?」
サビーナが頭を下げるとクロキは戸惑う声を出す。
さすがに暗黒騎士じゃない時の方が素だとは思わないようだ。
「早く、時間がないんでしょ。彼女に命令して?」
チユキは何か言おうとするクロキを遮ると命令するように促す。
「う~ん。よくわかんないんだけど。サビーナ殿。カタカケ殿達を地上まで運んでくれる」
「はい! お任せ下さい! さあ、貴方達! 行くわよ!」
サビーナは魔法でチヂレゲを持ち上げ、カタカケ達に動くように言う。
「これを持って行きなさい。私は大丈夫だから」
チユキはマギウスから預かった首飾りを投げて渡す。
これで彼らは安全に地上まで戻れるだろう。
また、何かあってもサビーナがいる。
サビーナが去るとクロキとチユキとキョウカが残される。
「さて、始めましょうか? 先の方にいる奴で大きな剣を持っている奴はザガート。その他は知らないわ。後ろから見ているだけ。特に強い力を感じないから、気を付けるのはザガートだけで良いと思うわ」
チユキはザガートを見て言う。
ザガートは霊壁の破壊を諦め元の場所まで戻っている。
フードを被った者達からは特に強い力を感じない。
無視しても良いだろうとチユキは判断する。
「それから、ザガートの再生能力はすごいわ。顔や腕を吹き飛ばしても、すぐに再生してしまうの。危うく死にそうなって壁を作ったってわけ」
「えっと、再生? 大丈夫かな……?」
クロキは漆黒の剣を呼び出すと不安そうな声を出す。
「何、不安そうにしているのよ。貴方なら勝てるでしょうに……」
チユキは何で不安そうにするのか疑問に思う。
どう考えてもクロキの方が強いのだから。
これがレイジだったら、「俺に任せろ」とすぐに突っ込んでいくだろう。
「チユキさん。クロキさんは時間を気にしているのですわ。そこで、わたくし思うのですが、あの目の前にいる方達はクロキさんに任せてわたくし達だけで先行するのはいかがかしら?」
突然キョウカが突拍子もない事を言う。
「あのねえ、キョウカさん……」
「いいえ、チユキさん。この奥には女性が二人だけ。それに妨害するだけで良いのですわ。だから行きますわよ」
キョウカは先行する気でいるようだ。
ほっておくと勝手に1人で行きかねない。
(私としては怖いのだけどね……)
チユキは先程のザガートの剣を思い出して震える。
正直に言うとクロキの後ろで支援に徹したい。
しかし、キョウカだけを行かせるわけにはいかない。
一緒に行くしかないだろう。
チユキは覚悟を決める。
「え、えっと、あの大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫ですわ。クロキさん」
キョウカは笑う。
その自信はどこからくるのか問いたくなる。
「はあ、もう! 仕方ないわね! 霊壁を消すわよ! 準備は良い!?」
チユキは魔法を唱え、霊壁を消す事にする。
クロキがザガートを押さえている間に脇をすり抜け先へと進む。
作戦開始であった。
1
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる