暗黒騎士物語

根崎タケル

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第11章 魔術の学院

第19話 ラーサの瞳

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 万死の女王ラーサとその仲間達は禁書庫の奥へと進む。

「おかしいのう? 迷宮の動きが止まったわ」

 ラーサは首を傾げる。
 迷宮は形を変えて、ラーサ達を迷わせようとしていた。
 しかし、ラーサの瞳はその動きを読み取り、正しい道へと進んでいた。
 その妨害が急に消えたのだ、疑問に思うのも当然であった

「諦めたのではありませんか? 母上?」

 ザースは笑いながら言う。
 
「ううむ、わからぬ。もしかすると新たに入って来た者達が関係しているかもしれぬ」

 ラーサは上を見る。
 妹である運命の女神カーサ程ではないが、カーサの瞳も様々なものを見る事ができる。
 上層の階で何者かが入って来た者が影となって見えていた。
 おそらく、侵入に気付いた者がラーサ達を追いかけて来たのだろう。
 その動きは予想以上に速く、ラーサを驚かせる。

「新たに入って来た者? もしや、件の勇者の仲間である賢者ですかな」
「おそらくそうじゃろうな、嫌な感じがする。勇者の仲間とやらはそんなに強いのかの?」

 実はラーサは嫌な予感がしていた。
 戦闘力ではカーサ以上だが、見通す能力は劣る。
 そのため、何度か失敗をした事もあった。
 今現在ラーサが弱体化しているのは、過去にモデスと戦うという愚行を犯したからに他ならない。
 
「黒髪の賢者チユキですか? 母上よりも強そうには見えなかったのですがね。しかし、母上の予感はあたりますからな。油断をしない方が良いでしょう」
「そのとおりじゃ。それに、この中に入った以上は覚悟を決めねばなるまい。引き返せば出会う事になりそうなのじゃからな」

 引き返せばどのみち鉢合わせる事になる。
 やりすごして逃げられるとは限らない。
 ならば先に進むしかないのである。
 
「それにしても、残して来た者達の様子がおかしいのう。追いかけて来た者どもと遭遇したみたいじゃが、その後何も動きがない……ん? これは」

 ラーサが疑問に思った時だった。
 突然迷宮が動き出したのである。

「むう、これは今までとは違いますな。かなり大きな動きです!?」

 ザースが驚くのも無理はない。
 迷宮はこれまでラーサ達に気付かれないように動き、迷わせようとしていた。
 このようにわかりやすく動くことはなかったのである。
 突然周囲が動き出したのでラーサ達は驚く。

「これは、何が起こっているのでしょうか?」
「さあのう! じゃが、これは好機じゃぞ! 魔力に干渉してくれる!」

 そう言うとラーサは瞳を輝かせる。
 迷宮が大きく動くたびに膨大な魔力の流れを感じていた。
 魔力の流れを見る事できるカーサは、その流れに干渉する事ができる。
 そして、本来の意図とは違った結果を出す事ができるのだ。

「迷宮を管理している者よ! 妾の力を見るが良いぞ!」

 ラーサは両腕の翼を広げ、迷宮の流れる魔力に干渉する。
 それにより、迷宮の動きは不規則に変わるのだった。




「あ、これは……」

 クロキの目の前でダンタリアスの様子が変わる。
 ダンタリアスは戦いの場を作るために本を動かす最中であった。
 その最中突然体が揺れて頭を前後に振り始める。

「ダンタリアス!? 大丈夫!?」
 
 異常事態を察したクロキはダンタリアスに駆け寄る。

「クロキさん!?」
「えっ!? ちょっと!?」

 キョウカとチユキの声がして周囲を見ると今度は周囲の本棚に床や天井が動き出し、クロキとキョウカ達の間に壁を作る。

「これは!? いったい!?」

 クロキ周囲が不規則に動き、景色が変わっていく。
 落ち着いた時にはクロキとダンタリアスしかおらず。
 一緒にいたキョウカ達とははぐれてしまう。
 
「ダンタリアス? どういう事なの?」
「あの女神の力を甘く見ていました。魔力の流れをかき乱されました。書庫の制御がしばらくできません……」

 ダンタリアスは淡々と説明する。
 書庫の形を変える為に魔力を使っていたが、その魔力の流れに介入して、本来の動きとは違う形になってしまったのだ。
 通常ではありえない事である。
 万死の女王ラーサの力を侮っていたのだ。
 上手くすれば相手の目的を果たす前に取り押さえる事ができただろう。
 しかし、その思惑は上手くいかず、状況は悪化したようである。

「そう、他の……。キョウカさん達はどこに?」
「ここからかなり離れた所にいるようです。申し訳ございません。これ……、以上は……、クロキ様、動けません……」

 ダンタリアスは淡々と答える。
 良く見るとその姿が薄っすらとぼやけている。
 具現化した体が維持できなくなっている様子であった。

「無理はしないで休んでいて、あの女神は自分が何とかする」

 クロキは先に進むことにする。

「防衛機能も……おかし……なっています。気を付けて……」

 姿を維持できなくなり、ダンタリアスはそう言って消える。
 
「まずいな、まさかこうなるなんて」

 クロキは唇を噛み、急ぎ先へと進むのだった。





「えっと、どうなっているの」

 カタカケは周囲を見る。
 クロキやチユキにサビーナの姿が見えない。
 急に周囲が動き出し、引き離されてしまったのだ。

「それは私が聞きたいわ? まさか、こうなるなんて」

 ミツアミが不安そうな声を出す。
 不安になるのも無理はない。
 頼りになりそうなチユキがいなくなったのだ。
 この書庫を管理しているダンタリアスの姿も見えない。

「本当になあ、どうなるかわからねえもんだなあ」

 チヂレゲは周囲を見て言う。
 何だろうか吹っ切れた様子だ。
 元気が出て良かったと思う。

「ちょっと……。何であんたと一緒なのよ! ここを出たら裁きにかけてやるからね!」

 ミツアミはチヂレゲに厳しい視線を向ける。
 チヂレゲは死の教団と関りがあり、魔術師協会の規則に違反している。
 ここを出たら追放は間違いないだろう。

「喧嘩はおよしなさい。クロキさん達とはぐれてしまいましたわ。速く追いかけませんと」

 キョウカは溜息を吐く。

「そうだぜ、キョウカ様の言う通り。ここは協力してすすむべきだぜ。へへ、俺の名はチヂレゲ。よろしくお願いしますぜ、勇者様の妹君」

 チヂレゲはあからさまにキョウカにゴマをする。
 キョウカに取り入って助けてもらおうという魂胆なのだろう。
 何とも変わり身が早い。
 
「あのキョウカ様。自分からもお願いします。チヂレゲに寛大な処分を!」 

 カタカケも頭を下げる。
 
「わたくしに言われても困りますわ。まあ、クロキさんが許したのですから、きっと大丈夫だと思いますわ。それよりも先に進みますわよ」

 キョウカは先へと進む。
 
「へへ、お供します」
 
 チヂレゲも当然後へと続く。

「私としては帰りたいんだけど……」

 ミツアミは泣きそうな顔で言う。
 しかし、1人で動くのが怖いのか一緒に行くつもりのようだ。

「ごめん。ミツアミさん。出来ればチヂレゲを許して欲しいんだ」
「許す、許さないを決めるのは私じゃないわ。全くどうしてこうなっちゃうんだろう」

 ミツアミは泣きながら歩く。
 こうしてカタカケ達は迷宮と化した書庫を進むのだった。



「これはどういう状況なのかしら……?」
「それは私が聞きたいわ……」

 チユキとサビーナは顔を見合わせる。
 チユキはサビーナが先に進まないように監視するために側にいた。
 そのため一緒に引き離されてしまったのである。
 クロキもキョウカもいない。
 明らかに異常事態である。
 
「それにしても、まさか貴方と一緒だなんて……」
「それも私が言いたいんだけど……」

 チユキとサビーナは睨み合う。
 先に行こうするのを邪魔してから、サビーナは敵対感情を隠そうともしない。
 そもそも、最初からサビーナは敵対的だったとチユキは思う。
 彼女は何者なのか?
 推測はできるが、確証はない。

「それよりも先に進むわよ。それがお望みなんでしょう?」

 チユキは先へと促す。

「ええ、もちろんよ。あの御方にお会いしないといけないわ」

 サビーナは妖艶な笑みを浮かべる。
 チユキはそんなサビーナを眺める。
 意外とわかりやすい。
 そんな事を考えながらチユキ達は先へと進むのだった。




「どうやら上手くいったわい。奴らを引き離せたぞえ」

 上を見てラーサは笑みを浮かべる。
 魔力の流れを逆流させた事で書庫は管理者の思惑とは違う形へと変わった。
 これで時間を稼げるだろう。

「さて、じゃが、もう一歩じゃ! ザガートよ配下の者達と共にここに残り奴らの妨害をせよ!」

 ラーサがそう言うとザガートは何も言わずに頭を下げる。
  
「そして、ザースよ! お前は共に来て、妾が力を取り戻すのを手伝え!」
「はい、母上。我が知識を存分に使ってくだされ」
 
 ザースはそう言って笑う。

「ふふふ、妾の復活ももうすぐじゃ! しかし、なぜじゃ? 嫌な予感が消えぬ。どういう事じゃ? まあ良い! 先に進むぞ」

 そう言ってラーサは先へと進むのだった。

 




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